第13話 もしかしてちょっとときめいちゃったとか?
(前回のあらすじ!兄貴が考えた方法をルークくんが実行したら、ユーリー先輩大激怒!ユーリー先輩はものすごく怖いし、兄貴はずっと連写してるし、もうやだ帰りたい!)
最悪の空気、よくわからない面子。
嫌になったヘンリーは心の中でふざけたアナウンスをして現実逃避をしていた。
「図星だからって腕組んで胸盛ってんなよ。」
「関係ないけど。今撮ったのバレてるからね?消して。」
「やだね。」
睨み合っている2人に挟まれて戸惑っているルークの袖をエマが軽く引っ張る。
手招きしてくるエマに促されるまま隣に座る。
反対側の隣に座っているヘンリーは、何だか疲れた顔をしていた。
「2人ともごめんね〜!ブレアとアーロンくん、とにかく仲が悪いの。あの2人が話してる時は近づくなって、私達の学年では有名だよ。」
エマはもう慣れているようで、少し離れた所から2人の様子を伺っている。
いざという時後輩達を守れるように、防御魔法も準備済みだ。
いざという時が来るかもしれないのか……とヘンリーは遠い目をしていた。
「やっぱりいつも兄貴が悪くてこうなるんですよね?すみません。」
喧嘩している2人を横目にヘンリーはエマに謝罪する。
「大丈夫だから謝らないで。いつもはアーロンくんが写真撮ってるのがブレアにバレて、消す消さないで喧嘩になってるのよく見るよ。」
「やっぱり兄貴が悪いじゃないですか。」
アーロンはどうしてこうも怒ったら怖そうな人に絡むのだろうか。
不快そうに淡々とアーロンの挑発に返答するブレアは正直に言うとすごく怖い。
告白してきたルークを振った時も冷たい人だと思ったが、あの時よりも遠慮がないように見えた。
「いつも大体同じ展開になるんだけど、そろそろブレアが――。」
「……いいよ。消すつもりがないならついでに今までのも全部消してあげるから。」
すっかり感化させられて冷静さを欠いたブレアがアーロンに向けて右手を振る。
掌には小さいがメラメラと燃えている火の玉が見えた。
「もう、教室で許可なく火を使っちゃダメだよ!」
こうなることを予想していたエマがすかさず水魔法を発動させた。
水球がブレアの右手を包むと、ブレアは諦めたのか手を下ろした。
「……わかってるよ。」
エマの前に座ったブレアはルークに凝視されていることに気づいて「何?」と怪訝そうに聞く。
「アーロン先輩、先輩といっぱい話できて羨ましい!俺とも喋ってください先輩!」
「羨ましくねーわ!エマが助けてくれなかったらオレ燃えてたんだぞ!?」
「先輩に燃やされたいです。」
至って真剣に馬鹿げたことを言うルークに、アーロンはもはや笑っていない。
ちなみにアーロンは避けきれずに制服を焦がしたことが何回かあるらしい。
「先輩、是非俺と喧嘩してください!……どうしたんですか?」
ブレアは真剣な目で自分の右手を見つめていた。
ルークに声をかけられたブレアははっとしたように手を下ろし、机に顔を伏せた。
「もうやだ。馬鹿の相手疲れた。寝たい。」
「よしよしブレア。挑発に乗っちゃう君も大概馬鹿だよー。」
「……触らないで。」
すっかりいじけてしまったブレアを慰めようとエマが頭を撫でると怒られた。
(オレ、何でこんなとこにいるんだろ……。)
「帰っていい?」と伏せたまま何度も聴いているブレアだが、ヘンリーは誰よりも自分が帰りたいと思っている自信があった。
かといってアーロンとルークを置いて帰るのは不安なので仕方なく座っている。
ブレアも帰りたがっているし、自然な感じに解散しないだろうか?
などと思っているとブレアが顔を上げた。
「それで。一応聞くけど、君は彼に何を吹き込んだのかな?」
頬杖をついたブレアは睨むようにアーロンを見る。
アーロンは仕方なく記録用魔道具をポケットに仕舞い、少し離れた所に座って答えた。
「何でそんなに怒ってんだよ。女はかっこいい言葉で口説かれて、具体的に褒められたいもんだろっていっただけだぜ?」
アーロンの答えにブレアは「それだけ?」と眉を顰める。
アーロンが頷くとブレアは目を丸くする。
「本当に?何か魔法を教えたり、魔道具を持たせたりとかは……。」
「何を気にしてるのか知らねえが、それ以外何も教えてねえよ。」
焦っているのかブレアの様子が少しおかしい。
何度も聞いてくるブレアを訝しんでいたアーロンは何を思いついたのかニヤリと笑った。
「もしかしてちょっとときめいちゃったとか?それで認めたくなくて魔法のせいにしようとしてるとかぷぷぷ。」
「は?そんなわけないでしょ。」
明らかに馬鹿にして笑うとブレアは聞いたことないくらいドスの効いた声で否定した。
怖い怖いーと言いながらアーロンが爆笑するとヘンリーが「すみません!!兄貴いい加減にして!」と勢いよく頭を下げた。
頼むからこれ以上ブレアを怒らせないでくれ。怖いから。
「ねえ、誰かに魔法を習った経験は?」
「ありません。俺、田舎育ちだから魔法が上手い人いなかったので……。」
「ふーん。」
恥ずかしそうに言うルークに適当に相槌を打ったブレアは、ルークの手をキュッと握った。
「えっせせせせせせ先輩!?」
動揺と嬉しさで裏返った声を出すルークのことはまるで気にせず、まじまじとルークの手を観察している。
エマはきゃー!と口元を押さえて歓喜の悲鳴をあげている。
アーロンが魔道具を取り出して写真を撮ろうとすると、ヘンリーが「また怒られるよ!」と小声で注意した。
「……痛い痛い痛い痛い!痛いです先輩!」
「あ、ごめん。」
一同がじっと見ている中、緊張していたルークが突然声を上げた。
ブレアは謝るとすぐに手を離す。
「手取れたかと思った……。」
涙目で手をさするルークをエマは驚きながらも心配している。
「大丈夫?ブレア、何したの?」
「ちょっと魔法で圧力かけてみた。」
「お前のちょっとはちょっとじゃねえんだって!」
何か気になることがあるのかブレアは首を傾げている。
(偶然……?そんなわけないよね。何か隠してる?)
ブレアは注意深くルークの様子を伺うが何を考えているか全くわからない。
元々釣れないブレアだが、ルークへの警戒心をさらに強めることにした。
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