第5話
「何事!?」
美波はすぐに立ち上がり、あたりを見回す。凛も腰をかがめながら慎重に様子をうかがう。
他の人々は、困惑した面持ちできょろきょろとあたりを見回していた。
『お客様にお知らせいたします』
スピーカーから声がした。
『当モール東駐車場付近で、怪獣が目撃されました。繰り返します。東駐車場で怪獣が目撃されました。屋外にいらっしゃるお客様は、直ちに屋内に避難してください』
「「怪獣!?」」
二人は同時に駆けだした。
「もしもし野田班長ですか? 佐倉です。今北総イオンに来てるんですけど、怪獣が出たって。ええ、はい。今から確認に向かいます!」
美波はスマートフォンで報告を入れつつ走る。凛はそんな美波よりも前を行っていた。走りにくいヒールはすでに脱いで、カバンに忍ばせていたランニングシューズに履き替えていた。
奥へと逃げようとする客の流れに逆らいながら、東駐車場へ抜ける入口へとたどり着く。
「開けてください! 娘が、娘の姿がないんです! まだそっちにいるかも!」
「危ないですから下がって! あなたも避難してください!」
そこには防火シャッターが下りたエントランスと、不安そうに警戒に当たる警備員の姿があった。
警備員に食い下がっていた男は、モールの職員に引きはがされて運ばれていく。その姿をしり目に、二人は警備員に話しかけた。
「特異環境保安庁の者です!」
「話聞かせてください!」
二人の勢いにたじろぎながらも、見せつけられた保安官手帳に納得したのか話を始める。
「土手の向こうから、バカでかいトカゲみたいなやつが顔を出してきたんだよ。それも一匹二匹じゃなくて、たくさん! もう本当に死ぬかと思った……」
「トカゲ……」
「すんません、ここ、一瞬開けてもらってもいいですか?」
凛が非常ドアを指さす。防火シャッターの横につけられていて、人が一人どうにか通れるようになっていた。
「い、いやでも……」
「逃げ遅れた人がいるかもしれません。その確認もしたいんです!」
横から美波も口を出す。
警備員は迷いながらも、ドアの鍵を開けた。
「気を付けてくれよ。怪獣がうろついてるんだから……」
不安そうに言う警備員に、凛は笑って答えた。
「誰に言ってるんすか。アタシら、特異環境保安官なんっすよ?」
「任せてください。怪獣、必ず駆除して見せます!」
美波も笑顔を見せた。
それからすぐに顔を引き締めて、鍵の開いたドアを開ける。
「……どうだ?」
後ろから凛も顔を覗かせた。
「見えないわね」
ドアの向こうには、満車の駐車場が見えた。雲一つない青空の下、夏の厳しい日差しに照らされた車たちが整然と並んでいる。人の姿も、怪獣の姿もない。
「いないのか? 気のせいとか?」
「まさか」
美波は体を乗り出した。
その時、スマートフォンからけたたましいサイレンが鳴り響く。
『怪獣警報、怪獣警報。怪獣警報が発表されました』
緊急速報メールに、美波は眉をひそめた。
「わかってるわよ、そんなの」
「……っ!?」
違和感に気が付いた凛が、美波を引っ張り戻す。一瞬遅れて、横から巨大な影が食らいついてきた。
「ひっ!?」
「壁に張り付いてやがった!」
美波を食べ損ねたそれは一度日向に出ると、ドアに向かって正面を向く。
乗用車と同じぐらいの大きさがある、ヤマトハリトカゲの幼体だった。ハリトカゲは首筋の針を、怒ったように逆立たせる。
そして全速力で飛び掛かってきた。
凛は思いきり扉を閉める。すぐ後に、防火シャッターが大きな音を立てて揺れた。
「うわっ!」
凛が弾き飛ばされる。
「凛!」
「アタシは大丈夫! お前は!?」
「わ、私は大丈夫だけど」
鈍い金属音が再び響き、シャッターが大きくゆがんだ。ハリトカゲはこちらにターゲットを決めたらしい。
「ここ、獣害も想定した広域避難施設ですよね?」
美波は警備員に確認を取る。
「そ、そうですが……。あくまで大型怪獣を想定したもので、こういう小型のものは……」
バキンと何かが割れる音がした。シャッターに大きな隙間が空き、ハリネズミが顔を覗かせる。
「……ここに逃げ込んだ人を、とにかく反対側に避難させてください」
美波は低い声で、そっと言った。
「暴れたり、大きな声を出してはいけません。とにかく落ち着いて、静かに逃げるんです」
「で、でもどこに」
「連中、東から来たんだろ? なら西に逃げろ。怪獣避難の基本は、怪獣から遠く、反対方向へ逃げる、だ」
凛はそう言うと、警備員の腰に手を伸ばした。
「こいつ、借りるぞ」
腰にあった電飾付きの誘導棒を手に取る。
「あ、あなたたちは?」
「私たちはこいつを何とかします」
ハリトカゲはシャッターの隙間から体をねじ込もうとしている。美波はそんなトカゲをじっと睨んだ。
「だからその間に、逃げて」
警備員は戸惑いながらも逃げ出した。
凛と美波は顔を見合わせた。
そして、凛が誘導棒の電源を入れる。赤色に点滅をし始めた棒を、ハリトカゲの目の前で大きく振った。
ハリトカゲの視線が、誘導棒に移る。その隙に、美波がそっと横のドアを開けた。
「おら、取ってこい!」
そのドアから、凛が誘導棒を思いきり投げた。ハリトカゲは首をシャッターから引っこ抜くと、棒に向かって走って行った。
「よし」
目論見通りハリトカゲが遠く離れたことに、凛はガッツポーズをする。だが、そのハリトカゲは、止まっていた車の陰から飛び出してきたもう一匹のトカゲに噛みつかれた。
「うわっ」
「共食い……」
二匹は首の針を逆立てながら、喧嘩を始めた。
「い、今のうちに」
美波はドアを閉めると、あたりを見回す。
「何かこの隙間を塞げそうなものを」
「……なあ、美波」
凛はシャッターの隙間からじっと外を見つめていた。
「あそこ、誰かいないか?」
「は?」
美波も慌てて外を見る。
「ほら、あの白のセレナの後ろ。車の下に足が見える」
その言葉に、美波は目を凝らす。ミニバンの後ろ、ちょうど陰になって見えないところだが、地面と車の間に小さな人間の足が二本見えた。水色の子供用靴を履いている。
「子供……」
「だよな!?」
周囲には争いを始めた二匹の他に、さらにもう一匹のハリトカゲが現れる。どれも自動車サイズで、おそらく視界の外にもまだまだうろついているだろうことが予想出来た。
「助けなきゃ」
それでも、美波は震える拳を握りしめた。
「私が行くわ。凛、何かあったら援護して頂戴」
「……わかった」
凛は渋い顔で頷いた。
「でも、死なないで」
「あたりまえじゃない。あの子、助けないと」
美波はあっけらかんと言う。
「じゃ、行ってくるわね」
美波はドアを開け、今度は慎重に外へ出た。
「1、2、3、4、……5、6。多いわね」
駐車場には6匹のハリトカゲがいた。各々のそのそと歩いたり、威嚇しあったりしている。先ほどまで喧嘩をしていた2匹も、すでにお互い興味を失ったのか、今はもう離れて歩いていた。
子供が隠れている乗用車は、エントランスから直線距離で20メートルほど。出てすぐのところにある、駐車場内の道路を横切って向かわなくてはならない。
車は満車だが、ハリトカゲが踏みつぶしたり、のし上がったりしていて、ぐちゃぐちゃになっているものも多かった。
「急がないと」
美波は身をかがめると、そっと道路を横断する。そして一番近くにとまっていた車の影に転がり込んだ。
気づかれた様子はない。美波はほっと胸をなでおろす。再び顔を上げると、車の間を縫って子供の元へと足早に向かった。
「……大丈夫!?」
美波は駆け込むと、子供は震えて耳目を塞いで立っていた。
「助けに来たわ。もう大丈夫だから」
子供が顔を上げる。幼稚園ぐらいの女の子だった。女の子は顔を上げる。
「大丈夫。大丈夫だからね」
美波は女の子を抱きしめる。女の子は震えながら、美波の体を抱きしめ返した。
「怪我はない?」
「うん……」
「あなたのお名前は?」
「モニカ……」
「…………」
美波は一瞬固まった。だがすぐに、小さく首を横に振る。
「モニカちゃんね。無事でよかった。じゃあお姉ちゃんにしっかり掴まっててね」
美波はそのままモニカを抱き上げた。
「おねえちゃん……」
「私は美波って言うの。よろしくね」
「あの、美波おねえちゃん……」
「おねえちゃんにギュッとしてるのよ」
美波はエントランスにいる凛に合図を送る。凛はドアを開け放つと、大きく手を振った。
周囲の様子をうかがうと、ハリトカゲたちはちょうど他の方向を向いていた。近くにもいない。
チャンスは今しかない。
美波はモニカを抱えて、全速力で走りだした。
「バカッ! 後ろ!」
凛が目を見開いて叫ぶ。美波は振り返らなかった。代わりに、自分に向かってくる地響きを聞いた。
歯を食いしばって速度を上げる。自分のすぐ後ろから、何かが壊される音が響く。車が自分の横を吹き飛んでいく。
「来い!」
凛が両手を広げた。美波はその中に飛び込んだ。
三人はそのままエントランスの奥まで転がり込む。数秒後、ハリトカゲがシャッターを破って突っ込んできた。
「キシャアアアアア!」
鼻息が髪をたなびかせる距離まで近づく。
しかし腕が自動ドアの枠に引っ掛かり、これ以上中に入ることが出来ないようだった。三人は急いで起き上がると、館内に向けて走り出した。
「よく見ろよバカ! 土手超えてきたたんだよ怪獣が!」
「知らないわよバカ! 私は後ろに目はついてないの!」
「バーカバーカ! この死に急ぎ! 不注意女!」
「あんたに言われたくないわバーカ!」
凛と美波の2人は興奮状態で、走りながら罵り合う。
一階奥のフードコートまで来て、ようやく3人は腰を下ろした。
「はぁ」
「助かったか……」
避難が終わったのか、周囲に人の姿はない。代わりに片方だけ脱げた靴や、食べかけの食事、カバン、帽子などが散乱していた。
「ちょうどいいし、ちょっと休憩しましょう。モニカちゃん、怪我はない?」
「うん。大丈夫」
「のど乾いてないかしら? お水貰いましょうか」
美波は凛にアイコンタクトを送る。
「へいへい」
凛は水飲み場で紙コップを三つ取ると、水を汲んで持ってきた。
「ありがと」
「おう」
美波は礼を言って、一気に水を飲み干す。
「ほら水。飲めるか?」
「うん……」
モニカは頷いて、両手で紙コップを持つ。そして水を飲んでから、凛は尋ねた。
「お父さんかお母さんは?」
「お父さん、どっか行っちゃった。お母さんはね、天国にいるの」
その言葉で、二人は息を飲んだ。
「……ごめんな」
凛がモニカの頭をなでる。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「モニカ」
「……っ!?」
凛もまた固まった。だが美波と同じように、すぐに気を取り直す。
「モニカちゃん、っていうのか」
「うん」
「……いい名前だな」
凛はそれだけ言うと、どさりと座り込んだ。
「凛、とにかくこの子を避難させて、それから父親を探しましょう。どこかに避難しているはずよ」
「そうだな。そういえば避難はどうなってるんだ?」
その言葉に、美波はスマホを見る。そこには飛鳥からの着信履歴が何回かついていた。
「すみません、佐倉です」
美波は電話を掛ける。ワンコールもしないうちに繋がった。スピーカーに切り替えて、床にスマホを置く。
『ちょっとー心配したじゃーん』
あまり心配していなさそうな飛鳥の声がした。
『今どこ? まだイオン?』
「はい。取り残された子供がいたので救助していました。そちらの状況はどうなっていますか?」
『こっちは大変だよー。市街地までまるまる警戒区域になっちゃったからさ、何万人逃がさなきゃいけないんだって話だよね』
「屋内退避指示ではなく?」
『そうそう。今回出た怪獣、ヤマトハリトカゲの幼体の群れでしょ? どっから出現して、いまどのあたりまで何匹出てるのかもわかってないから、進出阻止線の構築が難しくてさ。下手すりゃ市街地掃討戦だよ。自衛隊にも災派(災害派遣要請)がかかってるしね』
警戒区域に指定されると、原則として住民はその区域から退避しなくてはならなくなる。最も全員が一斉に逃げ出すことは物理的にも不可能なので、屋内退避指示が行政から出されることも多い。
しかし今回は、小型の怪獣が複数出現した。特異環境保安庁ですら、いまだ獣害の全容を把握しきれていないようだ。住民が残っていれば、銃火器を使用した怪獣駆除も出来ないため、今回広域が警戒区域に設定されたのだという。
「どこから出現したかわからない……っていうことは、特環孔に異常はないんですか?」
飛鳥の言葉に、美波は眉をひそめた。飛鳥も不思議そうに答える。
『そうそう。第一から第四まで、孔に異常は一切なし。今も平穏そのもの。だから今出てきてるハリトカゲは、未知の特環孔から出てきたんだと思うけど』
「そんな馬鹿な……」
特異環境保安庁が把握していない特環孔が発見されることは珍しくない。山林の奥深くや海底、工事中に孔が開いてしまうこともある。
しかし北総市にはそういった山や森の類はほとんどなく、全域が畑や田んぼ、そして住宅地となっている。大規模な工事も行われていない。
「一体どこから……」
『それを探るのも、私たちの仕事だよ』
飛鳥が諭すように言う。
横から凛が口を出した。
「ところで、イオンのお客さんたちはどうなってるんっすか?」
『今ウチと警察、バス会社が一緒になって区域外に避難させてる。怪獣が最初に目撃されたところでしょ? 民間人が残ってたら、駆除も調査も出来ないからね』
「死者は?」
『今のところ確認されてないよ』
「よかった……」
美波は胸をなでおろす。これなら、モニカの父親も生き残っている可能性が高い。
『今のところ、モールの避難完了は一二○○時を予定してる。子供がいるならそれまでに連れてきて。西駐車場に集めてるはずだから』
「わかりました」
美波は時計を見た。今は11時30分を周ったところだった。十分間に合うだろう。
飛鳥はそれに付け加えて言った。
『わたしたちもモールに向かってる。二人の装備も持って行ってあげるから、そこで合流しよう』
「了解しました」
『単独行動とか、くれぐれもしないように。被災者を安全に、確実に届けるんだよ』
そう言って、飛鳥は電話を切った。
「じゃあこの子を西駐車場まで送り届ければいいんだな」
凛がモニカの頭を撫でた。
「ねえ、おねえちゃん」
ふとモニカが言う。
「なあに?」
美波が答えると、モニカはもじもじと下を向いたまま言った。
「あのね、お人形……」
「お人形?」
「うん。ママのお人形、置いてきちゃった……」
思わず、美波は凛の顔を見た。それから視線をモニカに戻す。
「お人形、どこに置いてきたの?」
「車……」
「…………」
美波は目を閉じて天井を仰いだ。
車とは、モニカが隠れていたあのセレナのことだろう。
今から戻るのは無理だ。美波はそう思い、どうモニカを説得しようか言葉を選ぶ。だが、横から凛が口を出した。
「どんな人形だ?」
「凛!」
美波が止めるのも聞かず、凛はモニカに視線を合わせてしゃがんだ。
「お姉ちゃんがとってきてやる。どんな人形なんだ?」
「うさぎさん」
「うさぎさんだな。白い? それとも茶色?」
「白!」
「わかった。お父さんの車は、モニカが隠れてた大きな奴?」
「そう」
「よし。じゃあお姉ちゃん、今からうさぎさん助けてくるから、モニカはこっちの美波お姉ちゃんと一緒に先に逃げてな」
「わかった!」
「ちょっと!」
美波は凛を引っ張り、モニカから離す。そして小声で問い詰めた。
「凛。貴女どういうつもり? まさか取りに戻る気じゃないでしょうね」
「取りに戻るんだよ。あの子の人形を」
「無茶よ。もうあそこは怪獣の巣窟よ!」
「でも、あの子が大切にしてたものだろ。なら持ってこないと。……モニカの願い、また踏みにじるなんてあたしは嫌だ」
その『モニカ』は、あの子のことではない。美波は察することが出来た。
「…………。貴女こそ、引きずってるじゃないの」
「こんなチャンスが、また『モニカ』の願いを叶えられるかもしれないチャンスが来たんだ。報いないと、アタシはもうモニカに顔向けできない」
「……私は反対よ。危険すぎる。今の私たちは丸腰なのよ」
「お前の反対なんか関係ない」
「それに、もう私たちには命令が出てるわ。あの子を避難させて本隊に合流する。命令違反をまたやるつもり?」
「関係ないって言ってるだろ!」
「関係あるわよ!」
モールに声が響いた。美波ははっとして声を潜めるが、それでも語気を強める。
「貴女も私も、特異環境保安官。本部からの指示には従う義務がある」
「それは、モニカの思いを踏みにじってでもか」
「彼女はあの『モニカ』じゃないわ。落ち着きなさい!」
「……お前が10年前もそんな感じだったら」
凛は言う。
「モニカは殺されずに済んだのにな」
その言葉は深く、鋭く、美波の胸に突き刺さった。
「それ、は……」
美波の体から力が抜ける。
「アタシは行くから。美波はモニカを連れて逃げろ。後で追いつく」
凛は吐き捨てるように言って、美波を残して立ち上がった。
「待ってろよ、モニカ。うさぎさん、必ず取り返して来てやるからな」
そう言って、凛は元来た方へと走って行った。
「美波おねーちゃん」
呆然と座っていた美波に、モニカが駆け寄る。
「あのおねーちゃん、大丈夫?」
「……そう、ね。大丈夫よ、きっと」
「おねーちゃんたちにも、モニカちゃんって言うお友達がいたの?」
モニカが首を傾げる。美波は言葉に迷って、小さく呟いた。
「いたよ。今は、モニカちゃんのママとおんなじところ……、天国にいるの」
美波はそう言うと、モニカの手を握った。
「さあ、私たちも行きましょう」
視線は消えていった凛の背中に向けたまま、美波とモニカは反対方向に向かって歩き出した。
美波は歩きながら考える。
モニカが死んでからだ。凛と喧嘩ばかりするようになったのは。
なぜだかわからないけれども、徹底的にそりが合わなくなった。それでもなぜか、お互いに会うことを止められなかった。
凛と一緒にいれば、あの頃に戻れたような気がするからだ。凛もまた、同じように感じていたのではないかと、美波は思っている。
でも。
自分と手を握る、もう一人のモニカを見る。
それでいいのだろうか。このままで。何かがかみ合わなない気がするのに。私は、このまま進んで……。
しばらく歩くと、人の姿が見えた。警察官と特異環境保安官。そして彼らに誘導されるモールの客たちだった。
「佐倉君じゃないか!」
その中に飛鳥の姿もあった。京子も隣にいる。
「無事だったかい? それにしても災難だったね」
「すみません。ありがとうございます」
「いいよ。君の装備はそこに置いてある。早く着替えて……ところで北君は?」
「あいつは……」
美波は口をつぐむ。
「……どうした?」
飛鳥が表情を引き締める。
「まさか」
「すみません。班長」
美波は頭を下げると、モニカを飛鳥に押し付けた。
「この子、お願いします。私は凛を迎えに行ってきます!」
そう言うなり、装備の中から防弾チョッキと銃を持ちだすと、そのまま回れ右をして走り出す。
「あ、ちょっと佐倉君!?」
子供を預けられたからか、飛鳥は動き出すことが出来なかった。
「…………」
京子はそんな美波の様子を、表情のない目で見つめていた。
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