夢々話
カノン
第1話 「病室から外へ」
目が覚めると、そこは病院の一室だった。
「どう、なってんだ......?」
わけもわからず辺りを見回していると、病室の扉が勢いよく開いた。
「ソウ!!、大丈夫か!?」
勢いよく叫びながら、彼はずかずか部屋に入ってきた。
「正、おまえ少し静かにできないのか?」
何があったのかはわからないが、耳に響くその声を聴いて相当焦ることがあったんだろう。そう思い私は彼に向き直ると彼が話し始めた。
「......が、学校が、俺たちの教室が......”爆発”したんだよ!!!」
彼の、あまりにも急すぎる発言に対し、何を言っているんだ、おまえ。と、思わず口にしかけたが、ぐっと堪えてどういうことか聞いた。
彼が言うには、四限目終了間際、つまり生徒の大半が気絶しているタイミングで ”ドカァン” という音とともに、教室の壁が吹き飛び、黒煙が昇っていたらしい。
ただ、聞いているうちに彼の話には不可解な点があった。
「教室が爆発したのに、俺たちは無事だったのか?」
あまりにもおかしな点だったため聞いたが、彼から、もっとおかしな答えが返ってきた。
「俺たちだけじゃない。うちのクラスのやつの眠っていたやつ、全員無事だったんだよ。何の外傷もなくな。」
「......起きていたやつは、そんなに酷い状況だったのか。」
聞いたとたん、空気が重くなった気がして、私は息をのんだ。
少し時間がたった後彼は口を開いた。
「......死んだよ。」
「......は?」
それこそ理解が追い付かなかった。
「......すこし、時間をくれ。頭の整理がしたい。」
私はそう言い頭を抱え込んだ。
溜息が出てしまう。人が死んだことに対するショックはそこまで深くなく、もう受け入れてきている気がする。もしかしたら自分が死んでいたのかもしれない。そんな状況にいたのに、あまりにも無頓着すぎる。
自分というのは、ここまで薄情なのだと思い知った。
「ハァ......」
ため息が出てしまう。ただ、今は自分のことではなく、周りのことを気にすべきだろう。
「......死んだのは、誰だ?」
まず初めに出てきた疑問は、誰が死んだか、だ。
起きている奴が死んだ、という事しか聞いていないが、まず誰があの空間で起きていたのか、確認すべきだ。
「......それが、わからないんだ。」
は?と思ったが言うのをやめた。多分こいつも事情を深く知らされていないんだろう、だからこうやって聞き込みをしているんだろうと思ったからだ。
「なら、今お前が知ってることをもう一度全部話せ。一緒にいろいろ、考えよう。」
「あぁ。」
彼はそう言って、今自分の知っている情報をすべて話してくれた。
現状を要約すると、こいつは学校で教室が爆発し、先生と生徒一人ずつが死んだが、誰かまでは教えてもらえなかったため、クラスメイト全員の病室を回って話を聞いて回ってる。という事らしい。
彼の話を聞いた私は、溜息を吐きながら両足に力を込めて立ち上がった。
「ど...どうした?ソウ。」
「......あ?みんな無事か見に行くんだろ?早く次のところに行こうぜ。」
「お、おう!」
特段怪我もしてるわけではないし、病室で一人暇しとくよりは良いだろう。そんな思いで彼と行動を共にすることになったが、この時の私は知る由もなかった。この先の道は地獄の道だということを。
私の病室を出て始めに向かっているのは、病院の受付だ。
そりゃそうだ。誰がどこにいるかなんて私たちにわかるはずもない。そのため、クラスメイトの病室を、知っている人に聞く必要がある。じゃぁ、知っているのは誰か?病院の人間だ。だが、そこら辺にナースや医者などの姿は見えない。忙しくしているのかもしれない以上、呼び出すのは気が引ける。と、彼が言うので、まずは受付に行くことになった。
「受付は...ここか。」
私がつぶやくと、正が我一番に飛び出していった。
「す~み~ま~せ~~~ん!!!」
......制止する暇さえなかった。
「ひゃ!」
......悲鳴のようなものが聞こえた。なぜ人生こうもうまくいかないものだろうか。
「病室で安静にしてなさい!」
そりゃ、そう言われるだろう。
考えればわかる。間近で爆発が起こった人間を、病院という医療施設が黙って放置させるはずもない。目立った外傷がないからといって、自由に施設内をうろうろしている私たちが、注意されないはずがない。
「こりゃ何も教えてもらえないな。」
「そうだね。いったん戻ろうか、ソウ。」
ため息が出そうだ。そう思いながら私は、受付を後にする。
病室に戻った私たちは、次の行動を考えていた。
「やっぱり、これしかないか......」
「そうそう、俺はこのやり方でお前を見つけたんだから。」
「そりゃ、そうだけど......」
やはり、躊躇ってしまう。
「......だからって、手当たり次第に全部の部屋回るのは、さすがにどうかと思うぞ。」
確かにこの方法なら、院内に誰がいるのか、誰がいないのかがはっきりする。だけど、このやり方は関係のない人の病室に入ったり、受付にいた人を呼ばれると、面倒なことになる恐れがある。
「なぜこうなってしまうんだろうか......」
そんな頭を抱えている私に、病室の扉はたたかれた。
「は~い。」
正が扉を開けた。......彼は行動が早い。
扉が開くととある人が入ってきた。
「君は、クラスメイトの......」
「かのんだよ~。
......決して、決っして忘れていたわけではない。ほぼ毎日のように学校を休み、登校したかと思ったら休み時間には姿を消し、放課後は下校する様子すら見つからない。そんなだから黒い噂が後を絶たない。そんな男のことを忘れるわけがない。
だが、だからこそ、そんな男が......
「何の用だ?」
「な~に、そんなに難しい話じゃないよ~。」
彼は、へらへらしながら近づいてきた。
「今回のことについて、いろいろと調べようとしてるんでしょ?」
「おぅ、そうだ!!」
......今後正とは距離を置こうか、とそんなことを考えてると、少し考えていた彼が、口を開いた。
「僕は、この病院にいる人がどの病室にいるのか知ってる。」
「まじか!?」
驚いた。だが、よかった。これで面倒ごとにならずに済みそうだ。
そう思っていると、
「でも、ひとつ聞かせてほしい。」
彼は向き直って聞いてきた。
「なんで、こんな事をしているんだい?」
「......」
「悪いことは言わないからさ、病室でじっとしていなよ。一度寝て、ここを出られるようになったときに、大人たちが結果を教えてくれるかもしれないんだよ。なのになんで、自分から危険なことに首を突っ込もうとしているんだい?」
......なるほど、もっともだ。まったくもってその通りだ。だが、
「......断らせてもらおう。」
別に正義感が強いってわけじゃない。野次馬が好きってわけでもない。ただ、自分の周りで起こったことについて知りたい。そう思っただけだ。それは不自然なことだろうか?友達の安否が不安で不安で仕方なく、居ても立っても居られない。そうなることって、おかしなことなのだろうか?私はしょせん子供だ。だがそこに、見ていられなくなるから、危険だから、残酷だから、そんな大人の都合を挟まれて、何もさせてもらえずに、ただ待っている。そんなことはできなかった。
その先がどんなに困難であろうと、一度決めた以上最後まで貫き通す。そんな覚悟があるのなら、選択の自由はある。そう、私は思った。だから
「行かせてくれ。」
「なんの為にかい?」
「......ホラー映画なんか見たことはある?ああいうのは振り返ったりしなくてもいいのに振り返ってるように見えるでしょ。でも、違うんだよ。安心するために振り返ってるんだよ。「何もいなくてよかった。」「怖いものなんてなかったんだ。」ってね。今の私と同じだ。「友達が無事でよかった。」って、いち早く思いたいだけなんだ。だから、行かせてくれ。僕は安心したいんだ。」
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