尋問相手に気に入られました。
葉ノ
第1話 爪剥ぎ
「マイア・ヴィダル。今日の尋問相手は収容番号27086の『ライ』だ。新人の君に任せるのは心配だが…もう他の人は皆尋問し終えていて、それでも何もわからないのだ。そして新入りにもやらせていって…とうとう君が最後だ。頑張ってくれたまえ」
「はい」
資料を確認し、私は制帽をきゅっと被り直した。
***
――ここは、フレイル国の尋問施設。もちろん、こんな施設なのだから場所・名前・スタッフなどは全て極秘。
どうしてこんな施設があるのかって?
それは、近年では色々な国がスパイを各国に送り込んでいる。そのスパイを収容、尋問するのがこの施設。普通の収容施設には入れられるわけがないし。
そして私はここの新人尋問官。名前はマイア・ヴィダル…だけど、これはコードネーム。ここでは例え同僚であってもお互いのことは一切秘密。ここは極秘施設なのだから。
今日の尋問相手は収容番号27086の『ライ』。半年前ほどにここに収容されたらしいのだが、ほとんど情報がないという。それに彼には色々な噂もあるのだ。
私は資料にあったほんの僅かの情報を反芻する。
名前はライ。東の国(詳細は不明)のスパイ。ずば抜けた身体能力と、桁違いの回復能力を持ち合わせる。それ以上の情報はない。
尋問部屋に入るため、カードキーを認識させ、生体認証をする。聞き慣れた合成音声がする。
〈認証しました。再度入る際はカードキーをご利用ください〉
さあ、当施設一有名な収容者とのご対面だ。
グレーのがらんどうで無機質な部屋に、対面式の机が一つ。薄く反射する防壁の向
こう側の椅子に、彼は座っていた。
「あれぇ?ナイスバディなカワイコちゃんだー!この前までむさ苦しい男共だったのにー!いやこれはテンション上がるわー」
「…五等尋問官のマイア・ヴィダルです。あなたを尋問しに来ました」
私は形式通り名乗る。コードネームだから平気。
「マイアちゃんねー。かわいいねー」
…うっざ。何こいつ。舐めてんの?
改めて相手の姿を見る。ところどころ跳ねた東国の特徴である漆黒の髪、トルマリンのような瞳、白い肌にスタイルのいい体躯。身に纏うのはボーダー柄の上下。それに首、手首、足首には黒い電子錠バンド。
「まぁまぁ、俺と話さない?マイアちゃんからすれば尋問だろうけどー」
真ん中にある対面式の机のこちら側の椅子を引いて正面に座った。ちょうどニヤけた目が合う。
「…あなたの名前は?」
「無視かー。つれない子だね。名前?覚えている呼び名は『ライ』だけだけど?」
そう。彼の正式な名前もまだわからないという。スパイだからそういう感じなんだろうけど。
「そうですか。覚えている名前ねぇ…それ以外はないの?」
「ないね。思い出そうにも思い出せないんだよ」
「思い出そうとすると?」
合間に「もっと別のこと話そ?マイアちゃんのこととか」などと言ってくるが無視。
「頭が割れるくらい痛くなるのさ。なにかの術でもかかってるらしいね」
「術?」
「さぁね。そういう術は不得意だから知ーらない」
少し真面目に話したと思いきや、彼は防壁のギリギリまでずいっと迫る。
「ねぇ、尋問なんだから痛いのとかないのー?いやそれは拷問か。ねぇねぇー」
うっざ。何なの本当に。
「針とペンチなら持ってきたわ。手を出しなさい」
「おぉー。新人らしくオーソドックスなやつだね…」
防壁の隙間から手を出してきた。私はまず針を手に取る。
「うぉほほほ!こりゃ容赦ないねぇ…!カワイコちゃんなのに結構痛くしてくるね。でもそれ以上にゾクゾクするよ…!フフフっ…!」
今、私は彼の指の爪に針をぶっ刺して、爪を剥ぎかねない勢いでグリグリブチブチとかき回してます。
…それなのにこの反応です。
「あなたの国は東国のどこなの?」
「あぁ…今度はペンチ?本格的に剥ぐのかな?」
剥げかけた爪をつかみ、ベリッと剥がす。右手の指はとりあえず全て。
「あぁっ!焦らさずに剥がしてくれるんだね!焦らすのもいいけどひと思いにやられるのもいいよね…あぁっ!」
「無駄口叩いてないで答えて。国はどこ?」
「はぁ…!たまらないね、カワイコちゃんに爪剥ぎされるのは…。国?そんなの覚えてない。そこも含めてすっかり忘れさせられてるのさ」
彼は恍惚とした表情で言った。
「何なの…このド変態…噂には聞いてたけど…」
「あれ?俺に対する最初の感想がそれかー。まあその通りなんだけど。でも徹頭徹尾ツンツンしてる感じがいいねぇー。うん、気に入ったよ。マイアちゃん!」
「誰があんたに気に入られてたまるか阿呆が!」
つい本音が出てしまった。そのついでに爪を剥いだ部分に針をぶっ刺してるけど。
「あぁ…口汚く罵られるのもいいねぇ…。ねぇ、もう一回『阿呆』って言って…!」
「あんたが国を言いなさいよ!」
***
「いやぁ…拷も…尋問の様子を見させてもらったが、これは初めてだ…何かの術のせいで記憶が思い出せないとは…。とりあえず今度もやってもらえるかい?」
正直ものすごく嫌だ。でも上司の命令には逆らえない。下っ端に拒否権はない。私は嫌々なのを隠して言う。
「…承知しました」
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