9話 屋敷の使用人に受け入れられないというテンプレ
茶有に屋敷(式場は茶有の自宅だった!)を案内してもらう。
屋敷の主は茶有で、一人暮らし。姑と小姑は非同居! そこはポイントが高い。
家ではなく、屋敷。縦にも横にもすんごい広い。しかも、山の上に立っているみたいよ? 窓(というか障子)の外は絶景だった!
それだけ広いのだし、おまけに領主サマということで、当然のごとく使用人がいる。
ただし、私の婚礼支度をした女性たちはお義父さんの部下だそう。案内の途中で出会う使用人は初対面ばかりだ。服装が『和装コスプレ』って体なのを割り引いたとしても……なかなかに人外だな。『人に近い』って表現がうなずける。
そして、茶有は使用人に向けては堂々とした雰囲気で対応している。さっきまでとは打って変わったね。ハリセンでぶっ叩いたらすっかりおとなしくなっちゃった人とは思えないよ。
……それはどうでもいいのだけれど、現在進行形でどうでも良くないことが起きている。
非ッ常にとげとげしい視線をあちこちから感じるのよ。
これはアレだ。
ラノベ定番の『屋敷の主に軽んじられているせいで、使用人にまで軽んじられているヒロイン』ってヤツですよ!
見る間に機嫌が悪くなってきた私を、茶有がものすごく気にしてチラチラ見てくる。
チラチラ見るくらいなら、なんとかしてよ! 十中八九茶有のせいでこうなってるんじゃん!
「……使用人全員に、私を紹介してくださいます?」
にっこり、と笑いかけたらブンブンとうなずく茶有。マジヘタレ。
「航気。使用人を集めろ。妻を紹介する」
「――承った」
茶有が家令らしい男(イケメンだがタイプではない)を呼んで、使用人全員を呼び出すように命令した。
茶有とともに板の間へ向かう。続々と集まってきた、えーと……人じゃないけど人扱いしていいのかな? って感じの使用人たちを前に、茶有が私を紹介した。
「私の妻になった〝美衣〟だ。鬼嫁だ」
…………。
全員が、ピキ、と固まった。
私はどうしようかと悩んだが、茶有なりに気を遣い、「俺の女房をナメてんじゃねーぞ、ちゃんと敬え」って脅しをかけてくれたのかもしれないと考え直した。
エヘン、と咳払いして挨拶する。
「このたび、ご縁があって顕界から茶有のもとへ嫁いでまいりました。特技はお祓いで、顕界では勝手に人に憑依したり他人の土地に不法侵入したりする異界の輩を、異界へ穏便にお帰りいただく仕事をしておりました。皆様、どうぞよろしくお願いいたします」
せっかくなので、喧嘩を売っておいた。
いやー、先にインネンつけられていたから、高値で買ったことになるのかな!
茶有は真っ青になっている。
あれ? ナメんなって遠回しに言ってくれたから私もそれなりの挨拶をしたのになぁ。なんで青くなっているのかしら?
ま、言ったことは事実でしかないけどね!
「茶有。素敵な紹介をありがとう。だから私もそれにふさわしい自己紹介をしてみたよ」
茶有はすぐさまお義父さんの言葉を思い出したらしい。
「ごめんなさい」
って言ってきた。絶対わかってないまま謝ったでしょ?
とかツッコミを入れようとしたところで、
「ふざけるな人間の女!」
と怒鳴りつけてきた奴がいた。
確か〝航気〟と呼ばれていた家令だ。黒青髪に赤紫の瞳で、茶有より指三本くらい背が低いがガタイはそこそこ良い。額に短い角を二本生やしているが、かなり人に近い容姿をしている。
そいつが、アワアワしている茶有を無視して私に迫ってきた。
「こちらはお前を嫌々娶ったのだぞ! 茶有様の嘆きを知らず、さらには妻になったのを笠に着た発言、許しがたい! 第一、お祓いだと!? ならば俺を祓ってみよ! 口先だけ――」
スパーン!
「はい、言質いただきましたー」
私は思いっきりハリセンを振り抜いた。
航気とか言う奴は吹っ飛んだ。壁に激突したが、気丈にもこちらを睨んでくる。
「ふ、不意打ちは卑怯――」
スパーン!
「うるせぇ黙れ。『祓ってみろ』ってテメェが言ったんだろうが。望み通りにしてやんよ」
ハリセンでしばき倒しますよ!
――……少々お待ちくださいませ……――
「ご、ごべんだざい、ぼう言いまぜん」
涙と鼻水で顔面をぐちょぐちょにしながら航気が謝ってきた。
「打たれ弱いなー。あれだけ大口叩いたんだからもう少し保てっつーの」
ハリセンで航気の頭をポンポン叩きながら私が言ったら、「ぼうじまぜん!」って泣きながら返す。
「見掛け倒しにもほどがあるわよ。てっきり最終手段を使うことになるかと思ったのに」
私がつぶやいたら、茶有が恐る恐ると言った感じで、
「……最終手段? って?」
と尋ねてきた。
「コイツがギリ入るくらいの壺を用意してもらって、コイツを突っ込んで札を貼って封印すんのよ。反省するまで地中に埋めとけばいい」
って、私は答えた。
よほどの大物じゃない限り封印はしないので、今までやったことがないのよ。今回ぶっつけ本番でやることになると思ったのになー。
聞いた航気は土下座した。両手万歳しながらめっちゃ土下座。
いや、使用人全員が伏せをした。
……図らずして、私はこの異界を掌握してしまったようです。
茶有が航気を助け起こし、鼻をチーンとかませています。
「……だから、【鬼嫁】って忠告したじゃないか。なんで聞かないんだよ」
「……だって、あんなに恐ろしい生き物だなんて思ってもみなかったから。にんげんこわい」
よしよし、と茶有が航気を慰めている。
パッと見は、麗しい二人の友情シーンだわぁ。バックに薔薇の花が飛んでそうな雰囲気よね。私はソッチ系じゃないのでなんとも感じないんだけど、好きな人は好きそう!
「……鬼嫁なので、彼女の怒りを買って〝お祓い〟されていても俺は助けられない。彼女が許してくれるまでひたすら謝れ。父からもそう言われている」
落ち着いた後、再び茶有が使用人全員に諭していた。
全員、ふるふると震えながらうなずいていた。
……いや、そこまでの反応は求めていなかったんですけど……。
その騒動の後、私の私室、とかいう部屋に通された。
ザ・和室だった! うわぁ、旅行で旅館に泊まって以来だ。畳のいい匂いがする!
既に布団が敷いてあるけれど一つだけなので、新婚初夜とかはないらしい。
というか、そういうのってあるのかな?
「存在が違う」って言ってたから、なんかなさそうな気がする。
灯りもまたこれは……。ライトじゃなくて火だよ。危険だなぁ。
「あ、でもこれ、普通の火じゃない」
ボゥ、と曖昧な輪郭が揺らめく。そもそも芯がない。試しに触ってみたら熱くなかった。
「……お、お風呂が沸いております……」
声がしたので振り向いたら……全長149センチの私よりもミニサイズな女中ちゃんが震えながら告げてきていたので、
「ん、わかったありがとう。案内してくれる?」
と、返し、お風呂に入りに行った。
風呂に入った後は爆睡!
夕飯も食べずに寝てしまった。不覚。
朝、飛び起きて、着替えたら私室を出た。
私が起きるのを待っていたらしい昨日の女中ちゃんが、出てきた私に脅えつつも案内してくれた。
やはりというか、起床が遅かったらしく既に皆朝食を終えているらしい。
「朝食を食べたら、茶有のところに案内してくれる? 昨日は茶有と使用人への説教で終わっちゃって、まだ何も聞いていないから」
「かしこまりました」
ようやく声音が落ち着いてきた女中ちゃん。ちなみに、人っぽい形はしているけれど全長が私の上半身よりも短くて、フヨフヨと浮いています。かわいい。
ふと思い出したので尋ねた。
「……そういえばさ、私の婚礼の時に、別の案内係がいたじゃない? 私と同じくらいの背丈で感じ悪い女性。あの子はどうしたの?」
「昨日、お暇をいただいたそうです」
……へ、へぇ~。それは偶然なのか昨日の大暴れが原因なのか……。いいけど。
朝食が出てきた。これまたずいぶんと時代がかった……。
時代劇で見たような、お膳に和食が用意されていた。昨日の婚礼で使ったお膳はデフォだったのか!
――この辺りでいいかげん察すればよかったの。なぜ私がここに嫁入りしたのかを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます