平成怪奇譚

十井 風

第1話 手洗い場の排水溝の蓋

 これは私が小学二年生の頃のお話です。


 当時、学校では男女八人で班をつくり週替わりで校舎の色々な所を掃除していました。ある時は玄関、ある時は教室の掃除、ある時はトイレ掃除。


 トイレ掃除は中でも一番不人気でした。用を足すところですし、小学生しかいないのでまぁ汚い。臭い。しかも、水を使って掃除をするのでいちいち靴下を脱いで裸足にスリッパで掃除をしなきゃいけない。夏は良いですけど冬は寒いんですよ。

 色々な理由で嫌われるトイレ掃除ですが、私は嫌いではありませんでした。

 きったねぇトイレをピカピカにするのに魂を込めていたので。


 小学校は北と南で校舎が二つあり、南校舎の一階トイレを班のみんなで掃除していました。小学校のトイレは当たり前ですが男子と女子で分かれており、すぐそばに手洗い場が設けられています。

 私は作業を終えて、濡れた足をハンカチで拭こうと手洗い場の隅に腰掛けました。満足いくまで便器を磨いた事に達成感を覚えながら。


 その時、右側からガタガタと音が聞こえたのです。

 何だろうと思い、音の方を見てみると、排水溝の蓋がガタガタ揺れていました。

 どうして揺れているのか不思議でしたが、水か何かが沸騰して蒸気によって蓋が揺れているんだろうかと思い、あまり気にしませんでした。

 このまま揺れが収まるのかと思い、見つめているといきなり蓋がポンッと音を立てて三十センチくらい飛び上がったのです。


 Σ(・□・;)


 驚いた私は、トイレ内で談笑している班の子達にさっき自分が見た事を伝えました。みんな、排水溝を見にトイレから出てきますが、何も起こりません。

 私は必死に先ほど見た光景は本当にあったのだと訴えました。


 録画などしていないのでみんなは半信半疑でしたが、日頃から嘘をつくような子ではないからという理由で信じてもらえました。(日々の積み重ね大事)

 でも、排水溝の蓋は微動だにしていないので「あまり気にすることないよ、もしかしたら見間違えたのかもね」と話が終わりそうになりました。

 私も気のせいなのかもと思いながらトイレ内に戻って上履きを取ろうとした時。


 ガタガタガタガタガタガタガタガタ!


 と、先ほどよりも音が大きく、激しくなっていました。

 恐怖を感じながら排水溝を見ると、かなり激しく蓋が揺れていて、ポンッッと音を立てて三十センチをゆうに超える――五十センチくらい――高さまで浮遊し、ガシャァァアン! と叩きつけられるようにして、蓋が落ちました。


 幸いにも今度の目撃者は私だけでなく、もう一人いたのでその子と顔を見合わせ、

「見た?」

 とお互いさっき見た事が現実である事を確認しました。


 結局、排水溝の蓋が揺れて動くだけで幽霊とかはいなかったのですが、後日手洗い場に行って蓋を確認してみると、蓋は取れないように四隅をネジのようなもので固定されていて鐘のような金属制の重りと一体化していたのです。

 しかも錆びている(変色している)ので最近固定したわけではなさそう。

 これでは、浮くどころか揺れる事も出来ないじゃないか。


 何で揺れて浮いたのかは今も分かりませんが、ポルターガイストに出会ったのは今の所これが最初で最後です。


 後で聞いた話ですが、該当の手洗い場には幽霊がいるという学校の七不思議があったそうです――。

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