真夏のオマツリ短編7本

長瀬

第1弾

彼の筋張った首筋に包丁を突き立てる。血は少しずつあふれるけど私の心の傷にはまだ及ばない。そして、彼は何もなかったようにニマニマと口元を歪ませている。


「そんなことしても君が疲れてしまうだけだよ。まさに徒労。無為で愚かな行為だ」


そうかしら。貴方が関係を持った女は全員殺したわ。復讐は意味が無いっていうけれど。そんなもの復讐しなくても生きていける狂人が言えることよ。

私がすっきりして前を向くためにやるの。貴方はもう関係ない。


と、急に彼がくつくつと笑い出した。


なにが、おかしいの。

「悪いね。5年前の元カノだけどまだ君が殺せてないみたいだよ」


ふーん。一人殺し損ねてたんだ。……まあいいや、あなたはまだぴんぴんとしてるしまた殺してくる。


「くく、くくくくく」


なに?


「もう小さい粘着性の家の中で息絶えてるよ。とっくの昔にな」


ぶちぶちと、血管が震えて目の前がまっかに。

『殺す!!!殺してやるわ!!!!!!!!』


マンション中に絶叫が響き渡る。



─────────END






















*


通報を受けて警察が突入した部屋には、衰弱した少女と針の刺さった無数の虫、ばらばらになった熊の人形が横たわるだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る