7話 つながらない! けどつながった!

 さて。

 山本さんの息子である茶有には結婚の意思があるようだから(私のスタイルに不満があるようだけど!)、式を続行することになった。

 父親である山本さんを介添人に指名したら参列者がどよめいいたが、山本さんは諦観の表情で式を進めていった。

 いやだって、半分くらい山本さんのせいでもある。恩を売って人身御供みたいに娘を貰うんじゃなくてさ、お見合いおばさんに息子の写真を渡してもらってセッティングしてもらえば良かった、って話よ。探せば、顔が良くて家付きなら異界の住人でもいいわー、って人がいたと思うよ!


 そんなことを考えつつ、山本さんの指示どおりに式を進め、無事終えたが……。

「うん、ダメみたいだね。出だしがアレだったからか、顕界との道はつながらなかった」

 と、告げられた。

「ふーん……。ソレってさ、今すぐ離婚ってことなの?」

 私が山本さんに尋ねたら、茶有はギョッとしてこちらを見、そして父である山本さんを見た。

 山本さんは首を横に振る。

「いや、様子見。たぶん、最初がアレだったから儀式をしてもまだ夫婦だと認められないみたいだな。しばらくしてからもう一度儀式を執り行おう」

 何に認めてもらうんだろう。異界だから異界の神とかなのかな?


 さらに山本さんは言う。

「私がその、清祓札まがいの大扇で打たれつつも説得して捕まえた息子の嫁を、そう簡単にお役御免するわけがないだろう? 確かにあなたには関係ないが、あなたの先祖に裏切られたのは私で、茶有の嫁を用意するために苦労したのも私だからね。そうそう諦めないよ」

 額に青筋を立てつつ笑顔で言われても……。

 茶有は父の発言を聞いてますます縮こまってます。

 私は両手を広げつつ肩をすくめた。


 ともあれ、儀式は行ったので結婚はしたことにはなった。異界の何かに認められてないとしてもね!

 なので、さっそくダンナとなった茶有に尋ねた。

「ねぇ、呼び名だけど、〝茶有〟って呼び捨てでいい?」

 茶有は目を白黒させている。が、最終的に肩を落としてうなずいた。

「私のことは、〝美衣〟って呼んでね」

「わかった。……鬼嫁じゃなくてか?」

「なんか言った!?」

 ボソッと言ったので即ツッコんだら高速で首を横に振る。


 ……イケメンなのに、かなりの残念キャラだよなぁ。

 男のツンデレ……いやデレてはいないか、ヘタレるからツンタレ? さらには、コミュ障の引きこもり。そのくせよけいなひと言を言って周りをぶち壊すという、いろいろ残念すぎてどうしてくれようかと思う。

 いや、贅沢は言うまい。元カレと茶有との大きな差は、結婚願望だ。しばき倒されたのにそれでも結婚したいと思うのだから(そして自力で捕まえようとも思わないのだから)それ以上は望んではいけない。そこまでコミュ障の引きこもりをこじらせているのなら、浮気もしないだろう、と自分を納得させた。

「異界のしきたりは知らないから教えてね。まず、茶有は何をしている人? どうやって生活しているの?」

 気分を切り替えるように私が努めて明るく尋ねると、茶有にキョトンとされた。

「……何も聞いていないのか? 俺は、俺の住む異界を治めている」

 まさかの領主だった!


 山本さんを振り返って見ると、山本さんが苦笑しつつ解説してくれた。

「異界は、顕界のように一つにまとまってない。いくつも異界があり、異界同士もつながっていたりつながっていなかったりする」

 ふーん……。つまり、小さな島がいくつもあって、定期船のように行き来出来る島と出来ない島とあって、それぞれの島に領主がいる、と。

「顕界とは在り方が違うから、深く考えなくていいよ。そういうものだ、と思ってくれ」

 と、山本さんに言われた。なるほど、不思議世界なのか。


 私はうなずいて話を進めた。

「なるほど、治めているのはわかった。収入はそこから得られているのもね。で……。顕界とつながったら、何をするの? 閉じた世界だから顕界のお金なんてないよね? 観光するにも先立つモノが必要だよ、顕界だから」

 私がツッコむと、茶有は固まった。山本さんが頭をかく。

「そうなんだよ。……茶有は力が強いんだけど臆病だから、私のように顕界で楽しむのはちょっと無理かもしれないんだよなぁ。それで、人間の嫁を求めたんだけどね。能力の高い嫁がいたら、顕界に降り立っても修祓されないだろ? 嫁の伝手を頼って守ってもらうっていうか」

 って言われたわよ。

 父のヘタレ宣告に、茶有はふるふると震えている。くやしいなら言い返しなさい! 言いたい放題(しかも妥当)の家族に耐え忍ぶのは、女性向けラノベのヒロインだけに許される特権よ!?

 黙ってる茶有に代わって私が言った。


「既に私に修祓されそうになってたけどね」

「それな」


 いやアンタもだよ、山本さん。

 そう思ったけどツッコミは入れなかった。私は空気が読める人ですから!


 山本さん、去り際に、

「何かしら揉めたら、とりあえず謝っておきなさい」

 というアドバイスを茶有に授けていた。なんだろ、夫婦円満のコツかな?『女房の尻に敷かれておけ』的な。

 茶有は不承不承うなずき、二人で山本さんを見送ったのだが……。

 山本さんがものの数分で走って戻ってきた。

 そして慌てたように言った。


「うちの古民家カフェとここが繋がってるんだけど!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る