魔女の花が囁くとき

黒猫ゆうみ

第1話 鳴海 涼 ✕ 朝

『ピピッピピッ……』


いつものスマホのアラームの音に、私は短く唸ると布団から腕を出して、手探りでいつもの場所にあるスマホに腕を伸ばした。


そしてスマホを自分の顔の前に持って来るとアラームを止めまた布団に潜り込もうとした。


だが一度目が覚めてしまうと、遮光カーテンの隙間から入ってくる陽光が気になって、仕方なく布団から出る。


私の名前は鳴海涼なるみりょう

小中高と東京で暮していたが、大学卒業後に就職し3年が経ってこの街に転勤で引っ越して来て一ヶ月が経つ。ど田舎と言う程、田舎ではないが、東京と比べると田舎と言わざるを得ないこの街は、東京で残業ばかりだった生活をしていた私には、のんびりしていて居心地が良い。


しかも駐車場付きの一軒家を、東京で借りていたアパートの家賃と同じ金額で借りる事が出来たのだから、ラッキーとしか言い様がない。

  

 

私はベッドから出ると洗面台に向かい洗顔をすると口を濯いた。

そしていつも通り手早く食パンをオーブントースターで焼くとカフェ・オレと一緒に朝食を済ませる。


一人暮らしの為、朝から誰かと会話をする事もなく、聞こえる事と言えば、テレビから聞こえる情報番組のニュースキャスターの声だけだ。


私はサクサクに焼けたトーストにたっぷりジャムを塗ると齧り付いた。


170cm近い身長に癖のない髪、切れ長の目に薄い唇の私は中性的な顔立ちをしている。その為、初対面の相手には男性に間違われる事もある。だが実際に話しをすると大抵は謝られる始末。


そして見た目に反して甘党なのを知ると皆驚く。それだけ殆どの人は見た目でその人の内面を決めつけているのだ。勿論、世の中の人全てが見た目で人を判断するとは思っていないが、私の場合は見た目で判断された回数の方が残念ながら多い。


そんな私にも親友と呼べる友達はいた。実家が近所で幼い頃からの付き合いの為、小学校、中学校と一緒に過ごした幼馴染だ。 

 

けれどそんな幼馴染とも高校で違う学校に通い、今は年に数回連絡を取り、長期休暇の時に会うくらいだ。つまり今の私には頻繁に遊ぶ友達はいないのだ。

 

だがそれも大人になれば普通だと思い特に気にはならなかった。


私は朝の情報番組番組を見ながら朝食を済ませると、空いた皿とカップを流しに持って行った。


そしてスポンジで皿とカップを洗い拭くと食器棚に片付け、洗面台に行き歯磨きをした。その後は髪を整え、軽くメイクをして家を出るのがいつものルーティンだ。


私は一通り朝の準備を終わらせるとリビングの椅子の上に置いていた、仕事用のバッグとテーブルの上のキーケースを掴むと玄関に向かった。

そして玄関のドアを開けた私は足を止めた。


「んっ?」


ドアを開けた直ぐ先に白い花が一つポツンと落ちていたのだ。花弁はなびらが一枚とかではない、茎より上の花の部分が丸々落ちていたのだ。


私は花に興味が有る性格ではなかったので、チューリップや薔薇と言った誰でも知ってる花の名前しか知らない。その為、落ちている花の名前を知らなかったが、夏の生温い風が吹いた瞬間、その花から甘いエキゾチックな匂いがした気がした。


けれどその時は、この花が風に飛ばされて何処からか来たのだろうと思い、特に気にも止めず、玄関の鍵を閉めると自分の車に向かった。



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