第2話 凶悪犯との対決

 男に腹を立て店を出たクロードとシルヴィは昨日の公園の噴水前に来ていた。

「同業者があたしたちの妨害に来るなんてね」

「きっといい歳して低ランクのハンターだぜ、しかし、あんなのが出てきたんじゃ早く見つけないとな」

 クロードは焦ったように言った。

 クロードもシルヴィと同じくハンターとして名を上げたいと思っているのだ、その為には高ランクの依頼を達成し実績を得る必要がある、今回の指名手配犯の確保はまさにうってつけだった、何しろ『連続強姦殺人犯ジャック・ボーウェル』の確保はAランク相当の依頼とされているのだ、フリー依頼でなければE級のクロードやシルヴィなどには絶対に受けられない依頼である。

 しかし、先程の店ではあの男が会話に乱入してきてしまったせいで、ジャックを見つける方法についての話が中途半端になってしまった。

 結局のところまた手配書片手にあちこちで聞き回るのかとクロードは考えたが、シルヴィが提案をしてきた。

「ねえ、探すにしてもさ、もっと裏路地とか、そういういかにも犯罪者がいそうな場所にしない、別のチンピラとかに襲われる可能性があるから避けてたけど、今は2人だし、いざとなったら返り討ちにできるでしょ」

 シルヴィの提案にクロードはうなずく。

「ああ、そうだな、よし、じゃあさっそく行くか」

 そして、シルヴィの言う“いかにも犯罪者がいそうな場所”、薄暗い裏路地にやってきた2人はさっそく数人のチンピラに絡まれた。

「へへへ、お二人さん、ガキがこんなところでデートかい?」

「いいねぇ、最近の若い子は」

「おじさんたちといいことしようよ」

 下卑た笑いを浮かべながら3人組の男たちがシルヴィとクロードに近づいてくる。

 シルヴィは嘆息する。

「何ていうか、お約束すぎて言葉も出ないわ」

「おっさんたち、いかにも三流の噛ませ犬って感じだな」

 クロードの言葉にチンピラは激高する、そしていきなり飛びかかってきた。

 クロードは剣を抜くこともなくあっさりと1人の男のパンチをかわすと、カウンターで男の顎に掌底を打ち込む。

 すると男は空中で錐揉きりもみ回転しながら吹き飛んでいった。

「な、なに!?」

「こいつ、強えぇ!」

 戸惑う残る2人のチンピラ、シルヴィはその鮮やかな手並みに賛辞を送る。

「やる~! 自称一流ハンターもまんざらでたらめじゃないのね」

「へへ、まあな」

 チンピラはクロードは手強しと判断したのか、狙う対象をシルヴィに変えて彼女に向けて二人がかりで襲いかかる。

 しかし、シルヴィは慌てず騒がずチンピラたちに片手をかざす。

「エアシュート!」

 シルヴィがそう叫ぶと、彼女の手のひらから空気の塊が発射され、男の一人を吹き飛ばす。

「ぐあっ!」

 男は壁に激突し、そのまま気絶してしまった。

「こ、こっちの娘は術士かよ、しかもこいつも強えぇ!」

 完全に怯えて動きの止まった残る一人の男の股間を無造作に近寄ったシルヴィが蹴り上げる。

「ぐああっ!」

 悶絶する男、クロードは思わず自分の股間を押さえる、その顔色は真っ青になっていた、それほどまでに強烈な一撃だったのだ、男は泡を吹いて倒れてしまう、シルヴィはクロードの方に振り返ると笑顔でサムズアップをする。

(こ、怖えぇ、怒らせないようにしよう)

 クロードはそう心に誓った。

 2人があっさりとチンピラを撃退したのをどこからか見ていたのか、周りの空気が2人に対するを怯えを含んだものに変わる。

 これでもう、余計なチンピラに襲われることはないかもしれない。

 ともかく、クロードとシルヴィは“いかにも犯罪者がいそうな場所”の捜索を続行するのだった。

 しかし、ジャックは一向に見つからない、朝探し始めたというのに空はもうすっかり茜色に変わってしまっている。

「見つかんないわね」

 シルヴィが疲れた声で呟く。

「でも、やっぱり犯罪者って言ったらこのぐらいの時間から活動を開始するもんじゃないか?」

 クロードはそう言いながら辺りを見回す。

 確かに、クロードの言う通り、そろそろ日が沈み始める時間帯だ、犯罪者が活動を始めるにはちょうどいい頃合いだろう。

「こんなことなら、最初から夕方から夜に絞って探したほうがよかったかもね」

 シルヴィは今更ながら自分たちの計画性のなさを悔やむ。

「ああ、そうだな」

 クロードは力なく答える。

 しかし、そんなことを言っていても仕方がない。

 とにかく今はジャックを探すしかないのだ。

 とその時、目の前から一人の男が歩いてくるのが見えた、それはこんな裏路地には不釣り合いなほどの端正な顔立ちをした金髪の美青年だった。

「やあ、お嬢さんたちどうしたのかな?道に迷ってしまったのかい?」

 男は爽やかな笑みを浮かべてそう聞いてきた。

 シルヴィは男のあまりに美青年っぷりに一瞬呆けてしまったがすぐに我に返る。

「いえ、そういうわけでは……」

 シルヴィは慌てて否定するが、男はシルヴィの言葉など聞かずに勝手に話を進める。

「そうかい? でも、ここは危険だよ、僕が送ってあげるよ」

 そう言って微笑む、シルヴィは顔を真っ赤に染めてうつ向いた。

 そして、クロードはシルヴィの前に出ると男に話しかける。

「悪いけど、俺たち急いでいるんだ」

 クロードはぶっきらぼうな口調で言う、シルヴィが男に頬を染めているのが気に入らないのだ。

「そんな事言わないで、君たちを送らせてくれよ」

 言いながら近づいてくる、なぜか全くの無意識にシルヴィもクロードも後ろへと下がってしまう、本能的にこの男が危険な人物だと察知する。

「いや、結構です」

 シルヴィは警戒心を露にしながら断る。

「送らせてくれって言ってるだろ、地獄へさ!」

 男はそう言うと素早くシルヴィに近づき取り出したナイフで切りかかってきた。

「きゃあっ」

 ギリギリのところでシルヴィは避けた、先程の無意識の後退がなければ間違いなく切られていただろう。

 シルヴィはすぐに反撃に出る。

「エアシュート!」

 シルヴィの手から空気弾が発射される、しかし、その攻撃はあっさりとかわされてしまう。

「なっ!?」

 驚愕するシルヴィ、クロードは今度こそ剣を抜き放ち男に斬りかかる、しかし、男は小型のナイフの柄でクロードの長剣を受け止めると、そのままクロードの腹を蹴り飛ばした。

 クロードは吹き飛ばされ、シルヴィを巻き込み地面を転がる。

「ぐっ!」

「うっ!」

 しかし、すぐに2人とも立ち上がる、男はそんな2人を見て楽しそうに笑っている。

「お、お前何者なんだ!?」

 クロードが男に問いかける。

「僕は君たちが探している相手だよ」

 そう言って男は自らの顔に手を当てその皮膚をベリベリと剥ぎ取る。

 シルヴィが小さく悲鳴を上げるが、それは皮膚ではなかった、顔に密着するタイプのラバーマスクだった、そしてその下から現れた顔は、2人の持っている手配書の写真と同じものだった。

「ジャック・ボーウェル!」

 シルヴィが驚きの声をあげる。

「その通り、君たち僕を探していたんだよね、ハンターかな? 無視しても良かったんだけど、よく見たら僕の好みの子がいるじゃないか、これは捕まえておかないとね」

 ジャックはシルヴィを見ながら舌なめずりする。

 シルヴィは恐怖に震えながらも腰に装着していたクロスボウを素早く取り出すと構える。

「く、来るなぁ」

 引き金を引ことするシルヴィだったが、それより早くジャックの投げたナイフがクロスボウを弾き飛ばす。

「つ……」

 クロスボウを取り落としてしまったシルヴィの前にクロードが立つ。

「大丈夫かシルヴィ」

 クロードは剣を構えジャックを睨みつける。

「ふふふ、女の子を守るナイト様ってとこかな、でも残念だねぇ、物語みたいにカッコ良くはいかないんだよ」

 ジャックはそう言ってクロードに向けて手をかざす。

 クロードは咄嵯に身を屈める、すると頭上を何かが通過していくのがわかった。

(今のは……)

 クロードは振り返り背後を見る。

 そこには壁に突き刺さった一本のナイフがあった。

「へぇ、今のを避けるなんて、なかなかやるね、君」

 クロードは冷や汗を流す、身を屈めなければ間違いなくクロードの顔面にナイフが突き刺さっていただろう。

 正確さ、攻撃速度、共に凄まじいものだ、クロードは改めてジャックの強さを実感する。

「クロード、あんたは逃げなさい」

 シルヴィはクロードの前に出て、両手を広げてジャックを威嚇するように叫ぶ。

「馬鹿!そんなことできるかよ!」

 クロードはシルヴィの行動に驚くがシルヴィはクロードの言葉を無視して続ける。

「クロード、あいつの狙いはあたしよ、だから、クロードは街に戻って応援を呼んできて、ここはあたしが食い止めてみせるわ」

 シルヴィは覚悟を決めたように言う。

「くくく、麗しい友情だねぇ、でも残念だけど無意味だよ」

 ジャックはそう言うと片腕を上げる、するとクロードの足元から黒い影が現れ彼の身体に纏わりつく。

「な、なんだぁ!?」

 突然のことに動揺するクロードであったが、影が彼の身体を覆うと、彼は完全に動けなくされてしまった。

「クロード!」

 シルヴィが心配そうに声を上げる。

「ふふ、彼には君が目の前で僕に玩具にされ殺される様をじっくり見てもらおうか、それでその後にゆっくり殺してあげるよ」

 そう言うと、ジャックはゆっくりとシルヴィに近づいていく。

「じょ、冗談じゃないわ、誰があんたなんかに! バーストファイア!」

 シルヴィは自分がとっさに使える最大の威力の術を放った、しかし、ジャックは腕を上げると防御の術を発動する。

「マジックシールド」

 シルヴィの炎は障壁をわずかに突き破るものの、ジャックには火傷すら負わせることができなかった。

「僕の障壁を破るとはなかなかだね、少しだけ熱いかな、でもこれが限界だろう? そろそろ諦めたらどうだい?」

 そう言いながらジャックはシルヴィに近づいて行く。

「く、来るな!」

 シルヴィは必死に抵抗しようとするが、ジャックはシルヴィに手をかざす、すると先程のクロードの時と同じように、足元から現れた黒い影がシルヴィに纏わりつき完全に拘束する。

「うううう!」

 シルヴィは力を込めて打ち破ろうとしてみるがジャックの影による拘束はびくともしない。

「さて、そろそろお楽しみの時間といこうか」

 ジャックはそう言うとシルヴィの顎を掴み自分の方へと向ける。

「やめろぉ!」

 クロードが叫ぶが、彼もまた拘束からは逃れられない。

「ふふ、いい表情だ、じゃあ、始めようか」

 そう言いながらジャックはシルヴィに顔を近づける。

「大丈夫だよ、君は快楽の中で死ねるんだ」

 そう言ってジャックはシルヴィの顔に自らの顔をさらに近付ける、シルヴィはその顔を睨みつけるが、恐怖に震えていた。

「う、うう……」

 ジャックの唇がシルヴィのそれに触れようとしたまさにその瞬間。

 横からの衝撃がジャックを吹き飛ばす。

「ぐあっ!」

 ジャックは壁に打ち付けられ苦悶の声を上げる。

 シルヴィは何が起きたのか理解できず呆然としている。

 クロードも同じく戸惑っている。

 先程までジャックが立っていた場所に一人の男が立っていた、それは朝定食屋でシルヴィたちに忠告を加えたハンターを名乗る男だった。

 気配も何も感じさせずに横からジャックを蹴り飛ばしたのだ。

「くっ!貴様何者だ!?」

 ジャックは素早く立ち上がると、男を睨む。

「こいつらの先輩、ってとこかな」

 男はそう言ってシルヴィとクロードを見る。

 シルヴィとクロードは戸惑うものの、男は自分たちの敵ではないと判断する、どちらにしろ2人は拘束されたままで動けないので、成り行きを見守るしかない。

「先輩? お前もハンターか!」

 ジャックが驚きの声を上げる。

「ああ、そうだ」

 男はそう答えると、ジャックを鋭く見据える。

「ふっ、なら話は早い、お前も死ね!」

 ジャックは素早くナイフを投げる。

 クロードもシルヴィも思わず目を瞑る、男の実力は知らないがジャックは強すぎる、血の海に沈む男の姿が想像できた。

 しかし、なんと男は投げられたナイフを二本の指で受け止めると、そのまま投げ返す。

「ぐっ!」

 投げ返されたナイフを身を捩ってかわすジャック。

「え、い、今何やったの?」

 シルヴィが驚きの声をあげる。

 クロードは黙ったまま状況を見守っている。

「ほう、今のを避けるか」

 そう言うと、男は拳を構える。

 ジャックは舌打ちすると、懐からもう二本のナイフを取り出すと、両手に構えて男に切りかかる。

「しゃぉっ!」

 奇怪な叫び声をあげ素早い斬撃を繰り出すジャックの攻撃を男は最小限の動きだけで避けていく。

 ジャックの攻撃は一撃必殺の威力があるのだが、それを全て紙一重のところで回避していく。

 ジャックは焦りを感じていた。

(なぜだ、なぜ当たらん!)

 だが、ジャックは作戦を考えた、男が最小限の動きでかわすというのならば、手はある。

 ジャックはナイフを繰り出し、男は当然のようにかわす、その瞬間を見計らいジャックは手のひらから術による不可視の衝撃を放った。

「む?」

 威力はないが、男の体勢を僅かに崩し、そこへ必殺の斬撃を繰り出す。

 血がしぶく、しかし、明らかに浅い、ジャックのナイフは確かに男の腕を切り付けていたものの、それは致命傷にはほど遠いものだった。

「やるな、流石は今まで何人もの追手を返り討ちにしてきた高名な殺人鬼だ、腕は立つようだな」

「く、くそぉ!」

 ジャックは悪態をつく、あのタイミングあの間合いで繰り出した必殺の斬撃がほんの少しだけ男の皮膚を切るにとどまったのだ。

 もはや万策尽きたかと考えるジャックだったが、あることを思い出しニヤリと笑う。

「何がおかしい?」

「くくく、残念だが僕の勝ちだよ」

 ジャックの言葉に男が訝しげな表情を浮かべる、その時。

「きゃああああああ!」

「うあああああああ!」

 シルヴィとクロードの絶叫が響き渡る、見ると拘束している黒い影がその締付けをどんどん強くしていた。

「貴様!」

 男がジャックに近寄ろうとする、が

「止まれ、僕に近寄るな、このまま僕が力を込めればあの2人の身体を引きちぎることも出来るんだよ」

 ジャックの言葉に足を止めざるを得なかった。

「人質というわけか、姑息なやつめ」

 吐き捨てるように言う男だったが、ジャックはせせら笑う。

「なんとでも言うんだな、とにかく一歩でも、いや指一本でも動かしてみろ、2人の身体は引きちぎれるぞ」

 男はジャックの言葉が本気であり真実であると悟る。

 男は両手をだらんと下げ無防備に立ち尽くす。

「あ、あたしたちのことなんか気にしないで、こいつを倒してよ!」

 シルヴィが叫ぶ。

「そうだ、こいつを放っておいたらきっとまた大勢の人が殺される、あんたならこいつを倒せる、倒せるはずだ、だから頼む!」

 クロードも必死に懇願する。

「ははは、なんて自己犠牲精神に溢れた少年たちだろうね、こんな子たちを見捨てられるのかい、できないだろう?」

 ジャックは2人の言葉をあざ笑う、男は動かなかった。

「素早く動いて僕が術を強める前に殺せるなんて思うなよ、僕がダメージを受けた瞬間に術が強まるようにしてある、たとえ僕を殺せても彼らは必ず死ぬよ」

「それで、どうすれば2人を解放してくれるんだ?」

 男の言葉にジャックは笑う、

「もちろん、君を殺したあとだよ」

 そう言いながら手にしたナイフを男の喉元に突きつける。

「駄目よ、どうせそいつはあたしたちも殺すつもりなのよ! だったら今ベストなのはあたしたちを見捨ててでもそいつを倒すことでしょう!?」

 シルヴィが必死に訴える。

「そうだよ、早くそいつをぶっ殺してくれぇ!」

 クロードもシルヴィに同調するように声を上げる。

「安心しろ、もっとベストな方法があるからな」

 男はシルヴィとクロードの方を向いて微笑む。

「バカな、そんな方法があるわけがない、僕の術は破れない、君かあの2人のどっちかが必ず死ぬ!」

 ジャックは叫ぶ。その顔には自らの勝利を確信し歪んでいた。

「知ってるかなぁ、破れないって宣言した瞬間に破れるフラグって立っちゃうんだよ」

 唐突に、第三者の声が聞こえてきた、それは店で男と会話をしていた少女のような声だ、全員が反応する前に更に声が響く。

「マジックキャンセラー!」

 声と共にシルヴィとクロードを拘束していた黒い影が消えてなくなる。

 締め付けから解放された2人が倒れ込む、ジャックが目を見開く、彼が何かの行動を起こす前に。

「げふっ」

 男が繰り出した拳が、その腹に突き刺さっていた。

 血反吐を吐いて倒れるジャック。

「おっと、死ぬなよ、死んだら報酬下がるからな」

 男はそう言って倒れたジャックに近づくとその首根っこを掴んで持ち上げる。

 ジャックは完全にその意識を失っていた。

 男は懐から拘束バンドを取り出し、ジャックをしっかりと拘束するこの拘束バンドは術も使えないようする細工が施してあるハンター必携の優れものだ。

 男は気絶して動かないジャックを担ぎ上げると、シルヴィとクロードに近付く。

「大丈夫か」

 男はそう言って2人に手を差し伸べる、まずシルヴィがそしてクロードが男の腕を手を掴み立ち上がる。

「あ、ありがとう、助けてくれなかったら今頃あたしは……」

 シルヴィはそう言って涙ぐむ。

「礼はいい、それより気をつけて帰るんだな」

 そう言って立ち去ろうとする男。

「待って!」

 シルヴィが呼び止める。

「なんだ」

 振り返る男。

「な、名前も名乗らずに行っちゃうわけ?」

 シルヴィの言葉に男は僅かに微笑む。

「ああ、そうだな、俺はリューヤだ」

 それだけ言うと再び背を向けて歩いていこうとする。

「あ、あたしシルヴィ、助けてくれて本当にありがとう!」

「オ、オレはクロードだ! オレからも礼を言わせてくれ、ありがとう」

 男は背を向けたまま片手を上げると、去っていった。

 残されたシルヴィとクロードはしばし放心したようにその場に立っていたが、クロードが口を開く。

「シルヴィ、今の戦い見てたか?」

 クロードの言葉にシルヴィはコクリとうなずく。

「うん、凄かった、まるで流れ星みたいに一瞬で決着がついた」

 シルヴィの言葉にクロードが続ける。

「ああ、それにしてもあの男、強かったな、まさかジャックを圧倒するなんて」

「ほんと、一体何者なのかしら、リューヤって言ってたけど……」

 と、そこでシルヴィははたと気づく。

「リューヤ……リューヤ!!! もしかして、現在S級に最も近いと言われてるあのA級ハンターのリューヤ・ヒオウ!!」

 シルヴィが驚きのあまり大声をあげる。

「え、あの有名な?」

 クロードも驚いている。

「う、嘘でしょ?でも、それならあの強さにも納得がいくかも」

 シルヴィが呟く。

「でも、よく考えてみればジャックはAランク相当の捕獲対象だったはずだ、そいつにあっさり勝てる時点でA級なのは当然か」

 クロードが言う。

「そうね……それにしても、一つだけ謎なことがあるんだけど」

 シルヴィが言う。

「ん?」

 クロードが聞き返す。

「最後に聞こえた謎の声よ、あの声の主がジャックの術を打ち消してくれなかったら、リューヤがいくら強くてもあたしたちは死んでたわ、リューヤはああなることがわかってたみたいだけど、リューヤの仲間とかなのかしら、誰の姿も見えなかったのよね」

 シルヴィの言葉にクロードは首を傾げる。

「そうだな、リューヤに仲間がいるなんて話聞いたこともないしな」

 腕を組み唸っていた2人だったが、結局答えは出ないので、とりあえずホテルに帰ることにした。

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