第二十話 恋に恋する吸血鬼
「わ~……これが舞踏会の会場ですか!?」
初めての舞踏会に来れたことに歓喜し、嬉々とした声をあげるノエルに半ば呆れながらも「ええ、そうよ」とベルは返す。
しかし、ノエルがこのように歓喜するのも仕方が無いことであった。
天井にはこの場を何者にも穢されないと訴えるように白いシャンデリアがあり、各テーブルにはケーキやチョコレートフォンデュのようなスイーツも種類も様々に用意されており。食事に関しては当たり前のようにA5ランクの高級肉の料理。果てはマグロの解体ショーなどが行われていた。
「庶民の想像を簡単に超えるほどすごい料理がたくさんありますね!!」
「そういえば今回の舞踏会の料理担当は———」
「このアタシよ!!」
ベルが思い出そうとした瞬間、待ってましたと言わんばかりに登場したのは桜髪と茶髪の混合という他にあまりみないタイプの髪型をし、左右の瞳は緑と青という虹彩異色の瞳を持つ女性吸血鬼であった。
「それにしても、ベルベルー。久しぶりね」
さながらキャハという効果音がよく似合い、王族というよりも。現代の女子高生のような雰囲気でベルの手を握り、ブンブンと勢いよく振り回す。
「あんた、よくあたしだってわかったわね」
「およ? それはどういう意味かな?」
「だって、あたしの見た目。あんたと前に会った時と大分違うでしょ?」
フウアの言い分では、ベルの髪は金色ではなく、銀色であり。身長も今とは違い、スラリと長い。美ししい女性であったという。
「(確かに、今のベル様とは正反対の姿なのにこの方は違和感もなくお気づきになられた……)」
ベルと同じようにノエルも何故だろうと疑問を抱くが、それを聞いた女性吸血鬼はすぐに解説をする。
「あー、それは簡単だよん。フアっちから既に『ベルは今、金髪のメスガキの姿になるのが趣味だからそっとしておいてやれ』って笑いながら説明を聞いてたから。王族の吸血鬼で金髪のメスガキなんて他にいないし、だからベルベルだってすぐに分かったの」
女性吸血鬼はケラケラと笑うが、ノエルはそれを聞いて納得をしていると同時にベルがこのような姿になった本当の理由をフウアは隠しているということも知ったが、当のベルはそのように説明をしたフウアに苛立ちを覚えたのだろう。その苛立ちを具現化するようにベルの周りには怒りの炎が見えていた。
「っと……それで、そちらの人は?」
ベルとの話に夢中で隣にいたノエルとエルシアに今気づいたのだろう。ベルと同様に高位の方ではあるため、緊張はするが。粗相のないように慎みを持ってノエルは自己紹介を行う。
「初めまして、私は夜桜ノエル。
ベル様とは縁があって、ひと月前からメイドとして働かせてもらっています」
「へー、ベルベルもメイド雇ったんだ。アタシも今日は連れて来てないけど、執事を雇ってるんだよ。コレがまたイケメンなんだー。
あっ、名乗るのが遅れたけど。アタシの名前はアイル・レルータ。冠位は第六王族だよ。よろしくね」
王族とはかけ離れた態度に困惑するノエルだが「こういう奴なのよ」とベルは小耳に告げ口をする。
また、ベルはふとあることを思い出し。ポンと手を叩く。
「アイル、あんた。好いた惚れたの恋愛話とかあったりする?」
「あるわよー。それはもう山のようにあるわよ。恋に恋する吸血鬼!! それがアタシ!! 第六王族の吸血鬼なんだから!! それがどうかしたの?」
「いや、つい先日。このノエルが好いた惚れたの話を聞きたいのに、周りにはそういう話をできそうなのがいないから。あんたに任せるわ」
ベルのその提案を聞いたアイルはキラーンと一番星にも負けないくらい目を輝かせる。
「いいわよ~!! それじゃあ、向こうにあるVERRY・VERRYのスイーツを食べながら、話しましょう!!」
「えっ、ちょ……」
さながら特急電車と同じような速さでノエルを攫った後にアイルは奥にあるスイーツコーナーへと走る。
「これでいいか……」
かつて、ノエルと約束したことを守ることが出来てひとまずホッと一息をついてしまうベルだが、先程から気になることがあった。
「で……あんたはなんで、あたしの後ろにピッタリくっついているのよ」
理由は不明だが、アイルが登場するよりも前から、エルシアはベルの後ろに隠れるようにぴったりくっついていた。
「え……えーと……実は、わたしの同僚の方がいまして……」
「あんたの同僚? ということはシスター?」
どこにいるのよ? とベルが聞く前に「おーい、そこにいるのは。エルシアか?」という声が耳に入るが、それに比例するようにエルシアの身体が震える。
「おっ、やっぱりエルシアじゃないか。なんで隠れてるんだ?」
そんな言葉と共にベルたちの前に現れたのは魚屋の主人のように白いはちまきを額に巻き、刀を包丁のように持っており。腰にまで届く、海のように深い青い髪をポニーテールで整えているシスターが現れる。
「メールさん……ひ、久しぶりです。あの、どうしてこんなところに?」
「アイルって吸血鬼から、魚料理を見繕って欲しいと頼まれてな。オレが魚に関しては人一倍詳しいことは吸血鬼界隈でも有名らしいぜ」
自分が魚に詳しいことに名を馳せているのが余程嬉しいのか、その場で嬉しそうに。高らかにシスターメールは笑い声を上げる。
二人の会話を聞いて、この女性がアリア教の中にある悪魔討伐組の中でも名を馳せているシスターズの一人。大海のメールだと察することが出来た。
「で、なんで。あんたこの人のことを避けてるのよ……」
「それは———」
「にしても、エルシア。お前、まだまだ小さいままだな。魚を食え、魚を。何度も言っているが魚はいい栄養素が詰まってるからオススメだぞ」
皿いっぱいに盛られた捌いた刺身をメールは半ば強引にエルシアに渡すが、コレが初めてではないのか。エルシアは困ったような表情を浮かべていた。
「あ、ありがとうとございます……」
「おう、それじゃあ。オレはまた別の魚を捌いてくるから、また後でな」
彼女がそのように去った後で、エルシアは気づかれないように小さくため息を付き、ガクリと項垂れる。
「こういうことなの……」
「なるほどね……」
根はいい人ではあるのだろうが、あのように半ば強引に渡されては毎度面倒に思えてしまうのは仕方がない。
また、前にエルシアから突然魚を送って来る同僚がいて困っているというのベルは聞いたことがあったのだが、先の会話を見るに。恐らくはその同僚とはシスターメールのことなのだろう。
「それじゃあ、その魚。あたしも食べるの手伝ってあげるから、他のヤツも一緒に食べましょ」
「うう……ありがとう、ベルさん……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます