そんな映像、修正してやる!

「ちわーっす」

 また初手から郵便屋か!? とアヤナ隊の基地、訓練スペース内のシスターズ全員がビクッとなった。

 だが門の外にいたのはいつもの郵便屋さんではなく。

 黒髪ロングの若い女性。

 その黒髪も、アヤナとは違った意味での綺麗さがある。スタイルも良い方だし、顔立ちも整っている。若いには若いが、アヤナやシスターズよりも年齢は一回りくらいは上だろうか。

 シスターズらはこの人が、『黙っていれば美人』だと評価されていることを知らなかったけれども。

 そして実はこの人からすればアヤナは孫弟子になるわけだが、二人とも割とざっくりした人なので、普段はそんなの気にはしていない。


 門の外で、笑顔で手を振っているその女性。

 普段ならあぐが『ちょりーっす』とか言って対応に当たるのだが。何故かあぐは郵便屋さん以外には興味がないようである。にこにこしているだけだ。

 ルイが門のほうへ歩いていき……声を掛ける。

「すいません、どちら様で?」

「うむ。アヤナに伝えてくれないか? 南斗五車星 (なんと・ごしゃせい)『雲のジュウザ』が動いた、と!」

「く、くも・じゅーざさん……?」

 あぐがぴょんぴょんした。

「りょーかいですー。るいちゃ、るいちゃ、アヤナ隊長のトコに行きましょー」

「う、うん……」


 あぐとルイは宿舎の隊長室へと小走りになった。他のシスターズやコジ兵長は訓練スペースに残る。自称・雲のジュウザって人は、笑顔で時々片手を振っていた。彼女の黒髪ロングはやはり素敵で映えた。

 隊長室。あぐとルイが部屋に入ると……アヤナとフレイヤ特務少尉といういつものメンツである。

「どうしたの、アグゥ二等兵?」

「はい隊長ー。南斗五車星『風のヒューイ』を名乗る女性がー、基地の入口に来ましたー」

 ルイは

(名前、なんか違うっぽいような)

 とか思っていたが、あぐが自信満々なので何も言えなかった。

 フレイヤが声を上げる。

「なんでしょうかね、隊長。うさんくさいし、追い払っても……」

 アヤナはふぅっとため息をつく。

「なんだかよくわからないけど。いまどき自分から南斗五車星を名乗る人なんてあの人くらいしか思いつかないわ。昔はわりと多かったけど」

#(そうか?)


 フレイヤは少し目が泳いでしまう。

「えーとアヤナ隊長、ご存知で?」

「まあ……。心当たりがなくもない、と言うか絶対にあの人よ。行きましょう」

「はぁ」


 アヤナとフレイヤ、そしてあぐとルイが宿舎の外に出て。基地の出入り口付近に行くと。その黒髪ロングの女性は嬉しそうに手を振ってきた。

 こんなに嬉しそうに感情を出す大人は珍しかった。

「やっほー、アヤナ」

「やっぱりアスリー先生でしたか……」

「ん? なんでさ」

「初手から南斗五車星『風のヒューイ』を名乗る人間なんて、先生ぐらいのものです」

「え? え? 待って待って! 私は『雲のジュウザ』を名乗ったんだけど!? 何かそっちの部隊、連絡がうまくいってないんじゃない!?」

 あぐはいつものようにニコニコしていた。

 ルイは

(あぐが勝手に変な名前を伝えたんだよね?)

 と思っていたが、やはり何も言えなかった。


「まあ先生……こちらへ」

 アスリーはアヤナに先導され、基地の中を歩いて行く。

「うむうむ、アヤナちゃん。この部隊、パッと見は壮観やね」

「はい。まあ……中身とかは今後に期待ということで。それでアスリー先生、本日はどうなされました? ウチからは私の師匠を呼ぶように手配したと思いましたが」

「あー、それねー。ほらアイツ『アヤナのトコは女ばかりで肩身が狭い』って、役目を私に押し付けてきたじゃん?」

「え。そんな話、私聞いてないんですけど」

「え。基地の人に伝えたはずだけど」

「え」


 そこに、あぐがぶんぶん手を振っていた。

「はーい。わたしー、それをそう伝えるようにってー、るいちゃに言いましたー」

 ルイが自分の顔を指差す。

「え、私? 私はコジしゃにそう伝えて……」

 コジは少しうなだれた。

「私は、それをあぐちゃに伝えてしまい……」


 アスリー先生は小声で言う。

「……なんだか永久機関っぽいね」

「いえ、ロスしてるんで。ってか、なくなってるんで……」


 アスリーは、ポンと手を打った。

「そうそう。私はまず個人的に、アヤナちゃんに、『隊長』でなく『アヤナ・インダストリィCEO』の立場として聞きたいことがあったんだ」

「なんです?」

「うん。『瞬活データリンク』、あるだろ? あれの、訓練なくても使えるあの再生機。アヤナのトコの会社が作ってるやつ」

「はい」

「あのメットをショタに被せた状態で、男子風呂に入ってもらってさ。『動画イメージを取得』してもらったんだけど」

「え」

「まだあの再生機あまり出回ってないしで、お風呂の中でも割と人気でさ。うまく……こう、なんというか。多くの未成年男子の裸を撮ってきてもらったんだけど」

「おぅふ……」


#アスリー、世界初のAV撮影(盗撮)に成功。


 アヤナは少し頭を抱える。

「……アレはあくまで『再生機』なのに、どうやってイメージ録画できたのか不思議なんだけど。いやそもそも『脳』に関するモノだから、何かうまくいった……のかな?」

「知らんけど。ま、可愛い男の子の裸見れたのは良いの。それは良い。ただ、さ……」

「ただ?」

「なんか肝心のとこがさー。モザイクかかってるのよ」

「モザイク!?」

「アレ、どーにかならないの?」

 アヤナは少し考え、言った。

「……。いえ先生。そもそも、それって犯罪では!?」

「え。だって。……何罪?」


 その場の全員の視線が、コジ兵長(巡査長)の姿に注がれる。彼女は恐る恐る、言った。

「いえ。まだそんなの出回ってないですから。だからそれを規制する法律なんて、そもそも存在しないので……」

 アスリーはグッと拳を握りしめた。

「ほら! 違法じゃないって言ってるよ!」

「違法と言うか脱法と言うか……ねえコジ兵長。なんとかこの人をしょっぴく法的根拠を考えて!」

 割と常識的な隊長である(時と場合によっては)。

 コジ兵長は考えてから……

「覗き、とかでなんとか……」

「でも私本人は覗いてないもん」

「住居侵入とか……」

「でも私本人は侵入してないもん」

「んー。それじゃあ『青少年育成条例』」

「あー! 私の一番苦手な法律引っ張ってこないでよー!」

#(過去、アスリーは何度か逮捕された模様。一応は全部不起訴らしい)


 コジは不思議そうに呟く。

「ところで前、『瞬活データリンク・再生機』のイメージ体験版やったんだけどね。ほらアヤナ隊長の師匠の戦闘場面とかが映ってるやつ」

 ルイは肯く。

「私も見た見た! なんだか後ろに回って絞め技みたいなのしてた! 本職は魔法使いなのに凄いよね。でもあれモザイクばかりでイライラしたし、よくわからなかった」

 アヤナは髪をサラッとさせながら言う。

「魔法の火力とか動きとか、皆に見せると当人は不利になるからね。本来アレって機密だから。今は修正されてるわ。初期バージョンのは普通に出回っちゃったけど」


 あぐがにこにこ笑顔で対応する。

「それは残念ですー。『無修正モノ』って響きが素敵なのにー」

 アスリーも不満そうだ。

「そうそう! なんでモザイク入ってるのよ! ってことで、アヤナ・インダストリィのCEOに聞きにきたってわけ。教えて、アヤナ先生!」

 アヤナは頬を掻く。

「いえウチの公式から配ってるのは、機密は隠しますけど。個人で何か撮影してるものは、ウチではそもそも関われないですよ? まだ王都でも警察でも取り締まるものがないので、修正するかどうかもその個人の判断ですし」

 アスリーが呟くように言う。

「じゃあ誰が勝手に修正してんのさ」

 アスリーのその言葉にはあぐがこっそり呟く。



「全部カミーユが勝手に修正してるのでは?」



 それを聞いたルイが拳を突き上げる。

「その『女』が全部悪いんじゃないの!」

 #個人の発言です。


 あぐはそのヤベー発言に黙っていた。にこにこの笑顔のまま。


 一方のコジが声を出す。

「モザイクって、卑猥な雑誌の広告に載ってた、モザイク消し機でもどうにもならないかな?」

 ルイは軽く手を振る。

「アレは全然ダメね。最新のテクノロジーが満載された精密機器って書いてあったけど、こう、目薬して薄眼して目をパチパチさせたほうが除去できる感じ」

 #効果には個人差があります。


 あぐは手をぱちぱちする。

「るいちゃ、るいちゃ。凄いノウハウですー!」

「てへ」

「(でも。なんでモザイク除去機の性能なんて知ってるんでしょうねー)」



 ぽん、と手を打つルイ。

「ともあれ。自分の判断で勝手に修正しているのは、『カミーユ』っていう『女』なのね!? 私、ちょっと行ってクレームつけてくる!!」


 アヤナやアスリー、コジは慌てた。

「ちょっ、ちょっとルイ二等兵! 待ちなさい! だいたいその、カミーユって人がどこにいるかもわからないのに……!」


 そこであぐが、満面の笑顔(普段より少し楽しそう)で言った。


「きっとコロニー内の空港ですー。シャトルの発着場ですよー」



「シャトルの発着場ね! 待ってなさいカミーユちゃん!」



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 修正されたらしい。





 あと。


 その時、歴史が動いた。




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