僕らのメメントモリ

Kurosawa Satsuki

短編

あらすじ:

この物語は、主人公の白川香織が、

様々な経験を通し、

カウンセラーになるという、

自身の夢を叶えるまでの成長記録である。




一章:

私のクラスには、翡翠直人(ひすいなおと)という

意地悪な男の子がいる。

私はあまり危害を加えられたことは無いけど、

他のクラスメイトの私物を盗んだり、

近所のコンビニやスーパーで万引きをしたり、

自分が起こした問題を人のせいにしたり、

平気で嘘をつく癖があり、クラス一の問題児として、みんなが彼の事を嫌っている。

構って欲しくてやっているんだろうけど、

いくら注意しても、先生に怒られても聞かないので、みんな彼に近寄らなくなった。

彼の両親はというと、先生から聞いた話では、

一切彼に興味が無いので、どれだけ彼が悪さをしても、叱りもせずに放置しているとのこと。

所謂、ネグレクトというやつだ。

近年では、過保護な親が増えている為、

責任を学校に押し付けるというのはよくあるのだけど、彼の両親はそれすらしない。

そう、先生が職員室で愚痴をこぼしていた。

「委員長の君になら彼を説得できると思ったんだがなぁ…」

「先生、まだ私は諦めていませんよ?」

「え?」

「もう少し様子を見ましょう。

私も頑張ってみます」

「そうか。頼んだそ、白川」

「はい」

白川香織(しろかわかおり)、小学六年生。

私にもまだできることがある。

私は、彼が本当は優しいのを知っている。

とりあえず、直接彼に話を聞いてみる事にした。

「ねぇ、独りでいて寂しくないの?」

放課後の私たち以外誰も居ない教室。

向かい合わせに座りながら、

私の方から彼に話を切り出した。

その中には、同じクラスの月島幸奈(つきしまゆきな)の姿もある。

「うるさい。お前には関係ないだろ」

「本当は、何か隠してるんじゃない?」

「だから、ちげえって…」

「もしかして、家での事?」

ゆきちゃんがそう口にした途端、

彼の表情が強ばった。

流石は、ゆきちゃん。

図星だったようだ。

「私達は公言したりしないから、

よかったら話してよ」

「じ、実は…」

しばらく口ごもっていたけど、

真剣な眼差しを向ける私たちを見て、

このまま逃げられないと悟ったのか、

ようやく本音を話してくれるようになった。

彼の家庭は、噂されていた内容よりもかなり深刻な問題を抱えていた。

彼の両親はいつも帰りが遅く、

夕飯は、限られたお小遣いでカップラーメン等を買ってお腹を満たしていた。

万引きするようになったのも、

お小遣いを貰えなくなったのが原因だと言う。

家には何一つ食べるものがなく、

空腹を満たすために食べ物を盗んでいた。

学校でのイタズラや嫌がらせは、

一瞬だけでも皆に構って貰えるから。

「どうして今まで誰にも言わなかったの?」

私は彼に、もう一度質問する。

「言ったさ。けど、誰も俺みたいな悪ガキに同情しないだろ?」

「なるほどね。それでも、他人に迷惑をかけるのは違うんじゃない?」

確かに、ゆきちゃんの言い分は正しい。

けど、彼はいくら周りに助けを求めても意味なかった。

ずっと、孤独だったのだ。

私は、彼だけの責任ではないと考えている。

「反省すべき点は多々あるけど、

私は、翡翠君だけのせいじゃないと思うよ」

「いや、全部俺が悪い。俺だって、

俺みたいな奴と仲良くなれないし、

嫌われるのも当然だ」

「それもそうね」

又もや、ゆきちゃんが余計な一言を投げる。

「それで、これからどうしよっか?」

「そうね、話を聞いたからには、

アンタの為に私たちも手伝うわ」

「ありが…とう」

翡翠君は、照れ隠しでそっぽを向く。

初めて受け入れられた事が嬉しいみたいだ。

それはさておき、問題はここからだ。

話を聞くだけでは解決できない。

誰に助けを求めるべきか、

今後どうやって生きていくか等を考える必要がある。

私たち子供だけではどうにもならないので、

まずは、私とゆきちゃんの両親に事情を話して、

彼が何らかの支援を得られるようにするのが良いだろう。

私の義父母は、人柄も良くて心の広い人達だ。

事情を話せばきっと協力してくれる。

「ねぇ、今日は私の家に来ない?」

私は、翡翠君に尋ねる。

翡翠君も、真剣な表情で頷く。

心配だからと、ゆきちゃんも同行するそうだ。

時刻は午後五時半。

私たちは、ランドセルを背負って校舎を出た。

………………

「ただいま〜」

「お邪魔しま〜す」

「お帰り〜。あら、お友達?」

「そう、同じクラスの翡翠君とゆきちゃん」

帰宅早々、玄関で出迎えてくれた義母さんに、

二人を紹介する。

「そうだ、丁度クッキーを焼いてるところだから、

後で部屋に持っていくわね」

「ありがとう、お義母さん!」

料理研究家のお義母さんが作るお菓子はどれも絶品だ。

きっと、今回も素敵なデコレーションを付けてくれるに違いない。

その期待を胸に、二人を二階の自室に案内する。

「どうぞ、ここが私の部屋だよ」

「整理整頓されてて綺麗!

普段から自分でやってるの?」

「いつも、宿題の後に片付けや掃除をしてるの」

「すげぇ…」

私の部屋は、青を基調としたシンプルな内観で、

親戚の人達から、男の子みたいだねと言われるけど、それでも私は、義父母にもらったこの部屋をとても気に入っている。

「何して遊ぶ?」

「実は、私の家にテレビゲームはないんだ」

「トランプもか?」

「ボードはあった気がする。

ちょっと待ってて!」

私は、クローゼットから人生ゲームを取り出し、

テーブルの上に広げた。

人生ゲームのルールは簡単で、

ルーレットを回して駒を進め、

最初にゴールまでたどり着いた人の勝ち。

「じゃ、私からね」

ジャンケンの結果、

最初は私からで、その次はゆきちゃん、

最後に翡翠の順番で決まった。

私は、ボードの上にあるルーレットを回した。

針は三の位置で止まり、駒を三つ進めた。

マスには、野生の犬に行く手を阻まれて一回休みと書いてある。

「あらら、一回休みか〜」

「じゃ、次は私の番ね」

「私、ちょっとトイレに行ってくる」

私は二人を置いて、お義母さんがいる一階のリビングへ向かった。

勿論、翡翠君の事を話しておく為だ。

事情を聞いたお義母さんは、

二つ返事で同意してくれた。

ゲームが終わり、気づけば空は真っ暗になっていた。

「いけないっ!もう帰る時間!」

「ほんとだ。じゃ、俺たちそろそろ行くね」

「分かった。私も玄関まで送るよ」

二人は身支度を済ませ、私も一階に降りた。

「二人とも、これ持っていって!」

帰り際、お義母さんが二人に渡したのは、

炊きたてご飯と、手作りの惣菜が入ったタッパーを詰めた紙袋。

「ありがとうございます」

「じゃ、また明日」

「またね」

二人を見送って、私も自室へ引き返す。

明日も良いことがあればいいな。

明日は何して遊ぼうか?

幸せな気持ちに包まれながら、

勉強机の引き出しから、水色の日記帳と木軸のペンを取り出し、今日の事を書き始めた。

…………………………

今日も、いつも通りに帰宅する。

家に誰もいないのは知っている。

俺は、友達の親からもらった袋から、

ピンク色のタッパーを取り出す。

中身は、白米とゆで卵や牛肉などが入った惣菜。

恐る恐る、それ等を一口ずつ食べてみた。

ご飯もおかずも、まだ温かかった。

そして、美味しかった。

細い目から、ポロポロと涙が零れた。

ずっと俺が欲しかったものを、

ようやく見つけることができた気がした。


二章:

私たちも、中学生になった。

三人とも、小学校を無事に卒業し、

同じ中学校に進んだ。

翡翠君だけ違うクラスになったが、

放課後は、私とゆきちゃんと翡翠君の、

いつもの三人で下校した。

翡翠君は、中学校に上がってから雰囲気も性格もかなり大人っぽくなった。

いたずらっ子だったあの頃とは違い、

誰にでも優しく、他の同級生に好かれる存在になった。

現在は実家を離れて、チェーン店のバイトをしながら一人暮らしをしているそうだ。

「香織は、心理カウンセラーになるのが夢だったっけ?」

「うん。大学で医学を学んで、

学校や施設で働こうと思ってる」

「そうか、頑張れよ」

翡翠君の夢は、アーティストになる事。

音楽を通して、自身の想いを人々に伝えたいと言っていた。

それまでの生活費も必要だから、

プロになるまでは、仕事と両立しながら曲作りに励むそうだ。

私も、翡翠君の夢を応援したい。

「翡翠君さ、良い意味で変わったよね」

「そうか?自分じゃ、よく分からないな」

「嘘、絶対変わったって〜。

見た目は怖いけどね」

「余計な一言だな」

「も〜、冗談だよ」

「それより最近、幸奈を見かけないな。

まだ学校に来れてないのか?」

「そうみたい…」

ゆきちゃんが学校へ来なくなったのは、

今から一ヶ月前のこと。

噂では、虐めが原因らしいが、

ゆきちゃんが誰かから虐めを受けている所を見たことがない。

それどころか、普段のゆきちゃんは明るくて、

そんな素振りを私たちに見せなかった。

「今日の放課後、あいつの家に行ってみるか」

誰に何をされたのかは、直接本人に聞いてみるしかないようだ。

「それなら私も行く」

「ああ、頼む」

………………………

「ごめんくださ〜い」

放課後、私はそれぞれ部活を休み、

ゆきちゃんの家に直行した。

オートロックのないマンションを階段で上がり、

ゆきちゃんのいる部屋のインターホンを鳴らす。

三回目でようやく中から声が聞こえ、

古びた茶色いドアが開く。

「どちら様?って、香織ちゃん…」

中から出てきたのは、ゆきちゃん本人だった。

前より窶れて、以前までの笑顔は消えていた。

「お前を心配して様子を見に来た。

幸奈、大丈夫か?」

「まぁ、一応」

「中に入ってもいいか?」

「今は、ダメ。私の部屋汚すぎて、

二人に見せられない」

「まさか…」

この先にある惨状を想像したであろう翡翠君が、

ゆきちゃんの許可を得る前に中へ入っていく。

ゆきちゃんも諦めた様子で、私たちも彼について行った。

リビングは普通に清潔で、

ちゃんと清掃が行き届いてるようだ。

問題は、ゆきちゃんの寝室だ。

ゆきちゃんは汚いと言っていたけど…

ガチャり。

「あ〜、こりゃひでぇな」

「も〜、だから言ったのに…」

部屋の中を見渡すと、

床一面に破れた紙くずやお菓子のゴミが散乱していて、壁に鋭利な刃で切りつけたであろう跡があった。

汚いというより、痛々しく思えた。

「それで、一体何があったの?」

虐められるようになったのは、

私たちが二年生に上がってから。

ゆきちゃん自身が何かやらかした訳ではなく、

ある時、隣のクラスの女子グループに人気のない場所に呼び出され、暴行を受けたのが始まりだとゆきちゃんは語る。

「それ、なぜもっと早くに言わなかったんだ?」

「だって、これ以上二人に迷惑かけたくないし…」

「強がりはもう終わりにしようぜ。

お前には俺らがいるんだからさ。

強い者虐めをするやつは、

昔のお前みたいにガツンと言ってやれ」

「う、うん。強くはないけど…」

最近は余り食欲がなく、

いくら食べても直ぐ吐いてしまうらしい。

拒食症は流石にマズイ。

どうして私は、彼女がこんなになるまで気づけなかったんだろう…

「とりあえず、一旦飯だな。

その後、この部屋の掃除だ」

「壁紙も変えないとね」

「二人とも、ごめん」

「ううん、これくらいお易い御用だよ」

私はさっそく、台所に移動して食事の準備に取り掛かる。

今は外出中のゆきちゃんの母親にメールで許可をもらってから、冷蔵庫の中を確認する。

幸い、この家には食材が豊富にある。

食欲ない時の献立をネットで調べたら、

茶碗蒸しやお粥などがあったので、

それを作ってみる。

無理をして食べる必要はない。

一口でもいいから、少しずつ栄養を取ってほしい。

そういう思いを胸に、丹精込めて料理していく。

その間、翡翠君は部屋の掃除を進める。

先ずは、床にあるゴミを分別しながらゴミ袋に入れていく。

本棚や机の裏に溜まった埃を掃き、

雑巾で床等を隅々まで拭く。

壁紙は、翡翠君が近くのホームセンターまで急いで買ってきてくれて、それを翡翠君とゆきちゃんで貼り付けた。

「できた〜!」

「俺の方も、とりあえず完了だ」

「香織ちゃん、翡翠君、本当にありがとう」

「どういたしまして!」

「まっ、良いってことよ」

茶碗蒸しとお粥を皆で完食したところで、

ゆきちゃんにも、ようやく笑顔が戻ってきた。

後は、虐めの加害者と話をつけなければならない。

けど、相手がこちらの言い分を素直に聞くとは思えない。

さて、どうやって虐めの証拠を掴もうか?

……………………………

「幸奈〜、久しぶり〜」

「ねぇ、お金持ってきたよね?」

次の日、ゆきちゃんが久しぶりに学校へ来た。

私たちは、校舎裏に呼び出されたゆきちゃんについて行き、物陰に隠れてその様子を伺った。

「持って…きてない」

「え?今なんて?」

「ちょっと、それはナイでしょ〜」

「もうこれ、お仕置きだわ〜」

そう言いながら、いじめっ子グループの内の二人が、ゆきちゃんを無理矢理押さえつけ、

ゆきちゃんの制服を脱がし始めた。

「ギャハハハッ!」

「ウケる〜!」

「撮ってやるからポーズ取ってよぉ!」

「キモ〜い!!」

やめてと叫びながら、涙を流すゆきちゃん。

私はこれ以上見ていられず、

目を背けてしまった。

これから、どうすればいい?

そろそろ止めに入るべきか…

「そこまでだ!」

その瞬間、翡翠君が彼女たちの前に飛び出した。

翡翠君の手には、スマホが握られている。

「は?あんた誰?」

「幸奈の彼氏ですかぁ?」

「実はここに、証拠があってだな」

「何?彼女の為に正義のヒーロー気取ってんの?

うちの彼氏たち呼んでお前も遊んでやろうか?」

「まだわからんのか?暴行の一部始終を撮って、

学年全員に送り付けてやったよ」

察しの悪いいじめっ子たちに、

翡翠君がスマホの画面を見せつける。

その中には、いじめっ子やその彼氏が行った悪行の数々も事細かに書かれている。

「ちなみに、お前らの彼氏は他の女とも遊んでるって噂だけど?で、裏切られたご感想をどうぞ」

「っ…」

「もう二度と、俺らに近づくなよ」

翡翠君がそう言うと、

ようやく事の重大さに気づいたのか、

いじめっ子たちは、早々に逃げて行った。

「うぅ、怖かったよぉ〜」

「よしよし、もう大丈夫だからね」

私は、震えるゆきちゃんを胸に抱き寄せた。

私も見ていて怖かったけど、

一番怖い思いをしたのは、紛れもなくゆきちゃん自身だ。

お疲れ様、ゆきちゃん。

よく頑張ったね。

私も、ゆきちゃんにつられて沢山泣いた。


三章:

あれから十数年。

大人になった私たちは、それぞれの道へ進んだ。

翡翠君は、大学生の時に組んだバンドの仲間と活動を続け、インターネット等で歌を発信している。

最近、“カゲロウ”というタイトルで新作のアルバムを出したと本人から聞いた。

ゆきちゃんは、昔から得意だった手話を活かし、

家事育児の片手間に手話の講師をしているそうだ。

私はというと、念願だった心理士の資格を得て、

今はスクールカウンセラーとして働いている。

「し、失礼します…」

「どうぞ、こちらに座って」

今日も、悩みを抱えた生徒がやって来た。

三年C組の渡辺海斗(わたなべかいと)君だ。

渡辺君は現在、不安障害と躁鬱病を抱えていて、

学校の近くにある心療クリニックに通院中だ。

「どうしたの?なんでも話してごらん」

「実は、最近眠れないんです。

処方された薬を飲み続けても治らなくて…」

「薬の量はどれくらい?」

「一週間分の薬を二日で…もうないです」

「飲み過ぎよ」

「すみません…でも、飲まないと不安で不安で…」

気持ちは分かるけど、彼の体が心配だ。

このまま市販薬に手を出して、

オーバードーズを繰り返せば、

間違いなく彼は助からない。

それだけは、一刻も早く辞めさせなければ…

私は、震える彼の手の甲に自分の手のひらを重ね、彼の顔を真剣に見つめながらぎゅっと握る。

「それじゃダメよ。これからは自分の体を大事にするって、先生と約束してちょうだい。いいわね?」

「は、はい…」

「安心して。私と一緒に、

少しづつ治していきましょ」

「ありがとうございます、白川先生」

「どういたしまして」

私が微笑むと、ようやく彼に笑顔が戻った。

彼が退室した後、私は簿記に彼の症状を纏めた。

まずは、薬に頼るのを徐々に減らしていく事から始める。

外的要因による精神的問題も、

一つずつ本人と解決させていこうと思う。

「先生、香織先生〜」

「あら、愛華ちゃん。今日はどうしたのかしら?」

ノックもせずに入ってきたのは、

一年A組の、遠藤愛華(えんどうあいか)ちゃん。

彼女は、家庭内で虐待を受けており、

複雑性PTSD(C-PTSD)を抱えている。

皆の前では明るく振舞ってるけど、

恐怖や悲しみで今も苦しんでいる。

「実はさ〜」

そう言いながら、彼女は徐ろに制服を脱ぎ、

昨日の夜に父親から受けた暴力の傷跡を私に見せる。

「ひ、酷いわ…」

「でしょ?こういう事相談できるのって、

香織先生しかいなくてさ」

「頼ってもらえて嬉しいわ。

けど、これはかなり深刻な問題ね。

警察に相談すべきだとは思うけど、

貴女はそれを望んでいないのよね?」

「だって、大事になるのは面倒じゃん?」

「貴女は優しすぎるのよ。

一刻も早く父親から離れた方が良いわ」

「そのために今勉強してるの。

中学を卒業したら、家を出て働くんだ」

「じゃ、私にも手伝わせてね」

「もちろん!」

私は、デスクの引き出しから救急箱を取り出し、

彼女の背中にある深い傷口に包帯を巻いて、

応急処置を施した。

「先生、ありがとう」

「貴女は独りじゃないから、またいつでもいらっしゃい」

「は〜い」

私は、愛華ちゃんの頭をそっと撫でる。

こんなにも可愛い子に手を出すなんて…

父親にも何らかの問題はあるとは思うけど、

子供は親のエゴを満たすための存在ではないと、

彼女の父親に対して憤りを感じた。

そして私は、彼女に服を着せて、

ドアの前で見送った。

…………………………………

雲一つない、よく晴れた空を見上げる。

冷めた缶コーヒーを、空腹状態の胃に流し込む。

なんだか、いつもより苦い。

私の瞳から出る水滴が、ゆっくりと頬を伝う。

あの子達には、どうか幸せになってほしい。

どんな苦境にも負けないでほしい。

これは、私の勝手な我儘だけど、

心の中で、あの子達の幸福を願った。


END

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僕らのメメントモリ Kurosawa Satsuki @Kurosawa45030

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