第3話 それってつまり天才ってことですか!?
「――――だから!これからブレア先輩に俺の事をいっぱい知ってもらって、俺もブレア先輩の事いっぱい知ればいいんですよね!?」
だが、ルーク本人だけはそう思っていなかった。
ブレアの手を取り、シトリンの瞳をキラキラと輝かせてアメシストを見つめている。
「はあ!?ちょっと、触らないでくれるかなぁ?あと名前で呼ばないで!」
語気が強く怒鳴り気味に言ったブレアの声は、先程までより少し高く、女性らしさを感じさせる。
ブレアは理解ができない、とでもいうように一層不快そうに顔を歪ませ、パッと手を振り解いた。
「僕には君の言いたいことがさっぱりわからないんだけど。潔く諦めるところじゃないの!?」
「そう簡単に諦められません!お互いを知っていけば、先輩もその気になってくれるかもしれないじゃないですか。だからお友達からよろしくお願いします!!」
「よろしくお願いしますじゃない!僕には君と仲良くするつもりはないよ。」
ブレアは魔法で洗浄した手をさすりながらルークから距離を取るが、すぐにそれ以上の距離を詰められる。
限界まで眉を寄せ、睨むようにルークを見ても全く引く様子はない。
「ほら、人って第一印象が大事って言うじゃないですか。先輩の第一印象は完璧だったので、俺達絶対相性いいですよ!」
「君の第一印象は最悪だけど?」
「そんなの気にしなくていいですよ。塗り替えて見せます!」
「言ってる事違わないかな?大体――」
反論しようとするブレアの肩をリアムがそっと叩いた。
「ほらほら2人ともそこまでにしなさい。そろそろ授業を始めますよ。」
「僕は別に……。」
「ブレアだって熱くなってましたよ。認めなさい。」
リアムが軽くあしらうと、ブレアは不機嫌そうにふいと顔を逸らしてしまった。
やれやれと首を振ったリアムは、今度はルークに笑いかける。
「ディアスさんも、今は授業中だということを忘れないでくださいね。先輩と仲良くなりたいなら休み時間に話しかけるといいですよ。あんな態度ですが、ブレアもあなたと仲良くなりたいんじゃないでしょうか。」
「僕は休み時間でも受け付けてないよ。勝手に変なこと言わないでくれるかな。」
はい!と元気よく返事をするルークに反して、ブレアは睨むような冷たい目を向けている。
「あとブレア、この授業中は寝床に帰るの禁止にします。」
リアムはルークの方を向いたまま、布団に入ろうとしているブレアから魔法で布団を遠ざける。
そのままきっちりと畳んで、教室の隅に置いた。
「酷いなぁ、立っているのもしんどいのに。」
「強化魔法でもかけておけばいいでしょう?」
ブレアはまだ納得していないが、エマはすっかりやる気なようだ。
「一緒に頑張りましょう!」などと言いながらぎゅっと拳を握っている。
ちらりとリアムの方を見ると、もう授業が始まった気になってにこにこと笑いながら傍観している。
ブレアは抗議の視線をリアムに向けていたが、リアムの反応がないと、諦めたのか大きな溜め息をついた。
「……はぁ……仕方ないなあ。わざわざ僕が指導してあげるんだから、『何も成長できませんでした』とかナシだからね。」
「はい!」
「……君は自分の席に座ろうか。」
「はい!」
ブレアは渋々といった様子で自分に強化魔法をかけながら、ルークを冷たい瞳で一瞥する。
来た時と同じように机を飛び越えて着席したルークは、期待に満ちた目を輝かせて姿勢を正した。
大好きなブレアの授業だ。楽しみじゃないはずがない。
「魔法を教えると言っても、何をしようかなあ。誰だって得意不得意はあるだろうし、僕の魔法はあまり参考にならないだろうし。」
ブレアは言いながらさっと右手を振る。
それに合わせて教室の隅に置いてあった予備の椅子がふわりと宙に浮かび、ブレアの元に飛んでくる。
静かに着地した椅子にブレアが腰掛けると、パチパチと拍手が上がった。
「やる気になってくれたならよかったわ。何から始めるの?みんな質問とかやりたいことがあったらどんどん言ってね!」
「はい!」
両手を上げて体を伸ばすブレアを見て、エマは嬉しそうに笑う。
ルークがすかさず真っ直ぐに手をあげた。
「はい、どうぞ!」
「先輩はどんな魔法を使うんですか?」
エマが教師の真似事をしてルークをあてる。
どうでもいい質問が来たら口を塞いでやろうと密かに思っていたブレアだが、案外まともな質問だった。
「私は木属性の魔法が得意よ。他はあんまり得意じゃないけど、基礎魔法くらいなら上手にできるつもり!みんなは木属性魔法得意ー?」
聞きながらエマが手をあげると、数人の手が挙がる。
ブレアも小さく挙げているのを見てリアムが笑っている。
「ありがとー。木属性魔法が得意な子がもっと長所を伸ばしたり、苦手な子が少しでも得意になるお手伝いができたらいいな!ブレアは他にも色んな魔法使えるでしょ?」
「まあ、教科書かここの図書室の魔導書に載ってる魔法くらいなら、一通りできるかな。」
長い髪を指先で弄びながら、ブレアはさも普通の事のように言う。
ええっ!?と驚きの声が上がると、五月蝿そうに顔を顰めた。
魔法は誰でも使えるが、決して簡単なものではない。
それに加え誰しも得意属性・苦手属性などの向き不向きがある。
魔法は大きく分けて5元素あり、教科書には発展魔法まで乗っているため、単純に考えると1人が習得できるのは優秀な人でも教科書の5分の1程度である。
なのにそれを全てやってのけるのは到底不可能だということくらい、新入生でもわかる。
「それってつまり天才ってことですか!?かっこいいです先輩!」
「……別に、そんなのじゃないけど。」
キラキラとした尊敬の眼差しをルークが向けると、ブレアは嫌そうに目を逸らしながら否定する。
「僕には属性の得意不得意とかはほとんどないんだ。ええっと、エマ風に言うと……魔法のことなら力になれると思うよ?」
「さっすが神童ブレア様、頼もし〜。」
「もう、茶化さないでよ。」
ニヤニヤと笑って拍手したエマはぐるりと教室を見回して、全員の反応を確認する。
ブレア先輩の事をもっと知りたい。その一心でルークがした質問したとはいえ、エマがサクサクとわかりやすく話すのでみんな楽しそうに聞いている。
「で、何をしようか。最初だし適正診断でもやってみる?属性のことは流石にわかるよね。」
ブレアがエマの方を見て聞く。
「もっと突拍子のないことを言い出すかと思いましたが、意外と普通ですね。」
「普通で悪いかな。エマは人の特性を踏まえて接するのが得意だから、悪くないと思うんだけど。」
「え、私!?」
驚いているエマに、ブレアは当たり前のように「うん。」と返す。
さっきまでの堂々とした態度と一変して、エマがあわあわと動揺しだす。
「ブレアの方が魔法上手じゃない。私よりブレアがやりやすいようにした方が……。」
「僕はどんなやり方でも合わせられるよ。それに『私がブレアの分も頑張るから、一緒にやろう!』って言ったのは誰だっけ。」
ブレアが軽くエマの真似をしながら話すと、ぷっとリアムが噴き出した。
ほとんど抑揚をつけずに話していたブレアが急に元気よく話し始めたら誰でも笑うに決まっている。
1年生達もくすくすと笑っているが、ブレアは「笑わないでよ。」とリアムに抗議している。
「確かに私が言いました……じゃあ、頑張るね。みんなは適性診断ってやったことあるかな?」
気持ちを切り替えて最初と同じテンションに戻ったエマの一言で、ようやく授業がスタートした。
ほとんど勉強をしたことがないルークには決して簡単ではない内容だったが、ブレアに褒められたい一心で頑張り、何とかついていけた。
ブレアに褒められることは一言もなかったが。
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