3 鐘(中編)

 遺体いたい安置所あんちじょから、デ・ルーカ博士はくし助手じょし、ダンジェロが文句もんくいながら、てくるところだった。

「ソーレ、大変たいへんなことがこりましたよ。

 南部なんぶの【ふえ】には、解体かいたい処理者しょりしゃたいするカウンター魔術まじゅつ搭載とうさいされていました。

 少年兵しょうねんへいまえに、現地げんちでは『シロップのように爆発ばくはつ失敗しっぱいをさせないように、事前じぜん調査ちょうさみ』でした。

 直前ちょくぜんに、【火の笛】にカウンター魔術をりかけていたなんて、しんじられません。

 わざと、殺傷さっしょうせいたかめていたんです。

 儀礼ぎれい捕虜ほりょなせようとするなんて、どこのブラッドカウントだか!」


「解体処理せずに爆さんさせれば、カウンターのわな発動はつどうしない。小規模しょうきぼの爆はつむ。

 やはり、シロップのようなかんがかたをするほうが戦場せんじょうではのこるな……」

 デ・ルーカ博士とおもわれるじょ性も黒衣こくいたまま、安置所から出てた。


「はじめまして、デ・ルーカ博士だ。

 早速さっそく、ヴィーニュ少年兵がねらわれて、砂糖さとう銀行ぎんこう対応たいおう出来できかった。

 附属校ふぞくこうない危険きけんだ。

 シロップは今後こんごも、実習じっしゅう使用しようする魔術遺産いさん鑑定かんていをしなさい。

 わたしからも校ちょうへきつく注意ちゅういしておく。

 とにかく、彼等かれらてくれ。

 六体ろくたいちゅういっ体に、異常いじょうみとめられる。彼女かのじょなにが起こったか、見当けんとうがつかない。

 まるっきり、はじめてる」



 遺体安置所にはいる前に、防護ぼうごふくとして黒衣をわたされた。

 羽織はおってみたものの、ブカブカでどうしようも無い黒衣。

 収納しゅうのうぶくろには、彼女がいた。

 だけれど……。

「……魔術遺産か?」

「いえ。

 使つかったんです」

「使った?」

「はい、どもをたてにしたんです」


の盾】。

 死んでからも、盾のように強化きょうかされて、退路たいろまもった。

 大人おとなが子どもにかくれて移動いどうすれば、ながれ魔術にたる。

 ということは、「プレスかたたいてのばして、大人とおな身長しんちょう程度ていど」にしてきずられた。

 味方みかたに「盾っぽいかたち」へえられてしまったのが、たった一体だけの異常性をしめしている。


 考えたすえこたえをデ・ルーカ博士たちにおつたえした。

「あのね、おじょうちゃん。

 クレメント統領とうりょうこくもと陸軍りくぐん兵がきみたちのいをしてくれてるんだ。

 君のお世話せわがかりになったソーレのようにね。

 君のような卑怯ひきょうで、ごし退役たいえきじんさい雇用こようされるはずが無いだろう。

 砂糖銀行いん屈強くっきょう勝者しょうしゃしかのこっていない」

 ダンジェロはシロップの考えをさき否定ひていした。

 だれもが否定したかったようだが、迂闊うかつに否定出来なかったようだ。

 仕方しかた無く、おなさけで、ダンジェロが代表だいひょうして、否定した。

 それはかれ仕事しごとでは無いようにおもうけれど。

 このはなしを安置所のすみいていたえらひとが安置所から出て行って大声おおごえ部下ぶか怒鳴どなりつけはじめた。



 それからすぐに、遺体安置所へ連絡れんらくた。

「パウロ支店長してんちょう、いかがでしたか?」

「そこのヴィーニュ少年兵のうとおりだった。

 わたしはこれからほん店へかわねばならない。

 最悪さいあくらせをとどけにね」

 贅沢ぜいたく三昧ざんまいえている御姿おすがたの支店長いわく、儀礼捕虜であるヴィーニュ少年兵とんでいた、元陸軍兵が拘束こうそくされるそうだ。


「アイツは自分じぶん担当たんとうする少年兵を見殺みごろしにした。

 なおかつ、少年兵の遺体を過剰かじょうきずつけた。

 軍法ぐんぽう裁判さいばんにかけられる。

 儀礼捕虜をただしくあつかわなかったのだから、のがれ出来ない」

 ソーレはオフィスのキャレルで報告書ほうこくしょをまとめるために、デ・ルーカ博士にことわって、遺体安置所を出て行こうとした。



 ピキピキッ。

 カラカラカラッ。

 ソーレの黒衣の右袖みぎそでから手袋てぶくろと、義手ぎしゅくずれるようにちていった。

 ダンジェロがデ・ルーカ博士をかばうように盾になって、魔術の詠唱えいしょうを始める。


「黒衣にちるいばらよ まもりたまえ 痛ましい生け垣ペインフル・ヘッジ


 博士を守るだけでなく、安置所で得体えたいれない魔術を行使こうししたわたしを拘束しようと、茨がわたしを包囲ほういし始める。


鉱山こうざん小鳥ことり

 きちんと鳴いておけよ。

 今後、おれあしらないように。

 うらまれて、だまられてちゃ、仕事しごとにならない」

 わたしはソーレの義手をバラバラにしてしまっていたのだ。

 ソーレはわたしのまわりの茨を蹴散けちらして、わたしをつよく、強くせる。


「これでい。

 これで良いんだ。

 ただし、アイツの義には手を出すな。

 アイツは一度いちどあごくだけてから、詠唱が苦手にがてなんだ」

 じゃあ、……じゃあ、戦場になんもどるなよ!!!

 子どもなんか盾にするなよ!!!!!


 シルヴァーノの無い右手と、ある左腕ひだりうでで、抱きしめられた。

 くなった子はわたしをけなしていた子だった。

 アンジェリカの信奉しんぽう者、ファミーユ。

 もう、あのくちからはわたしを馬鹿ばかにするこえこえてこない。



 わたしは遺体安置所から出され、ソーレの義手をつくなおすことに没頭ぼっとうした。

 魔術工具こうぐの無いわたしじゃ、ソーレの義手を直すことが出来ても。

 専門外せんもんがい修復しゅうふく魔術はむずしい。

 ファミーユのペッタンコにされて、ペラッペラになった遺体をもどせない。


損傷そんしょうはげしいんでしょ?

 ちこむ必要ひつよう、無いわよ」


 廊下ろうかから子どもの声がした。

 わたしと同じくらいのとしの子の声。

もと義肢職人しょくにんさん。

 こういうのは葬儀屋そうぎやむすめ、エンバーにまかせなさい」

「良いの?」

「任せてよ。

 貴方あなたがヴィーニュで義肢をつくっていたあいだ、わたしはエンバーミングをやっていたんだから」

 エンバーは魔術工具も無しに、遺体安置所へとはいって行こうとしたが、まった。


「アンジェリカは平気へいきそうなかおをしているって。

 でも、絶対ぜったいつくろってるだけ。

 死にれていないから、死にけている。

 シロップ、アンタは強いね。

 さきに、附属校へ戻ってて」



 わたしはソーレようあたらしい右義手を本人ほんにんの右手くび装着そうちゃくする。

こわして、すみませんでした」

「……いや、クレメンの支援しえん最低限さいていげん品質ひんしつ適当てきとうに作られてたものだった。

 シロップが作った義手は指先ゆびさきまでうごくんだな」

 ソーレは偽物にせものの右手の指先を器用きようげてみせる。

「附属校までおくる」

「いえ、一人ひとりで戻ります。

 本当ほんとうに、すみませんでした」

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