港の定食屋『Sternen zelt』
金森 怜香
第1話 序章
――急募
―――ひと夏のみ
――――業務内容は定食屋の店員
―――――賄い付き、宿付き
「お? なんだこの募集広告。面白いな!」
茶髪の短髪、Tシャツにデニムというどこにでもいそうないで立ち。
そして、背は175㎝前後で少し顔が幼く見える青年が広告を手に取る。
彼の名は……
「おい、涼……」
そう、彼の名は涼。
水月 涼が本名だ。
隣を歩く、黒い短髪、ポロシャツにデニムを履いた同い年か一つ二つ程度上の青年が声をかける。
「悪い悪い、タケ」
彼の名は、尊。
あだ名はタケという、涼の親友である。
「あ、でも広告もーらお! どうせ、今日か明日にはバイトの合否が分かるしさ」
「それもそうだけど」
「大学生活、夏なんてバイトしてなんぼじゃん。というか、バイトしねえとさ……」
「そういや、お前バイト先が閉店になって困ってたもんな……」
それは、一週間前のこと。
涼がバイトしていた本屋が閉店してしまい、彼は途方に暮れていた。
幸い、親が仕送りをしてくれていたのと、できるだけバイト代を貯蓄していたおかげでなんとか最低限の生活はできているのだが、やはり彼も遊びたい盛りである。
「遊びに行きたいぞ、俺も」
「そうだな。このままじゃ遊びに行くなんて到底無理だもんな」
尊は笑って言う。
そんな会話をして笑っていると、涼のスマートフォンが着信を告げる。
「はい、はい……、あ……、わ、かりました……。ありがとうございます……、はい、失礼いたします」
尊は電話の口調で何が起きたかを察した。
「あー……、えっと……」
「ハハハ、バイト、ダメだってさ……」
「あー、でも、ほら、何とかなる様に俺も手伝うから、そう気を落とすなよ……」
「……そうだ! と言いたいところだが、こうも暑いと参るよな。どっかで涼んで話そうぜ」
「お、おう!」
二人は適当なカフェに入る。
「俺はアイスコーヒーにしようかな」
「んじゃ俺も。すみませーん」
二人はアイスコーヒーを頼む。
「そういや、どこに応募してたっけ?」
「本屋。俺、本好きだし……」
「そうだったのか……」
「今回は見送りってさ。けど、ここで躓いてばかりじゃいられないよな」
「う、うん……、まあ気持ちはわかる」
「それで」
「切り替え早いな!」
「いつまでも引き摺っていられないって。んで、話を戻すけど」
「うん……」
「さっきの広告のとこ、応募しようと思う」
「良いんじゃないか?」
二人は改めて広告を見る。
ひと夏限りの定食屋の店員。
そして、宿と賄い付き。
時給は、元の本屋の時給より少し高い。
「じゃあ、俺は応募してみる」
「おう! もし採用されたら、招待してくれよ」
「おう、もちろん」
二人は笑って会話する。
そして、涼は目の前で定食屋に応募した。
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