第5話

秘密の書斎

素知らぬ顔で入ってくる男。

その隣には、主の娘。


「ここが父の……。」


じっくりと部屋を見る娘。

立派な本棚には、四枚の色紙が飾られている。


足を止める娘。

男、思わず息を呑む。


「お父さん。」


娘、泣きだす。


「あ、えっと……。」

「すみません。ファンの方を大事にしてたんだなと。」

「……。」


娘、色んな引き出しを開ける。

全て空っぽの引き出し。


「整理するまでもなかったみたいですね……。」

「そう、ですね。」

「……お父さんらしいや。」

「?」

「全てを空っぽにして笑いと戦ってるって、よく威張ってましたから。」

「……。」

「有難うございました。」

「いえ。」


部屋を後にする二人。

引き続き、遺品整理を始める娘。

仕事に戻る為、マンションを出る男。






管理室

男、①と②、管理人が集まっている。

各々、封筒を見せ合う。

中のお金とレシートを真ん中に出す。

数える四人。

全部で六万円弱。


管理人

「丁度良い額ですね!」

「ミッションクリア!」

「……大丈夫だった?」

男 

「どうにか。」

管理人

「良かった。」

男 

「何だか詐欺師になった気分でしたよ。」


男、俯き加減で娘の様子を話す。


管理人

「嘘も方便ですよ。」

「泣かれちゃうとなぁ……。」

「後になって、色紙にファンが絵なんて描かないってならなきゃ良いけど……。」

男 

「……俺は絵を描かない人生を歩むよ。」

管理人

「大袈裟ですって。」

「ファンアートには違いないんだから。」

「どうせなら見て欲しかったなぁ。」

男 

「何か見てくれてる気がする。」

管理人

「急場凌ぎなのに、上手く行きましたしね。」


お金を一つに纏める四人。

顔を突き合わせて笑う。


「詐欺師の次は盗賊になってきます。」

「盗賊って言うより妖精でしょ。」

「随分とファンタジーだなぁ。」

②「歯抜けたらお金払ってくれるヤツ。」

管理人

「ハイカラですねぇ。」


男、盛り上がる三人を横目に部屋を出る。

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