戦後日本必勝論【不定期更新】

竹本田重郎 

第1話 メイド・イン・ジャパンの勝利

1950年4月1日


 太平洋体制と呼ばれる日本を中心に据えるアジアからオセアニアに至るブロックが改められた。アジア太平洋条約を根拠にアジア太平洋条約機構(APTO)が成立する。これは従来の太平洋体制を格上げしており、アメリカ主導の北大西洋条約機構(NATO)と後のWTOに対抗する目的が込められた。


 当然のように盟主は日本に定まるが、対等のパートナーとして中華民国がある。APTO参加国はインド、パキスタン、バングラデシュ、ビルマ、スリランカ、ラオス、インドネシア、シンガポール、カンボジア、ベトナムとその他の太平洋の島々がある。日本委任統治領以外の独立国からはタイ王国とフィリピンが参加を表明した。友邦国扱いにオーストラリア、ニュージーランド、カナダが加入し、特例としてアラスカ(州の高度な自治権による)が認められている。


 文字から分かるがアジアから太平洋にかかる巨大な組織であり、NATOと後のWTOと並んで三国志を為した。嘗てのブロック経済と同く内部は関税優遇など自由貿易を促進する。同時に軍事同盟の側面を有するため日本軍の中古品が出回り、旧英領以外は日本製を積極的に導入して装備を充実化した。旧英領はイギリス製やフランス製、アメリカ製が多く使われる。しかし、部分的に日本製を導入して混合の色が濃くなり始めた。


 APTOは軍事同盟の側面から加盟国に対し攻撃があった場合は、その国の要請に基づいて軍事介入できる。これは戦争でなくても海賊など通商が脅かされた場合も当てはまった。よって、常時日本海軍の護衛総隊が介入している。加盟国の軍隊は日本軍の研修を受けたり、合同訓練を開催したり、観艦式やパレードを行ったりと協力体制が強固に作られた。


 特に有名な例では日本海軍の旧式艦が多数譲渡され、日本海軍は戦力の圧縮を進める。空母部隊も効率化を進め、皇国は現状維持と言う名の改修を繰り返し、巡洋艦以下は高性能化と小型化を両立させた。対艦戦闘にミサイルが登場すると水雷艇を基にミサイル艇を建造してノウハウを蓄積する。それから、防空駆逐艦や特型駆逐艦に対艦ミサイルを装備して一先ずのミサイル駆逐艦を揃えた。


 近代海軍の創設間もない国々では中古品と雖も日本製は最高級品である。同じく譲渡を打診された米国製を圧倒する性能だった。中古で安いのに高品質でコストパフォーマンスに優れる。また、旧軍人の指導要員をセットにするお値打ちとは驚かれた。各国は挙って日本製中古品を求めて米国製が売れ残るカオスを生じさせる。


 旧英領の都合で欧米製が大半を占めたオーストラリア、ニュージーランド、カナダも中古品を購入した。海上艦は日本製が一番という認識は変わらない。一定の経済力があるため中古品どころか沿岸警備用の舟艇も発注した。


 それでは、世界市場に進出するメイド・イン・ジャパンの一例を見ていこう。


~オーストラリア~


 オーストラリアとニュージーランドの間の海を飛行艇が哨戒飛行した。


「最近はソ連の潜水艦が動き回っている。アメリカの動きを知るために太平洋に出ているようだ」


「反応ありませんね。変な姿も見られません」


「それなら好都合だ。面倒くさい仕事は減るし、安全が確保されるしでな」


 オーストラリア海軍は祖国が大陸のため、どうも小さそうに思われがちである。いいや、全くそんなことはなかった。さすがに日米英には及ばずとも、十分に強力な戦力が揃っている。太平洋の一大海域に面しているため、最近は米ソの対立に伴い国籍不明の潜水艦に悩まされた。もちろん、無視するわけにはいかない。喫緊の課題として対潜戦力の拡充が浮上した。


 しかし、国産で揃えるには間に合わない上に質は不足している。対潜に限らず国籍不明の船舶の捜索など多目的に使用出来る哨戒機を求めた。まずは、祖国の広大な大地を活かした陸上機が一番に出現するが、海を挟むニュージーランドと協力することが追加されると不適当になる。ここは飛行艇を運用するのが好ましいと判断された。飛行艇となれば買い求める先は唯一だろう。


「この飛行艇はカタリナの比じゃない。陸上にはP-2があっても、負けず劣らずだ。やっぱり、飛行艇は日本製に限る」


 第二次世界大戦でカタリナ飛行艇を運用するが性能は不足が多かった。飛行艇について英米を頼るのは決定的な誤りと断じる。なぜなら、世界市場で圧倒的なシェアで一位を保持する日本製を無視することになるのだ。


 日本の中島・川西社製飛行艇はイギリス軍での実績から高い評価を得ている。カタリナ飛行艇を押しのけてイギリス軍に採用されると、整備の都合でオーストラリア軍とカナダ軍でも運用された。全ての性能においてアメリカ製やイギリス製を上回る。双発飛行艇が多く見られる中で重爆撃機に匹敵する四発飛行艇さえ繰り出した。


 もはや、軍か民か問わず飛行艇分野は日本が圧勝を納め続けている。


「ウルル飛行艇の性能があれば、どんな不審船を見逃しません。中の対潜機器も日本製ですが、運用開始後もメカニックが残って改良してくれました。あのサービスはアメリカとイギリスにはありませんね」


「ご丁寧な対応だった。追加料金が要らないってのは、日本人が職人気質っていうのがにじみ出てる」


 オーストラリア軍の対潜哨戒機に使える双発飛行艇の要求に対し、中島・川西社は最新の一〇式飛行艇を基に専用仕様に改修して対応した。一〇式は四式飛行艇の後継機で双発ながら、強度を確保した上での軽量化や国産ターボプロップにより、なんと四発機並みの航続距離がある。また、川西独自のフラップは低空飛行を容易くした上に重戦闘機に勝てる機動性の高さで曲芸飛行も行えた。


 常軌を逸した高性能な機体の内部にはUボートキラーで名を馳せた対潜機器が積み込まれる。オーストラリア軍仕様だが、日本製で埋め尽くされた。運用に際して機体内は英語の表記であり、英語のマニュアルも用意されるが、現地兵のために川西社員が出張して改善に努める。通訳の助力を得ながら丁寧に一つ一つ説明したかと思えば、実地で露呈した問題には直ちに快勝した。細かな要望にも応え続ける様子は元より厚い信頼を確固たるものにする。


「そう言えば、噂程度に効いた話ですが。あのギリシャ内戦に実は日本軍が参加して王国派と共に戦ったらしいと」


「あり得ないことじゃないだろう。クレタ島を死守した英傑は語り継がれている」


 昨年に終結した内戦にギリシャが挙げられた。ギリシャは第二次世界大戦で共産ゲリラが活動しドイツ・イタリア軍を追い出している。戦後には共産ゲリラが人民解放を宣言して国家転覆を図り、小規模な戦闘から国土全体を火に包む大規模な内戦へ繋がった。1946年に始まると47年からアメリカの支援(トルーマン・ドクトリン)が行われ、最終的にはギリシャ共産勢力の内部分裂と言う自滅で王国派が勝利する。


 ギリシャ内戦は自由陣営が勝利したと喧伝されたが、実はアメリカの支援は大して意味がない。むしろ、現地に留まった少数の日本軍が活躍したと噂された。確かに第二次世界大戦において、クレタ島死守でギリシャを救った歴史が残される。とは言え、本土解放は日本軍から米英軍に交代した。終戦から約5年が経過しているため、ギリシャ本土に兵士が残っているとは考えられない。


 よって、信ぴょう性に欠ける噂と断じた。


「亡霊として現れてギリシャのため戦ったんだろう。そういう噂はよくあるもんだ」


「ですね。任務に集中します」


 はたして、その噂の真偽はいかに。

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