闇覚醒して主人公にボコされるかませ犬に憑依したが原作と違いすぎて戸惑ってる
恋狸
第1話 イタイタ悪役貴族に憑依
円形状の部屋の中で向かい合う少年たちがいる。
黒の鎧を纏い、闇色のオーラを漂わせる少年は息も絶え絶えで、至るところから血が噴出している。
顔は怒りと悔しさで歪んでいた。
もう一人の少年は、対称的に真っ白な騎士服を纏い、金色に輝くオーラを漂わせている。
悲しみと微かな侮蔑の籠った瞳で蹲る少年を見ている。その体には一切の傷はない。
二人との間には隔絶した力の差が存在していた。
「なぜだ。なぜ俺はお前に勝てない……! 血の滲むような修行をして、我慢して。僕は強くなってきた! 悪魔にだって魂を売った! それなのに!」
「君は勘違いしている。僕は皆の希望の力でここまで来た。誰かを救うという高潔な精神で強くなってきた。君は確かに強いよ。でも、仲間がいない。君と僕との間にあるとしたらそんな差だろうね」
そして傷のない少年は去っていった。その瞳には、すでに倒した少年への感情は存在していない。
「くそ、くそ、クソおおおおおお!!!!」
傷付いた少年の他には誰もいない部屋で慟哭が響く。
命が流れ出し、その最後の雫が零れ落ちるまで、彼はただただ悔しさに嘆くのであった。
☆☆☆
「うわぁ……うわ、うわぁ……イタい……! どっちもイタい! 闇覚醒ドゥン! のカマセくんも、それを見下す主人公してない主人公も光覚醒のドゥン! で激しくイタい!」
俺は見終えたアニメの一幕にそんな批評を下した。
ただただ中学2年生の頃を思い出し、共感性羞恥に悶える時間だった。イタい、なんて言葉で表せない。視聴している間、最早俺の心が痛かった。
一人しかいない部屋でイタい、イタいと喚く程にひっでぇアニメだった。
壁が薄かったら『痛い』と勘違いされてお隣さんに救急車を呼ばれるオチだろうが、生憎と一人暮らしで防音性が高いためそんな心配は無用だった。だから声を抑える必要もなく叫ぶことができる。
ラストシーンだけ見るなら、闇の使徒(笑)のカマセくんの不遇さにホロリとしてしまうものだが、その過程に全く共感することができない。
何せカマセくんは、いいとこの貴族のお坊ちゃんで、何不自由なく生活してきたのだが、そこに現れたのが主人公くん。初めて現れた自分の権力が効かない相手に憤慨したカマセくんが、テンプレのように突っかかり撃退される。その後も事ある毎に絡み、全てに敗北するという徹底的なカマセぶり。最後は悪魔に魂を売って闇覚醒(笑)の果てに傷一つつけれず敗北するのだ。
開発者組はきっとカマセくんに似た人に明確な憎悪が存在すると思う。それくらい扱いが酷すぎるキャラだった。
「だからと言って主人公が正義か、って言われれば違うしな。カマセくんいなかったら完璧に悪役だぞ、あいつ……」
主人公くんはとある村の平民産まれの超絶イケメン。
可愛い幼馴染みがいて、現役引退した騎士団長に師事している初っ端特別扱い。その上『君の才能は私を超える』とか言われちゃって、どんどん強くなる都合の良さ。
可愛い幼馴染みは、そんな主人公に負けない、とこれまた都合良く現れた最強の魔術師に師事して覚醒。
16歳の時に、引退騎士団長の伝手で王立学園なる『すごいところ』に入学。ちなみに主人公は主席、幼馴染みは次席合格である。あらやだすごい!(侮蔑)
そして『わーすごーい!』を繰り返しながらハーレムを形成。例に漏れず難聴&ご都合主義である。
可愛いヒロインたちが主人公を取り合いながら、迫りくる敵を愛のパワー(笑)でワンパンチしていく展開だ。
ここまで行くと面白いよね。
そんな主人公の悪癖は、弱者をさり気なく見下す外道っぷり。
例のカマセくん然り、君はこんなに弱くて可哀想だ、的なニュアンスの言葉を発した上でボコす、というゴミみたいな性格の持ち主なのだ。
おまけにそれはヒロインに受けが良い。
『あんなゴミ、死んで当然よ』とヒロインたちが口々に言って、主人公が『そんなこと言ったら(ry』と心にもないことをクチにする。
「イタい、というか最早酷いよ主人公。主人公って肩書きを貰っただけの外道と一緒じゃねぇか」
そんな批評を、淡々とこれまで見たアニメの感想、というメモ帳に書き入れていく。あくまで個人の感想だから、ネットに投稿したりなどはしない。
このアニメのファン……がいるのか知らんけど、いたら良くない感情を抱くだろうし、主観をツラツラと自説として語るほどイタいモノはない。
「ヤバい、目眩してきた。流石に一クールぶっ続けはきつかったか」
立ち上がるとフラッとよろける。
これはすぐに横にならないとぶっ倒れる。立ち眩みもあるだろうが、最近の寝不足と画面をずっと見続けていたことも原因にある。
フラフラとしながら近くにあるはずのベッドに移動しようとすると、無造作に地面に放っていた本に躓いた。
「あ、これまず──」
ガンッ!
机の縁にぶつけたか鈍い痛みが頭に走り、急速に意識が遠のいていく。
これはまずい。
誰か助け──
☆☆☆
「ふぇっふぇっふぇっ…………嘘やん」
人間驚くと声が出なくなるというが、俺の場合は毒殺してそうなお爺さんの笑い声が出た。
机の縁にぶつけたことを最後に失くした意識。
そのまま目を覚ますと、病院……ではなく鏡の前に立っている見知らぬ自分と向かい合っていた。
いや、ある意味知っている。
未来のことまで知り尽くしていると言っても過言ではない。
まだあどけない黒髪の少年。
身長はそこまで高くないが、程良い筋肉の付き方をしている細マッチョイケメン。
どうやら俺は、最後に泣きながら息絶える闇覚醒のカマセくんこと、ゼノン・レスティナータに憑依してしまったようだ……。
「例えこれが夢でもこいつにだけは憑依したくなかった……」
覚めるなら覚めてくれ。
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