夜に明かされた

シジョウケイ

秋月は化けの皮を溶かして

 女は狐だった。



 夜な夜な、誰もが目を引く美女に化けては男をたぶらかし、金品を巻き上げては朝日が昇る前に消えるそうな。その噂ゆえに、村の人間は誰もその狐には近づかなかった。


 だが彼女が、昼間はさえない平凡な格好でいるその女が、狐だということに男は納得できなかった。だから噂を立てる輩に聞いてみた。



「実際には見てないわよ。近づきたくもない」



 どうやら彼女の所業を見た者はいないようだった。輩曰く、ああいうさえない人ほど裏の顔があるらしい。そういうものなのだろうか。


 今、男の眼には、必死に汗を流して畑を耕している狐と、日陰で凝集して噂話に精を出す輩が映っている。



――そういうものなのだろうか。



・・・



 ある夜、男は村の見回りをしていた。いつもは担当する曜日が違うのだが、本来担当するはずの者が隣の町に出ているために代わりを担った。


 虫の鳴く声がそこかしこから聞こえる。夏も終わり、秋に差し掛かる季節。男は夜風で涼みながら、風情を求めて川に寄り道する。



 ――そこには狐がいた。長い髪を後ろで束ね、薄着で川沿いに座っていた。



 男は遠くの草陰に身を潜め、様子をうかがう。狐は手に持った物をずっと見て、笑っているようだった。それは月明かりに反射し、煌々と輝いて見えた。


「それ、なんですか」


 男は思わず陰から出て狐に問う。狐は数刻驚いた顔を見せるも、笑顔に戻る。


「弟の形見なんです。弟は小さい頃から光る石を集めるのが好きで、よく私に見せてきました。でも結核で先月、亡くなったんです」


 口元の笑顔と対照に、目は潤んでいた。男は何も言わなかった。


「先週、父の故郷であるこの村に越してきたんですが、やはりよそ者の私は村民の皆様とは上手くやれず…」


 狐は声を震わせる。深い悲しみと情けなさを含んだ声だった。



「だから毎晩、この川に来ているんです。落ち着くためと、弟の分まで頑張って生きようと思うために」



 あぁ。狐なんていなかった。月光に照らされた彼女の横顔は、とても美しかった。化けてできるような表面的な美しさではない。彼女の心から滲み出る信念の強さ、それがこの凜とした美しさの象徴だと男は思った。


「…僕は、あなたの味方でいますよ」


 男のその言葉に彼女は笑みをこぼす。嬉しさの涙とともに。



 壮大な蛍の光が、川一帯を優雅に輝かせていた。

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夜に明かされた シジョウケイ @bug-u

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