1章 穢れた一角

0 砂糖銀行シアン支店附属校

 貨幣かへいから、砂糖さとうへ。

 終戦しゅうせんからはじまった、この「世界せかい規模きぼ金融きんゆう改変かいへん」。

 いままでは、銀貨ぎんか一枚いちまいでパンがえていたのに。

 砂糖なんグラムで、パンが買えるようになるのか。

 世界の人々ひとびとあいだで、混乱こんらんすくなからずきている。


 はん魔術まじゅつ遺産いさん条約じょうやく寄託者きたくしゃである、砂糖銀行ぎんこう着々ちゃくちゃくと、世界各地かくち開業かいぎょうしつつある暫定ざんていてき「世界政府せいふ」。

 しかし、クレメン統領とうりょうこくモンテしゅうシアンには、「シアン支店してん」というの砂糖銀行支店はい。

「シアン駅前えきまえ店」と「シアン市庁舎ちょうしゃ店」のみ。

 それは何故なぜか。

 クレメン統領国民こくみんなにらされていない。


 かたじられたままのくろとびら

 カーテンがひらかれることが無いおうぎまど

 地元じもとのシアン軟石なんせきとはまったことなる、くろ石造いしづくりの「人気ひとけの無いやかた」。

「砂糖銀行」をしめす「甜菜コンサイのシルエット」の看板かんばんも、どこにも見当みあたらない。


 しかし、そんな秘密ひみつの「シアン支店」には水色みずいろちいさな扉がある。

 この扉をとおったものだけが、そのさきにある建物たてもの


「砂糖銀行シアン店附属ふぞくこう

 ピッチョーネれき元年がんねん五月二日開校かいこう

 この銘板めいばんりつけられたおおきな水色校舎こうしゃることが出来る。



 儀礼ぎれい捕虜ほりょとなった、ヴィーニュ少年兵しょうねんへい

 一期生いっきせい百六十めいひそかに入校にゅうこうして、はや三週間さんしゅうかん


 さわやかな水色の校舎は十階じゅっかいて。

 このたかい校舎からのびた、わた廊下ろうかこうがわには、一期生のりょう彼等かれらのための寮は、「人気の無い館」とおなじ黒い石造り。


 すれちがう少年兵はみなおな制服せいふくている。

 女子じょしこん色のワンピースには、はい色の丸襟まるえりがついている。

 これからは夏服なつふくのため、半袖はんそでのパフスリーブ(ふくらんでいるというよりしぼんでいる)。

 だん子の制服は、灰色のシャツに、紺色のベストとスラックス。

 靴下くつしたれない、かゆくならない、性質せいしつ付与ふよがされた素材そざい

 靴は軍用ぐんようブーツではなく、学生がくせいがよくいていそうなかわ靴。

 ここでは、一切いっさいぼう魔術戦闘せんとう服をあたえられていない。

 作業さぎょうがしやすそうな、実習じっしゅう服も無しだ。

 それは、附属校のそとにあふれかえっている反魔術遺産を、市民にまぎれて解体かいたい処理しょりする機会きかいがいずれ、めぐってるからだ。


 わたしたちヴィーニュ少年兵は、この附属校で軍事ぐんじ訓練くんれんつづける。

 もし、「砂糖銀行」にばれれば、魔術遺産の解体処理へ。

 クレメン退役たいえき軍人ぐんじんのおじさん・おばさんと、おかけしなくてはならない。


「シロップ、どうしたの?

 また、反魔術兵器解体実習で、失敗しっぱいした?」

 どんな学校にも、こういうおせっかいで、面倒めんどうがいる。

 まるで、「みんなのおねえさん・おにいさん」というやくえんじているみたい。

 ウェンディ、いつものことよ」

 おたがいがヴィーニュ出身しゅっしんだということはわかっているけれど。

 ここでは、お互いの個人こじん情報じょうほうかしてはならない暗黙あんもくのルールとマナーがある。


 嗚呼ああ大人おとなたちの、この視線しせん

 戦争せんそうちゅうおもい出す。

 憲兵けんぺいうたがぶかとおんなじ。

 わたしが義肢ぎしづくりばかりして、子どもらしく農業のうぎょう奉仕ほうしをしなかったときの、「愛国心あいこくしんが無い、反乱はんらんの疑いあり」。

 それとまった一緒いっしょだ。

 でも、ほかの子はビクビクしているけれど。

 わたしにはまるで、つうじない。

 ふふふふーん。

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