物語ることは

純文学同人 上陸

物語ることは ―― 張文經

物語ることは空の青をはきだすこと

ふれられないものたちをもっとも遠く

もっともおおきい風にのせること

いつからか

わたしの肺には空の青がみちていて

星と星のあわいの、何もない、に共鳴りしてばかりだった

宇宙とよびちがえられた

こごえる母のしんたいにこがれて

ほんのかすかでも、かのじょを青く戻そうとねがった


空の青をはきだす

たくさんの嘘をわたしは言った

迷宮にすらなれない街にでて、人々としきりに数字をならべた

このせかいの回転そのものになることを恐れて

獣たちを食した

あの河原に火をはなって、暖をとることさえした

たくさんの嘘をわたしは言った

もっとも光である嘘をわたしはまだ言っていない


青をはきだす

わたしの荒野をおしひろげる

わたしたちを包囲し、せかいのふりをする

しすてむの群れに、もっとも静かな草花をさしだす

そうしてかれらの虚無を

新しい苗床にかえればいい


もっとも光である嘘

たとえば、わたしたちが契約のない肥沃な土地に

翼のようにくらしたときの

さまざまな子守唄

たとえば

語り部たちの墓がどれもたしかに

呪いであり、救いであること

雨のひとつぶずつ

石のひとつずつ

に、つけられた永いながい名前

もう会うことのないひとが残した

冬のゆびさきの温度

たとえば

たとえる、わたしのこの声

あふれていく、この空の青

わたしたちが纏うことのできる

いちばんおおきな無形の衣服、

とおい星まで魚のように、守ってくれる


わたしの声、その音のふるえ

うすらぎながら

せかいの耳になり

やがては言葉の森林をひろげる波になっていく

その、青

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物語ることは 純文学同人 上陸 @maisonderadon

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