言ノ葉、ツムギ、ツヅリ。

裏蜜ラミ

紡と綴

「なあなあ、つづりはさ、何するのが好き?」


「食べ物とかでもいいよ。とにかく好きなもの」


「いや、訊いてみただけだよ、マジマジ。誕生日にサプライズしてやろうとか全然考えてないから」


「あはは、冗談冗談。そもそも誕生日先月だしな」


「ん、ただ、好きなものが知りたいなーって」


「それも何でかって訊かれると、うーん……?」


「……分かんないや。ただ、知りたいって思った」


「綴なら分かるか? この謎の衝動の正体」


「何で黙るんだよ。……ふーん、分かんないかぁ」


「謎だなぁ……誰か解明してくれないかな」


「あ、結局どうなの? ほら、好きなもの」


「……ふむ、ほう……って、全部私と同じじゃん」


「え、何それ。……あ、あい、何? あい、およ? あ、へー、愛及屋烏あいきゅうおくうって読むんだ」


「で、それ意味は何? いや、教えてよ」


「まあいいや、自分で調べるか……え、ダメ?」


「何で? え、忘れろって? どうしたのよ一体」


「分かった分かった。よく分かんないけど忘れる」


「……ん、ああ、可愛いものも好きなんだったね」


「おいこら、可愛いって言うな。気にしてんだよ」


「ああもう、謝るなってば。私は怒ってないから」


「つーかもう降りていいか? ずっと私が乗ってると綴の太腿も辛いだろ。……軽いから大丈夫だと? 可愛いものは愛でるべき? だから降りるんだよ。膝の上に抱かれてるのは、格好よくないだろうが」


「もう高校生だぜ? 子供じゃないんだ」


「こらこら掴むな。抱き締めるな。決定事項だ」


「んしょ……。あー、汗でケツがスースーする」


「えーと……あ、違う違う。話があるんだった」


「……今からちょっと、嫌なこと言うな」


「前から、ずっと言ってたことだけどさ」


「私、格好いい方が良いんだよ。綴からしたらまた別の意見だろうけど、やっぱ私は綴が羨ましいよ」


「背ぇ高くて、声低くて、イケメンで、大きい手。その点私は、身長も声も顔も手も、可愛いって言われるし。せめて、って切った髪も、結局似合うし」


「格好よくなれないならいっそ……とかさ」


「でも、私はここから、いくらでも格好よくなれると思う。格好いいって、見た目だけじゃないから。綴のことだって、時々可愛いなって思うしね」


「それに……可愛いって、いいことだもんな」


「……なあ。綴は、格好いいが嫌いなのか? それとも可愛いが好きなのか? どっちなんだ?」


「……そっか。いや、私はそれでいいと思うよ」


「いい機会だから、本当のこと言うけどさ」


「私、可愛い可愛いって持てはやされるの嫌いだけどさ。綴にだけは、可愛いでも嬉しいんだよ」


「尊敬してるし、憧れてるし。好きだしさ」


「そんな人が、可愛いって言ってくれるんだから」


「好きな人の気を引けて、褒めてもらえただけで、こんな自分でよかった、って思えちゃうんだよね」


「でも、可愛い私でいいとは思わない。格好いい私になりたいって気持ちを、捨てちゃいけない」


「だって、なりたい自分になろうって気持ちを捨てない綴を見てるとさ、それだけで格好いいもん」


「そうありたい、って思うのも、当然だよな」


「同じステージに立って、向き合いたいじゃん」


「……なんか、私ばっかベラベラ喋ってんな」


「……ん? ああ、うん。好きだよ」


「格好いいところも、可愛いところも、全部好き」


「綴の全部が好きで、どんな綴も好きだ」


「……うわー、何か恥ずかしいな……」


「勢いで言っちゃったや。綴、気分とか大丈夫?」


「ごめんな、私も女なのに好きになって」


「……うん……うん」


「格好いい? そっか。すげぇ嬉しい」


「うん? 私が……何?」


「……どうしたの? 綴?」


「……あ、え……」


「………………」


「マジか。そっかー」


「ありがとう、綴」


「綴の声で聞けて嬉しいよ」


「……めちゃくちゃ、嬉しい」


「…………よかった……!」


「あー! 生きててよかったーっ!」


「あー……あはは」


「もう私、今までの人生全部報われたわ」


「……よし」


「私、絶対めちゃくちゃ格好よくなるから」


「綴も、めちゃくちゃ可愛くなっていいぞ」


「どんな綴でも、私は大好きだから」


「いつか、綴がめちゃくちゃ可愛くなった時には、めちゃくちゃ格好よくなった私が、その綴のことをめちゃくちゃ可愛がってあげるからさ」


「──一緒に、頑張ろうな!」

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言ノ葉、ツムギ、ツヅリ。 裏蜜ラミ @kyukyu99

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