第27話 キメ顔

「そうですねぇ。来るとしたら土砂を運ぶ方々やその護衛の方々でして……いやはや、商売上がったりですよ」

「あー……そんじゃさっきのは……」


 と言って僕はチラリとリンネを見る。

 リンネはこくりと頷いた。

 路地裏でリンネに迫っていたのも、その輩なのだろう。


「さっきの?」

「あぁいえ、こちらの話です」

「そうですか? というか、お客さん。あの高い観光税を?」

「高い……観光税……? え? なんですか?」

「え?」

「え?」


 僕とマスターは目を合わせて、お互いに目をパチパチ。

 観光税……そう言えばこの街に入るゲートの所で何かお金払ったけど、その事だろうか?

 その時はゲート越しに見える街並みと、シュティレ大河の一部が見えてワックワクだったから門番の人の話殆ど聞き逃したな。

 正直いくら払ったのか覚えていない、とも言えないがなるほど、この街の観光税は高いのか。


「あ、あはは! いえその! どうしてもシュティレ大河を見たかったのと! 魚、そう魚です! あとはその、ほら、アレですよ! アレ!」


 こうなったら無理矢理にでも話を通すしかない。

 金を持ってる世間知らずだ、なんて知れたらもしかしたらこの料理や宿代だって高くされてしまうかもしれない。

 それだけは避けなければならない。

 こんな時こそ困った時のアレ頼み。

 大人はアレと言えば大体が納得する。

 僕はアリエスにそう教わった。

 大賢者様の言う事だ、間違いはないはずだ。


「あー! なるほど! アレですか! なるほどなるほど! 確かにアレを目的にするなら無理も無いですね!」


 よっっっし!!

 通った!

 さすが大賢者様のお言葉、間違いは無かった!

 魔法の言葉! アレ!


「ですがね……アレももう、規制が入りまして……許可の無い方はお金を払わないといけなくなったんですよ」

「へ?」

「許可証があるのですか?」

「へ?」

「ですから、砂金の収集許可証ですよ」

「あ、ああ! いえ、持ってないんです。それも買わなければならないのですね?」


 砂金、砂金なんて獲れたのか。

 それは知らなかったぞ。


「新しい領主様のご決定で、河で獲れる物関係は全て許可を取る事が必須になりました。許可なく河に手を出した者は捕えられてしまうのです。釣りや砂鉄取りに、川遊び、深部へのダイビングも駄目です」

「おう……それは厳しいですね……どうしてそんなにガチガチに縛るのでしょう」

「分かりません。それに郊外では謎の魔物が出ただの、奇形児が産まれただの、死体が動いただの、奇怪な猫を見かけただの、変な噂が絶えませし、原因不明の病で亡くなる方が増えているとかいう話も聞きます。領主様がどうしたいのか、何をしているのか、何をお考えなのか、さっぱりです」

「今聞いた限り不穏な噂しかない気がするのですが」

「お恥ずかしいことに、良い噂ではないのは確かですね」

「しかし、たった一つだけですが、僕にもわかる事が一つあります」

「な、なんです? 急に」

「それは……」

「それは……?」


 僕の言葉を待つように、マスターとリンネの喉がゴクリと鳴る。

 僕は充分に間を取って、二人の瞳を交互に見てからこう言った。


「ここのお料理は最高に美味しいということです!」


 カッと目を見開き、拳を握り、フォークの先にお肉を突き刺しながら。

 僕はキメ顔でそう言った。

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