第六話

「──里帆、里帆」


 何度も耳元に囁かれる声に、私は目を覚ました。

 温かい人肌に包まれているかと思ったら、お母さんの膝の上で抱きしめられていた。

 ガタンゴトンと電車に揺られている。

 どうやら、お葬式は終わったらしい。

 私は泣き疲れて、いつのまにか眠ってしまったようだ。


「里帆、お母さんがいるからね。これからお母さんと、頑張ろうね」


 お母さんの声は相変わらず潤み声だけれど、どこか芯の強さを感じさせた。


 私はうん、と頷いて、ありがとう、と微笑を漏らした。


 するとお母さんは、細い眉を下げて少し苦笑を浮かべていた。


「里帆。辛かったら、泣いていいのよ。我慢しなくていいのよ」


 お母さんの優しさは、胸に沁みるほど温かくて、いつも乗る電車なのに、もう三人じゃないんだ。そんな現実も重なって、また目の縁から涙が溢れてきそうになったけど、ゴシゴシと袖で顔を拭って、大丈夫、と首を横に振った。


 電車の窓から見える、まん丸いお父さんが、見てるから。もう泣いてばかりじゃ恥ずかしいよ。


 見ててね、お父さん。 

 お母さんと一緒に、頑張るから。

 だって私は、お月さまの子になるんだよ。

 スーパーマンよりも、もっともっとすごい、誇らしい、私は、とっても強い子なんだよ。

 

 そんなことを胸中に呟いているうちに、またうとうととまどろみに包まれて、私はお母さんの胸に抱きつくように寄り添った。そんな私の上から、お母さんのくすりとした笑い声が降ってきた。



 命日は悲しい日というけれど、私のお父さんの命日は、新しい希望を見つけた特別な日でもあったのだ。

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