第30話 酒は飲んでも
僕としては、一人で食事をするよりは賑やかで全然構わないのだけど……一つだけちょっとした問題がある。
マスターは王宮の人間だ。
そして僕は、今は亡きエレメンタリオの第三王子であったわけで。
マスターが王宮で働いていたと聞いた時から、顔を合わせないように角度の調整はしていた。
まさか亡き王子が目の前にいるとは思わないだろうけど、と僕が考えていた時。
「ん……? そういえばお客さん……どっかであった事ありますか?」
そら来たーーーー!
「い、いえ! どこでもそこでも出会ってなんて
いませんよ! 僕はこの街に来たのは、は、初めてですし! きのせいじゃあないですかね! この世には同じ顔の人間が三人はいるって話も聞きますし!」
「そうですか……? まぁそうですね。この街であった事がなければ後は王宮ででも会わない限り顔見知りというわけはありませんものね」
会ってますし、それで合ってます、マスター貴方、王宮で僕の顔見てます。
けどマスターが僕の顔を見ていたとしても、数えるほどだろうし、気のせいという事にして乗り切るしかない。
そうだ。話を逸らそう、それがいい。
「あ、あの! マスター! そういえばこのソーセージってもしかして王宮の味ですか?」
「ん……? どうしてお客さんが王宮の味だなんて」
し、しまったああああ!
話を逸らそうとして思い切り自爆してしまった!
背中から嫌な汗がぶわっと浮き出てきてとても気持ちが悪い。
大丈夫、ばれてない、ばれてないのだから、必要以上に過敏にならなければいいのだ。
そしらぬ顔をして、適当に話を濁せばいいのだ。
「あぁ。それはほらアレですよ。マスターの味付けってやっぱり王宮仕込みなのかな、とふと思っただけですよ」
「なるほど。ええ、お察しの通りです。盛り付けやらソース、細かい味付けなどは王宮直伝です。ですがこのソーセージの味付けは、王宮にいる時に私が考案したものなのですよ」
「へ、へぇー……そうだったんですね」
なんてことだ。
僕やアリエスが美味い美味いと言っていたあのソーセージ、このマスターが発案者だったのか。
どうりで味に舌の馴染みがあるわけだ。
もう二度と食べられないと嘆いたあの味に、また出会う事が出来たなんて……感動です。
巡り合わせに感謝を。
「では、巡り合わせに感謝の乾杯をしたいと思うのですが……」
「いいですね! ガイアスさんとの巡り合わせに!」
「巡り合わせに」
そう言って、僕とリンネ、マスターは掲げたグラスをカチャンとぶつけ合ったのだった。
■
「うう……あったまいだい……うぉえっぎぼじ悪い……」
翌日、僕は強烈な吐き気に叩き起こされ、割れそうになる頭を押さえながらトイレへと向かった。
「これが……二日酔い……なのか……ううぉえ゛ぇ……」
胃がいまだかつてない程にぐねぐねと動き、胃が全部スライムになってしまったのでは、と思うほどに暴れている。
口の中がとても酸っぱく、便器にぶちまけた吐瀉物
のせいでさらに吐き気が込み上げてくる。
「の、のみすぎ、だ……」
吐き気がやっとこさ収まった所で、ゾンビのようにトイレから這い出た僕は、テーブルに置かれていた水差しから直接水を飲み込んだ。
あの後、リンネの話やマスターの話、テルルの話など沢山の話題で盛り上がり、ついつい、というよりアホほど飲んでしまった。
酒は飲んでも吞まれるな。
この言葉をこれでもかと痛感する僕だった。
「ガイアスさん。起きてますか?」
扉がノックされ、向こう側からリンネの明るい声が聞こえてきた。
「ぶぁい……おぎでばず……」
「ど、どうされました……? 死にそうな声ですけど」
「ぎのうの……おざげぇ」
「あぁ! 二日酔いですか! 分かりました。マスターに話してお薬とお食事お持ちしますね!」
「ずびませ……うぶぅ……」
リンネは僕の返事で全てを察したらしく、小走りに去っていくのを感じた。
そして僕は再び強烈な吐き気と、込みあがってくるモノをしっかりと感じていた。
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