第26話 ぷち宴会
「かつて……約半年前まではそれはそれは素晴らしい場所でした。どこから見ても壮大で綺麗で、天候で荒ぶる時は少し怖かったですけれど……ですが今はその……」
「今は?」
「正直にお伝えすると、汚いんです」
「汚い?」
「はい。行けばお分かりになるとは思います。新しい領主様に変わってから……このテルルは変わってしまいました」
「そうなのですか」
「はい。毎日数度、何処からともなく、大量の土砂を積んだ馬車がテルルに入り、その土砂をシュティレ大河へ捨てていくんです」
「土砂を捨てる……? それになんの意味が」
「分かりません。領主様へ事情を聞きに行った住人もいたのですが、その方に聞いても『全ては領主様のご判断だから』としか答えてくれなくて……土砂のせいか分かりませんが、大河で獲れる魚達の味も落ちているような気もしますし……」
リンネが吐き出すように喋っている横から、話を遮るように手が伸び、テーブルの上に料理が置かれた。
「よしなさいリンネ、そんな事を旅の方に話しても仕方ないだろう。はい、おまちどうさま。料理が出来ましたよ」
「す、すみませんマスター……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。というか、料理美味しそうですねぇ!」
テーブルに置かれた品々は、湯気と共に美味しそうな香りを漂わせていた。
「これから料理を出すってのに、魚の味が落ちたとか言うんじゃ無い。まったく」
「ご、ごめんなさい……」
「で、実際どうなんです? マスターからしてお味の方は」
料理の前で手を合わせ、恵みに感謝しながら品物に手を伸ばす。
まずはソーセージから。
「ふむぅ……こんな事言うべきではないけれど、まぁこの子の言う通り味は落ちています。落ちているというより、味が少し変わった、と言いますか、表現が難しいのですけれど」
「うまっ! そう、なんれふね、これうま! あちち!」
ソーセージを頬張ると、パキッと言う破裂音と共に熱々の肉汁が鉄砲水のように溢れてきた。
口の中に広がるジューシーさと油、肉の旨み、ハーブの香りがとてもよい。
エールをぐびりぐびりと流し込むと、口の中の油などがさっぱりと洗い流されて、何本でも食べれてしまいそうな錯覚に陥る。
勘違いしないでいただきたいが、料理に夢中になってはいるけれど、マスターのお話しもしっかり聞いている。
それにこのソーセージ、王宮で食べていたモノと味が似ている気がする。
ソーセージの味付けは王宮でも世間一般でも同じということなんだろう。
アリエスもソーセージが大好きで、よく二人で美味い美味いと食べていたな。
「それはお魚が不味くなったって事なのでしょうか?」
「平たく言えばそうなりますね。魚の味が変わり始めたのも半年ほど前、丁度土砂が河に捨てられるようになってからですから……無関係ではないでしょう」
「ふぉお……なるふぉろ。初めて食べる僕からしたら味の変化には気付きようもありませんけれどね。このソーセージも美味しいですし。あ、リンネさんエールおかわり下さい」
「は、はいっ」
「店側からしても、そうだとは思いますけれど、長年親しんだ味が急に変われば不安にもなります。それに関税も高くなり、気軽に立ち寄れる街、身近な観光名所のはずが、高い関税のせいで観光客や旅人もあまり寄り付かなくなってしまいました」
「あぁ、だからこの店にお客がいなかったり、街が閑散としてたのですね?」
マスターと話しながらも、料理を食べる手は止まらずに、次々と口の中に放り込ではエールを飲み、エールを飲めば料理を、というサイクルを繰り返す僕。
しょうがないじゃないか、美味しいんだもの。
硬いパンとか味気のないスープとかを食べた後なのだ、手が止まらなくて当然だ。
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