第9話 マ・クワ・ウリウリ

 

「行かない!」

「なんでじゃ。ヘタレか!」

「ヘタレで結構! そもそもワイバーンってなんだ! ドラゴンでしょ!?」

「違うのじゃ! ドラゴンは高貴で強靭で美しいのじゃ!! ワイバーンはトカゲなのじゃ!!」

 変なヤツに目をつけられたなあ、などと後悔してももう遅い。

 争いに割って入ったら強制的にパーティーを組むことになった。


「お互い初心者さんですし、パーティーを組まれた方がよろしいですよ!」などとクレア女史が口走り、目では「その子を引き取って」と訴えていた。

 面倒ごとを押し付けられた気がしないでもないが、実際、単独で出来る依頼など限界がある。

 ただもう少し、普通の人が良かった。


 マウス・ヴェサ・エレクトロニカ。

 自称、ドラゴンの姫さま。

 身長150センチほどの幼女である。

 人間年齢15歳とはいうが、スクール水着みたいな衣装に身を包む彼女のお胸は、なんとなくあるかな? 程度だしロリ顔だった。

 そして、好戦的過ぎて俺の中ではチンパンジーという認識。



「ほら、それよりもさっきの職員さんが斡旋してくれた思い出の指輪を探してください、ってヤツにしよう」

「指輪なんぞ戦いがいが無いのじゃ!!」

「戦闘民族かよ」

「よき竜王というものは、常に強くてカッコいいのじゃ! 我はカッコいい大人のレディになると約束したのじゃ!」

「たぶん蛮族になれって意味じゃないぞ、それ」

 俺の手元には、張り出し前の『畑のどこかで思い出の指輪を落としました。探してください。金貨5枚』というトンデモナイ依頼書があった。


 指輪を探すだけで金貨5枚。

 いかにぶっ壊れ報酬かというと『ゴブリン要塞の完全破壊』とかいう依頼が金貨5枚。

 長らく張り出されているけれど、リスクの方が大きいとかで誰も手を付けない。

 それと同額とか破格すぎる。


 アンディアス氏いわく「つい、いつものクセで営業スマイルを見せてしまった」ことによる事故のお詫び。

 クレア女史いわく「(我々に食って掛かる面倒な)幼女を引き取ってもらえる」見返りとのことらしい。

 今後も優遇しますよ! と言っていたので色々了承したわけだが・・・・・・。


「ユーマよ! ワイバーンを討伐するのじゃ! 銀貨45枚じゃ! 数が多い!!」

「金貨4枚と銀貨5枚な。それ」

「ぬぬぬ・・・・・・。戦闘での名誉は金で買えんのじゃ」

「俺はそんなもん欲しくない」


 戦闘民族過ぎて、まったく嚙み合わない。

 間に入ってくれる潤滑油的な人がいないと話が進まない気がする。

「こう、両方の意見を聞いて、中立的な見方のできる常識人が欲しいわけで」

「なるほど。ユーマ様、私の力が必要と」

 思わず漏れた言葉に返ってきた返事。

「ん!? あれ、シスター?」

 見上げた先には、ウリウリの姿があった。

 あ、外行きでも深いスリットの入った法衣なんスね・・・・・・。


「迷子になったんじゃないかと思って見に来ました!」

「よく迷子になったと分かったね」

「そ、そんな気がしたんですよ! 出来るコなんで勘も効くんです!」

「今度は誰じゃ。ぬしもぼーけんしゃかや?」

「こんにちは。教会で謙虚にシスターをしているマ・クワ・ウリウリと申します。ドラゴノイドさん」


 謙虚とは?


「マウス。マウス・ヴェサ・エレクトロニカじゃ。超カッコいい大人のお姉さんなのじゃ」

「かわいいお姉さんですね」

「むう・・・・・・まあいいのじゃ! ほれ、ぬしも加われば、あとひとりでトカゲ退治に行けるのじゃ!」

 この幼女は、目に入った人間すべてをパーティーに組み込もうという気だろうか。

 だいたいシスターは、教会勤めで冒険者なんかやらんだろ、なんて思っていた瞬間もありました。

「んー? トカゲってそのワイバーン討伐の事ですよね? それはお断りしますけど」

「パーティーなら参加しますよ!」

「え!? 教会のお仕事は?」

 少々、HENTAI気味な出で立ちが気になるが、実際問題そこそこ頼りになりそうな人物だ。

 同行してくれるなら助かるような気がする。

「ユーマ様。教徒たるもの内勤以外に大切なお仕事があります」

「なんじゃ?」

 俺の代わりに相槌を打つマウス。

「そう! 布教活動です!!」

 ぐっと拳を握りしめ、斜め上を仰ぎながら力強く答えるウリウリ。

 つまりは、冒険に同行します。行った先で布教活動します。

 信者を増やします、といったところであろう。

「な、なるほど」

「なんじゃか分からんが、我は人数が揃えば良いのじゃ。よろしくなのじゃ」

「よろしくマウスちゃん!」


 女子同士、何か通じるものがあったのだろうか。

 熱く握手を交わしていた。

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