第二十一話 集結
「それでね!! それでね!! アタシの頭を撫でて欲しいって言ったら、彼ってば恥ずかしかったのか、顔を少し赤くして『そんなこと出来るか!!』って言いながらも、アタシの頭を優しく撫でてくれたの!!」
感極まったと言わんばかりにアイルは両手を頬に置き「キャー!!」と嬉しい悲鳴をあげてしまう。
テンションが振り切っているアイル程ではないが、ノエルもまた楽しそうであるのは間違いなかった。
「吸血鬼に恋人って……アイルらしいといえば、アイルらしいけど」
離れたところからでも十分に聞こえるノエルとアイルの会話を見ていたベルはワイングラスに注がれたノンアルコールワインを飲みながらそのように思っていた。
「そういえば、今更なんだけど。吸血鬼って恋人さんとか作れるの?」
半ば強引にメールから渡された魚の刺身をモグモグと食べながら、エルシアはそのような疑問をベルに尋ねる。
だが、エルシアの言う通り、吸血鬼が恋人を作る。吸血鬼が子を成す。という話は聞いたことが無い。
「吸血鬼も生き物だもの。当然、恋愛感情はあるし。子を成すことも理論だけで言えば出来るのだけど……実際に子を成した。という話は聞いたことが無いわね」
「じゃあ、あそこにいるアイルさんが子を成すことに成功したら、その理論は本物であると言えるわけだね」
「まぁそうなるわね」
会話に一区切りがついたため、ベルはノンアルコールワインを、エルシアは魚を食べながらアイルとエルシアの会話を俯瞰するように見物しようとしたが
「ほう、そこにいる金髪のメスガキは第一王族のベルか? フウアから聞いた時は信じられなかったが、本当にそのような格好をしているとはな」
自身の姿を金髪のメスガキというベルにとっては不名誉極まりない表現をされ、再びプチンと堪忍袋の緒が切れてしまう。
「その偉そうな声……さては、第三王族のバカ野郎か!!」
怒りをあらわにしたまま、声が聞こえた方向へとクルリと振り向くベル。
そこには白い王族らしい衣装に身を包み。さながら本当の王族のように先端に宝石が施された杖を手にした夜闇のように黒い髪と黒い瞳が特徴的な男性がいた。
「やっぱりお前か!! 第三王族のルージュ・シュテルン!!」
「ふん、世界をひっくり返すほどの大いなる力を誇示し。吸血鬼の象徴として君臨し、我ら王族の吸血鬼を率いていたベル・アステルがこのようなメスガキの姿をしているとは……フウア・エストレッラから聞いた時はふざけた冗談かと思ったが、まさか本当だったとはな。貴様がそれでは、我ら王族の誇りも地の底に堕ちたな」
「なんですって!! あんた程度を相手にするなら、この姿でも余裕よ!!」
その言葉を聞いて、ピクリと眉をひそめてしまうルージュ。
しかし、相手は第一王族とはいえ、今の姿は子供そのものである。故にここは大人の対応を持って対処をすることにした。
「ほう? かつて我は右腕と共に
「あんたこそ!! それ何年前の話しよ!! 今では、その国の帝位も他の奴に譲渡したって聞いたわよ!? そ・れ・に~? 今現在、その国は正体不明の集団に襲われ、陥落寸前と聞いたのはあたしの間違いだったのかしら~?」
ルージュの神経をわざと逆撫でするようなベルの発言。先程の様に受け流すことが出来ず、耐えられなかったのかルージュの中にあったなにかがプツリと切れてしまった。
「なんだと!? 貴様!! それ以上我が国について愚弄してみろ!! 今度こそ、貴様の息の根を止めてやる!!」
「上等じゃない!! 今度こそ、あんたとの縁に終焉をもたらしてあげるわ!!」
切れてしまったルージュは杖の先端にある宝石に黒い炎が灯り、それに呼応するようにベルの両手にも金色の炎が灯る。
遠目からではあるが、この二人を見ていたノエルは流石に大変なことになるのではと困惑してしまう。
「あ、あの!! ベル様とあのお方が喧嘩しそうですが、よろしいのですか? アイル様」
「え? 喧嘩?」
これまで自身の恋バナを話すことに夢中になっていたアイルも狼狽えているノエルを見て、話すことを中断し、既に喧嘩の枠を超えそうになっている二人がいる方をクルリと振り返るが
「ああ、大丈夫よ」
狼狽えることも、困惑することもせず。あくまで平然とした態度を崩さないアイルと違い、ノエルはさらに困惑してしまう。
「今回出席する王族の吸血鬼は全部で六人。その中にはあの吸血鬼もいるから」
「あの吸血鬼?」
「そ、ベルベルとルージュちゃんは憎み合ってるわけじゃないけど、水と油というか。いつもあんな風に口喧嘩をしてるのよ。だけど、その二人を止めるような仲裁役のような奴がいるのよ」
恋バナを中断となった影響からか、アイルのテンションは平常運転となっていた。近くにあったグラスにオレンジジュースを注ぎ、ゴクリと勢いよく飲み干す。
一触即発。この場を嵐と変える大喧嘩がいつ始まってもおかしくない、爆弾のような二人の武器である手と杖を何の躊躇いもなく、握る吸血鬼が現れる。
「ベル、ルージュ。どうして二人とも、どうしてこのような華やかな場で自身の武器に炎を灯している?」
その声とその者の姿を見て、両者共に深紅の如き怒りの表情から、しまった。とでも言わんばかりに血の気の引いた青い表情へと変化していく。
「え……」
「お、お前も出席していた……のか?」
喧嘩していた時の威勢は風のように飛ばされてしまった二人は氷に閉ざされたように体の固まっていく。
「ああ、出席リストを見ていなかったのか?」
爆弾のようになった二人の喧嘩を止めた吸血鬼の登場にアイルはフッと笑い。ノエルは「おー……」と安堵の声を洩らしていた。
「もしかして、あの方が?」
「ええ、審判の二つ名を持つ、第七王族の吸血鬼。ティスカ・エステレラよ」
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