【本編完結】見ず知らずの私にプロポーズをしないで下さい!
桃元ナナ
プロローグ
「ではリサ殿、俺と結婚する気は?」
「はあ〜?あんた、馬鹿じゃないの?」
私の返答に周りの人たちは、一斉にこちらを向いた。
不敬とか、そんな問題、頭からすっぽ抜けてしまうほど、私は困惑していたし、怒っている。
目の前には、私の手を勝手に握っている、この国の若き国王、エディフィス=フィッツ。
女性達が悲鳴を上げそうな整った甘い顔立ち、銀色の髪と瑠璃色の瞳。
すらっと背の高い彼を見上げで、私は睨み続けている。
女性受けがよく、いや良すぎて嫁探しの真っ最中。
前国王の弟君で、亡くなってしまった先王の代わりに即位して2年。
今だに婚約者候補の名前すら上がらない人。
従姉妹のお茶会に、連れてこられた私は王宮の庭にある東家の端っこに立っていたわけだけども。
何故かこの男の目に留まり、今の状況に至る。
「ほんの数分前に初めて会った私の何を知っていて、そんな事を?」
「ん、直感だな」
見惚れるような笑顔に、周りの侍女達や従姉妹は悲鳴が聞こえてくる。
彼の側に控えている従者らしき男性は、完全に固まっている。
(昨日会った時は、まあ偽りの姿だったけど、こんな軽薄そうな人に見えなかったのに……)
ハンカチをそっと渡してくれた人。
その優しさは嘘偽りではなかったと思うけど。
(叔父様から聞いた話にはよると、この人は笑わないのではなかったの?)
今の状況は一体――。
誰か説明して欲しい。
助けを求めるように従姉妹を見るけど、完全にさっきの笑顔にやられてしまったようで、赤い顔をして俯いている。
(この危機は自分で脱しろということね……)
私は溜息をついて、頭を下げた。
本当はもっと距離をとりたかったけど、手を握られている状況では無理だ。
「――エディフィス国王、他国育ちゆえ、失礼な物言いお許しを」
少し笑顔を浮かべれば、エディフィス国王の手が緩んだ。
「――エディで良い。こちらもリサと呼ぼう」
(勝手に愛称呼びしないでよ!)
心の中では思うけど、口には出来ない。
なんと言っても、この求婚は受け入れるわけにはいかないのだ。
うまく断る方法を模索するしかない。
「わたくし、身体が弱くずっと静養しておりましたの。こんな都会に住めるわけはありませんわ」
もっともらしい嘘。
本当は身体も弱くもないし、むしろお転婆だといつも兄からは怒られている。
「そ、そうですわ。それに従姉妹はすぐに国へ戻ってしまうので……」
消え入りそうな声で従姉妹が応戦してくれている。
さっきのショックから立ち直りが早くて、ほっとした。
「そういうわけですから、わたくしはあくまでも従姉妹の付き添いとして参っております。まだ従姉妹は15歳ですので……」
「リサはいくつなんだ?」
「――17歳でございます」
「17、ねぇ」
全身を上から下まで見てから、国王はくすっと笑った――気がした。
「ちょっと!いくら背が低いからって――」
いつもの調子で口からするっと出てしまった言葉に慌てて口を閉じた。
(いけない、此処は他国。いつもの調子ではいけないわ)
「重ね重ね失礼を」
「いや、構わない」
エディフィス国王は、手で私の謝罪を制すると、従姉妹と向き合うように座った。
途端に従姉妹に緊張が走るのがわかる。
先程までとは打って変わった冷たい目。
これがこの人の本来の姿なのかもしれない。
「リサもこちらに」
従姉妹と隣同士で座るように言われると、私は断る術はない。
不服気味に歩き座ると、また国王は笑いを堪えているように見えた。
(失礼な男だわ)
昨日会った優しげな男性から、一気に最悪な印象まで落ちてしまったわけだけども。
だけど、この人に心の底から惹かれる日が来るなんて、夢にも思ってなかった――。
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