第17話 エリザとの戦い~特訓の成果~

 あれから俺はヴィルヘリアが所持するスキルの説明を聞きながら、みっちりとエリザとの特訓を続けた。

 ヴィルヘリアが戦う前にエリザに『殺しにかかる勢いで相手をしてやれ』と話し、この2日間は自分の身が持たないほどにボロボロになりながら戦った。

 休む時間は寝る時だけだ。下には硬い石で出来たベッド、腹の上にはヴィルヘリアが乗って寝ているため身体を休ませるのは至難なことだった。

 特訓をして、最初はスキルを出すのが精いっぱいだった為、エリザにも舐められていた。しかし、戦いの中で徐々にスキルの出し方、特性を理解していくにつれて短期間で成長していることを実感した。

 そして、エリザとの特訓はあっという間に過ぎていき、今日で3日目を迎えた。特訓の場所は広さがあるエリザの謁見の間で行う。

 謁見の間へ向かうとエリザとヴィルヘリアがすでに待機していた。恐らくいちゃついていたのだろう。


「ふん、よく3日間も耐えたわね。竜でも逃げ出すような地獄のトレーニングを」


 本当に逃げ出したかった。しかし、強くなりたいと言ったのは自分自身だ。ここで諦めたりすれば竜王だけではなく周りからまた馬鹿にされてしまう。前みたいな自分に戻るのはもううんざりなのだ。

 前までの俺はヴィルヘリアに会って一度死んだのだ。第2の人生こそ自分で言ったことはしっかり守る、自分に勝つ人間になりたかったのだ。その意地がこの3日間を支えてくれたからここまで来れたに違いない。


「レイク、今日で最終日じゃな。よう頑張った。じゃが、最後はおさらいもかねて妾抜きでエリザと戦うのじゃ」


「え」


 実はこの2日間はヴィルヘリアに付きっ切りで特訓してくれていたのだ。しかし、ヴィルヘリアがいざ隣に居ないとさっきまでの自信が1日目に逆戻りしてしまいそうになる。


「でも、俺まだ自信ないぜ」


 俺が肩を落として言うと、ヴィルヘリアはつま先立ちで手を伸ばしながら俺の頭を撫でる。


「何言ってるんじゃ、お前はこの3日間の地獄のトレーニングを乗り越えたではないか。レイクは強くなっとる。まぁ妾よりは全然じゃが、妾の次に強いかもな」


 昨日までは鬼の……いや竜の形相だったヴィルヘリアが今日は人が変わったように優しい態度を指名していた。正直不気味に思ったが、このやさしさが今の自分にとって心の支えになっているのは確かだった。

 俺はその言葉を受け入れ、エリザと最後の特訓を行うためにエリザの正面に立った。


「エリザ! いつも通り、レイクをで相手してくれ!」


「ふん、当然よ」


 俺の後ろから水を差すようにヴィルヘリアの言葉が飛んでくる。

 エリザは構えるのを見て、俺も構えた。


「では、はじめ!!」


 ヴィルヘリアの合図と共に最後の特訓が始まった。最初に仕掛けたのはエリザだ。

 エリザの周囲から膨大なエネルギーが紫色の妖気となって視覚化された。このスキルはヴィルヘリアが野宿をする際、外敵を避けるために使用したスキル【仁王覇気】である。

 本来ならこの妖気に圧倒されてきたが、3度目となると慣れと自信によって踏ん張ることができた。


「ふぅん、流石に3度目となれば慣れてきたみたいね」


 踏ん張り続けている俺はふとヴィルヘリアの言葉を思い出す。


「仁王覇気はより強い仁王覇気で相殺させることができるのじゃ。まぁお前にはまだ早い話じゃがの」


 この話はさらっと流していたことだったが、今は気持ちに余裕がある。よし、試してみよう。


「はぁああ!!」


 俺は体の中心にエネルギーを込めた。そして、それを一気に開放する。すると、エリザと同じようにエネルギーが視覚化され、黄色い妖気となって纏った。


「仁王覇気? まさか!」


「はぁあああああ!!!!」


 俺はエリザの放つ仁王覇気に負けぬよう、妖気を拡大させる。紫色の妖気が黄色い妖気に押されていく。


「私の仁王覇気を押している!?」


 そして、俺の妖気が破裂するのに合わせて、エルザの紫色の妖気が割れて消えた。そう、相殺したのだ。


「はぁはぁ……やった!」


「ふ、ふん! 少し手加減しすぎたようね! 次からは手加減しないわよ!!」


 そう言って、エルザは右腕を高らかに上げて、次の攻撃の準備に入った。


「”氷結槍乱撃アイシクルランス”!!」


 エリザが得意とする氷結魔法を使った攻撃が始まる。大気中の水蒸気を凍らせ氷柱を作り出されると、俺に向かって飛んでくる。

 いつもの技かと思ったが、今回の攻撃はいつもと一味違った。いつもより氷柱の数が多く、太さもある。激しさが増した攻撃を目を凝らして避けていくのは至難の業だ。

 ここでこれまでの復習を行うことにする。


「”竜鱗ドラゴンメイル”!!」


 竜鱗は体の皮膚を竜の鱗に変化させる竜種固有のスキルだ。このスキルを使用すると、鋼の鎧以上の防御力を期待することができるのだ。更にヴィルヘリアには【物理攻撃耐性】のスキルがあることによって防御力は増大する。こうしてスキルによって変化した腕を盾として使い氷柱の雨を防いでいく。


「守ってるだけじゃ動けないわよ!! さぁ次、これはどうかしら!!」 


 エリザは氷結槍乱撃を打ち続けながら頭上に巨大な氷塊を生み出していた。


「私の氷結魔法のレベルはマックスの10!! ただの上級魔法は更に威力が増大するわ!!」


「来るぞ! レイク!!」


 ヴィルヘリアの言葉を合図に俺も技の準備をする。


「”竜頭ドラゴンへッド”!!」


 俺が両手を前に出すと、腕が融合して1つになり勇ましき竜の頭となった。腕が変化した竜は口を大きく開き氷結槍乱撃を貪り食べる。これは【悪食】というスキルで、あらゆる物質を食すことができるようになり、エネルギーに変換できると言う能力だ。


「これは防ぎきれないわよ!! 【耐性貫通】付きの”氷塊魂拳弾メテオアイス”!!」


 まるで隕石の様な巨大な氷塊が俺へと向かってくる。勿論、俺には打開策があった。

 ヴィルヘリアにはユニークスキル【煉獄魔王ムスペルヘイム】がある。このスキルによってヴィルヘリアの必殺技を使用することができるのだ。


 徐々に近づいてくる氷塊魂拳弾の着弾ギリギリまでエネルギー溜めるチキンレース状態、しかしここでびびっていては完全にこの技を使用することはできない。


 集中しろ! まだだ……まだ…………今だ!! 


「”破壊ノ福音ゴスペル”!!」


 時が満ち、竜の口の中で溜めたエネルギーを一気に吐き出す。発射されるその巨大で極太なエネルギー光線は炎の1000倍の温度である。そのエネルギーが氷塊魂拳弾に着弾したその時、氷塊は真っ二つに割れて貫通し、エリザへの方へと進んでいく。

 エリザは紙一重で回避するが、後ろの石に着弾した時、ドロドロに溶けて溶岩状になったのを見て青ざめる。


「嘘……あの男、ヴィルヘリアの必殺技をこんな短期間で取得したなんて。しかも、この威力は……」


 俺はエネルギーを溜めた疲労による立ち眩みで地面にへたり込む。腕はすぐに元に戻っており、少し痺れている。


「ど、どうだ! まだやるのか? はぁはぁ……」


 レイクの言葉を聞いてエリザは鼻で笑った後、手を5回ほど叩いた。


「はいはい、もう良いわ降参よ降参。よく頑張ったんじゃないかしら」


 エリザはまるで子供を相手にしているかのような態度を取った。それが気に食わず、立ち上がって文句を言おうとした時、続けてエリザは俺の方を向いて言葉を続けた。


「私よりは全然実力はまだまだだけど……まぁ良いじゃないかしら。私が認めてあげようとしてるんだから感謝しなさいよね!!」


 俺の方を向いて話した後、すぐに顔を背けた。耳が少し赤くなっている様子から俺は察することができた。始めてエリザが俺にデレたと。





 《現在ステータス》

 name:レイク


 称号:破滅古竜の眷属


 《(判明済み)所持スキル》

 コモンスキル:【威嚇】【風切り】【拘束鎖】【超感覚】


 ユニークスキル:【煉獄魔王ムスペルヘイム


 EXスキル:【仁王覇気】【多種結界】【耐性無視】【環境適応】【破壊ノ福音ゴスペル】【悪食】


 加護スキル:【破滅古龍ノ加護エルダースタイル


 竜種固有スキル:【炎ノ息吹】【竜鱗】【竜爪】【竜頭】


 魔法:【炎熱魔法:level10】【氷結魔法:level5】【電撃魔法:level5】【風刃魔法:level5】【神聖魔法:level5】【暗黒魔法:level5】


 言語スキル:【竜族語】


 耐性:【状態異常無効】【物理攻撃耐性】【基本属性耐性】


 《新スキル説明》

・煉獄魔王

 高密度のエネルギーを炎熱に変える能力や物質を取り込み力に変える能力を持つ。以下の能力が使用可能になる。

破壊ノ福音ゴスペル

 竜の口から放たれる炎の1000倍に相当する温度のエネルギーを放つ。

【悪食】

 竜の口であらゆるものを食し、エネルギーに変える。

【炎熱魔法:level10】

 炎熱系魔法を最大レベルで使用可能になる。

【炎熱系スキルの攻撃力大幅上昇】

 炎熱系スキルの威力を3倍にする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る