(ちょこっと短い話)休眠口座の問題を知らなかったら、やばいことになりました。

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 「休眠口座」の問題を知らないと、SFな恐怖に、おそわれるだろう。きっと、君は…。時間(とき)の涙を、見るだろう。

 時間を旅するSFな経験は、恐怖だ。

 「休眠口座」は、怖いんだ。

 小学生のときに、まわりから、言われたことがある。

 「いいなあ」

 「かね、もっているよな?」

 「しょうがくせい、なのに?」

 「やみバイトとか、しているの?」

 もちろん、ちがう。

 「実は、ばあばとグルになっていました」

 裕福な高齢者と手を組むと、良いことがあった。

 「金を預けて利息をもらう」良い生活が、できたから。

 当時は、金の利息の良い社会だった。

 「銀行とかに、 100万円を預ける。そうすると、 1年後には、 105万とか 106万円になって戻ってきた」

 利息だけで暮らせた高齢者も、多かった。今どき世代の子たちの多くは、知らないのかもしれないけれど。

 残念なのは、俺が高校生のときに、そのばあばが、亡くなってしまったことだ。

 最近は、夢に、ばあばが出てくるようになった。

 俺の夢に立つばあばは、「見るなあ」と言いながら、口を、パクパクしていた。

 「金魚じゃ、あるまいし」

 ばあばがいなくなってしまってから、20年近く。

 毎日のように、ばあばが、夢に現れる。

 「見るなあ、見るなあ」って、何を言いたいんだ?

 「ばあば、かんべんしてくれよ!」

 俺は、金融機関に、金を下ろしにいった。 ATMで金を下ろすのは、子どものとき以来じゃないか?

 その金で花を買って、ばあばの墓に、供えた。

 帰宅。

 新聞を見て、驚いたよ。

 「金融機関に金を預金したり貯金して、長く、手をつけずにいたとする。すると、ずっと長く放っておかれたその金は、時効を迎えて、国に没収されてしまう。もう、引き出せなくなってしまう」

 知らなかったなあ。

 で、友だちに言ったらさ。

 「…休眠口座のこと、だろう?お前、そんなことも、知らなかったのか?」

 笑われた。

 「休眠口座の問題」は、もう、10年以上前から、ニュースになっていたらしい。

 「あ…。そういうことか!」

 ばあばは、夢の中で、この問題に注意しなさいと言いたかったんだろう。

 「なんて、ミラクル!ばあばの墓に供える花を買うために金を下ろしたことで、時効すれすれで、俺は助かることになったなんて。あの日、 ATMを操作していなかったら、俺の金はすべて、国に持っていかれるところだったんだ…」

 ばあばに、感謝だ。

 「ばあば、ありがとな?また、夢に、出てきておくれよ」 

 そうしたら、思い出したことがあった。

 「…そうだ!あの、貯金箱!」

  1人暮らしをはじめていたアパートから、実家に、戻る。

 自宅の自室に、マイ貯金箱をしまっていたのを、思い出したのだ。

 「ど、どうしたの?」

 母親が、俺の急な帰宅に驚いていた。

 「あの金って、今、どうなったろう?」

 最後に貯金してから、20年近くが、経っていた。

 俺の、休眠口座。

 ばあばとの、思い出。

 そうそう。

 思い出したよ。

 たまに、「貯金箱の中から、金がなくなる事件」が、起きていたんだっけ。

 「…あった。これだ」

 押し入れの奥にしまっておいたその貯金箱を、開ける。

 金は、すっかり、なくなっていた。

 そのかわり、ばあばの手袋が出てきた。

 時を超える、恐怖。

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