外れたネジ
ライリー
1. バキッ
僕は体育館でドッジボールをしている。そう、バスケットボールくらいの大きさでバレーボールのように柔らかいボールを相手の体に当てるゲームだ。僕は一回り体が大きくて、力もあるから、投げる役を任される。この「投げる」っていうのが最高に楽しい。なぜって?この力がボールに全部乗っかっていく感じ。ボールの腹を横に擦るように投げると、ツバメのように旋回して飛んでいくんだ。そしてそれが狙った所にヒットする、この感じときたらたまらない。僕の能力が全て結果のために研ぎ澄まされたような。
しかし今回は相手が強い。曲がるボールもヒョイと避けられてしまう。こちらに投げられるボールはあまり強くないが、縦回転がかかってるから気をつけないと。キャッチした腕からずり落ちるなんてことになる。しかし本当に当てられない。何というか、僕のボールの行先を予め知ってるような避け方だ。そうしているうちに狙った所にボールが行かなくなる。味方はどんどん減って、ついに一人になってしまった。指の離れ方が違うんだ、また違う、くそ。勝手な方向に行くな。どうにも研ぎ澄まされない。当たれったら。くそ。
その時確かに声が聞こえた。
「ヒヒヒッ」
聞いた瞬間僕の神経はぞわっとする。一体何を笑っているんだ?あ、そっちじゃないってのに。わかってるんだよ。くそ。
「ヒヒ、下手くそすぎ」
はあ?
「マジ当たる気しないんだけど、もう終わりにしていい?」
はあ⁉︎ 何を言ってるんだ⁉︎ おい!!
「何笑ってんだ!」
「『なに笑ってんダ』、ヒヒヒヒ、ダッセェ」
「ダッセ」
「まだ泳がせとこうぜ」
「マジでキレてんのかよ、ハハ、おもろすぎ」
「上手いつもりだったの?これで?アホなん?」
「ほら、逃げろ逃げろ、的デカいんだからよ」
「あー当たっちゃった〜くぁわいそぉ〜」
「泣いちゃう?泣いちゃう?」
「当たったんだから出てけよ、うらぁ」
バキッ。
ボールは放られ、相手は壊されていた。
「あらもう、また壊しちゃったの?」
「ッ・・・」
「すぐ怒るんだからこういう戦うゲームはやめてって言ったじゃない、まあこっち来なさい」
僕は部屋の壁にうずくまるように座った。ガラスが割れるように砕かれたVRゲーム機を見た。
「今度壊したらもう二度と買わせないからね、いい?」
違うよ、そんなことで済ませちゃいけないんだよ。
僕は本当に相手を殺そうとしたんだから。
「君はまだ人との関わり方を知ったばかりだ」と壁が言った。
「相手が何を考えていて、君に対してどう思っているか、君の周りの人はそれを考えろと言うけれど、本当の意味でそれを知ることなんて出来ない。なぜだかわかる?」
「......僕の思っていることは全て僕の見ているものに過ぎないから。」と僕は言った。
「そうだ。ところで」壁は少し冷ややかに笑った。
「君はこのゲームを辞めてしまうのかい?」
「いぃや、」と僕ははっきり言った。
「僕はもう少し『投げる』のを味わっていたい。」
「いいと思うよ」と壁は、今度は優しそうに笑った。
「君の選択は結局君の勝手さ、君の思ってることは君にしかわからないんだから。まあ、その結果何が起ころうとも構わないというならの話だけど。」
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