第3話 同居者憑き格安住居

 正体不明のソレを床に叩きつけ、勢いのまま、正座させた鈴子。

 その前に仁王立ち、自分の名を名乗ってから、ソレにも己を語るよう促したところで、急に我を取り戻した。

 身の上話を聞きつつ内心では思う存分動揺する。

 夢心地から一気に地の底に叩きつけられた反動で、本来感じるべき恐怖を押し退けた恨み辛みで、ソレに怯むことなく対抗できたまではヨシとしても、だ。


 思ってもみない先制攻撃のせいで、鈴子並に、もしかするとそれ以上に動揺している様子のソレは、時折こちらを伺いながら話し続けている最中。

 顔にもかかる黒く長い髪に、長袖のワンピースにも似た白い服。

 よくある怪談に出てくる格好のようなソレは、自らを幽霊と告げた。


 ――まあ、「話す」や「告げた」と言っても、生身を持たないソレには明確な声はないようで、聞き手の鈴子は、もっぱら発せられる何かしらのモノを感じ取って、自分なりに解釈しているだけなのだが。


 とはいえ、コミュニケーションには不自由しない様子から、鈴子の解釈はソレの「話」とそんなに離れてはいないのだろう。


(つまり……ここには一人で住めない、と)


 聞き終えた最後に鈴子から出たのは、ソレ自体への感想よりも、長らく一人暮らしだった身に、思わぬ同居者が現れたことへの戸惑いだった。

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