運命の選択

長船 改

プロローグ

 夜の繁華街――。


 無数に放たれたネオンサインは夜を押し上げて、煌々と輝いています。

 あちこちの店から漏れ出ている遠慮を知らないBGMは、まるで自分たちの縄張りを主張しているかのようです。


 そぞろに歩く人々は皆、不満や欲望を身にまとい、酒とたばこと吐しゃ物の混じった匂いを放ちながらひとときの悦楽に身を任せています。

 これ見よがしに派手なスーツを着た男も、露出の激しい女も、くたびれたような会社員も、馬鹿笑いの若者も、あれもこれも、皆が皆。


 しかしそんな喧噪もひとつ道を外れてしまえば、そこは薄暗闇と埃と揚げ油の匂いが支配する、隔絶された世界です。


 人っ子ひとりいない、路地裏……。


 目に映るものと言えば、看板の煤けたコインパーキングと、近づく事すらはばかられるような灰色の雑居ビル群ぐらいでしょうか。

 


 ……そんな雑居ビルの、とある一室で、今宵、ある宴が催されていました。



「それでは、これよりご歓談の時間とさせて頂きます。

 ここは心と心を強く結びつける場所でございます。

 ご参加の皆々様には、どうかハートフルな時間をお過ごしくださいますよう、お願い申し上げます。」


 タキシードに身を包んだ年齢不詳のスタッフが、まるで古き昭和の司会者のように芝居がかった調子で挨拶を締め、恭しく一礼をした。

 それを合図に、会場の四隅に設置されたスピーカーから柔らかなオーケストラが流れ始める。

 

 参加者と呼ばれた人間たちは動き出す。


 運命の相手を、見つけるために。

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