13時間で恋人を作らなければ死ぬと宣告された
@handlight
第1話プロローグ
もしも、自分の決意を誰かに聞かれていたとしたら──
自分の夢や願いをあえて人に話すのは照れ臭いかもしれない。しかし、独り言として口にした決意をたまたま聞かれてしまったのなら、それは改めて自分を戒める材料になるだろう。
「よっし決めた!俺は一ヶ月間で必ず恋人を作ってみせる!」
仮に、自分の決意を自身しか知らないのであれば、無かったことにしてもいいし捻じ曲げてしまってもいい。
「絶対!約束!俺は俺に誓うっ。もしできなかったら死んでもいいね。高校生活を薔薇色にするためにも、必ず彼女を作ってやるぜ!」
ところが誰かに聞かれてしまったのなら、そこには責任が生じてしまう。プライドのため、自己のアイデンティティを保つため、はたまた決意を反故にした時の非難を恐れるが故に。
「にゃー」
「あ、机の下にいたのか。ごめんなミール。うるさかったか」
我が家の飼い猫の黒ぶちミールが、不満げな鳴き声を上げて、学習机の下から這い出てきた。
「聞いてくれよミール。今日卒業式ぶりに中学の友達に会ったらさぁ、なんと彼女連れてやがったんだよ!知らない女の子がいて終始気まずいわ、ことあるごとにイチャイチャ始めるわ、挙げ句の果てに俺を小馬鹿にしたような態度とるしよぉっ……」
などと愚痴っていると、突然俺の部屋の扉が開いた。
「さっきからうるさいって兄貴!」
俺に似て少し目つきの悪い妹が、俺の部屋に勝手に入ってきた。
「うおっ、急にドア開けんなよ。もしかして今の会話聞いてた?」
「なに、またペットに話しかけてるわけ。きっしょ。それ会話って言わないから」
「お前だってよくミールに話しかけてる癖に」
「私は兄貴と違ってキモくないし」
俺は携帯を取り出して、いつだったかに撮った動画の再生ボタンを押した。
「ほれ」
そこには、猫の両手を抱えてあやしている妹の姿が映し出されていた。
『にゃーんこだにゃーん?ミールはお手て、ぐっぱ、ぐっぱ。こーんどはグルグルねーこパンチー。ニャンニャン、ニャニャー!』
「きっも!誰これ」
「お前だよ」
「私もきっしょ!」
こいつの暴言先は分け隔てなく平等で潔い。というか、我が妹ながら割と面白いやつだと思う。
そんなこんなで妹を軽く撃退し、俺の照れ臭い決意は誰にも、少なくとも言葉を理解する者には聞かれていないはずだった。
一時の熱に絆されただけの目標は、すぐに俺自身でさえも忘れ去り、自分を戒め、鼓舞してまで取り組むこともない。
そうして、このとある春の日から一ヶ月が過ぎようとしていた。
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