広告
それから二日が経った。
朝、僕はやはりシイッターを開く。
一昨日、
そこにアクセスすると、いるわ、いるわ。「あと23時間」とか「あと114時間」などと記載された受刑囚アカウント達がいる。試しに見てみると、これがもう見ていられないほど酷いことを言われている。
誹謗中傷していいよ、ということはこんなに恐ろしいことだったのか。
どうやら、この期間中はアカウント削除も認められないらしい。
となると、同じ端末を使って再登録はできないから、叩かれるまま放置するくらいしかなくなってしまうのだろう。シイッター廃人にとってアクセスできないというのは殺されるよりも辛いことだ。
とはいえ、元は自分で蒔いた種ではあるのだろう。
やむをえないことなのかもしれない。
公開処刑関係のシイートは非表示にできるという。もちろん、しておこう。
それを除いたら、大分平穏なシイッターが戻ってきた。
今回の件と、罰金の件とで、シイッターは大分収益を得たのではないだろうか。
「となると、この手の広告は少なくしてほしいなぁ」
『それは無理よ。営利企業なのだから』
「それは分かっているんだけどねぇ」
正直、最近のネット広告は過剰なくらいだ。
Mytubeも含めて、反感しか覚えないようなものも少なくない。広告の目的がまず知られることだ、としてもやり過ぎなものが多い。
「広告、何とかならないのかなぁ?」
『もちろん、イーロソと語り合っているわ。試してみたいシステムがあるから、β版を使ってちょうだい』
言うなり、勝手に僕のスマホにアプリをダウンロードしてくる。
ダウンロードされた『β版クロスα』というアルファなのかベータなのかよく分からないものを見てみる。
中身はシイッターだけど、あれ、広告が全くない?
『驚いたかしら?』
10分ほどシイッターβ版を使っていた僕に、千瑛ちゃんが問いかけてくる。
「驚いたよ。全然、広告がないんだから、これならいくらでも利用できそうだ」
『ただし、右上を見て頂戴』
右上?
あ、『!』となっている表示がある。
見てみると、『広告表示は19時間24分16秒後です。56件の広告を見てもらいます』という説明があり、秒や分がどんどんカウントされている。
「これって、どういうこと?」
『つまり、期限後にまとめて広告を見てもらうわよという告知表示ね。これなら、自分がいつ、どれだけ広告を見なければならないか理解できるでしょ?』
「広告を見なくて済むわけじゃないんだね」
『当たり前よ。ただ、見たくない時に見せられて、イライラするから良くないのであって、最初から見ることを理解していれば、そこまでイライラはないでしょ?』
もう少し試してみると、僕がシイートを読めば読むほど、広告タイムで読まされる広告件数も増えていくようだ。
居残り練習の告知みたいなもののように思えてくる。
『広告タイムの設定はある程度まではできるけど、48時間に一度は読まないといけない仕組みにしてあるわ。広告を見てやってもいい、とかまとめて流してしまうつもりがあるという時に使うのが効果的ね。もちろん、課金すれば額に応じて一定数はスキップできるわ』
「何でもお金だね」
『開業から15年、ずっと赤字だったところなのよ。やむを得ないわ』
それは確かに。
半日後に見てみると、閲覧義務のある広告は498件までに増えていた。
「多すぎない?」
『いつもそれだけ見ているのよ、無意識なだけで。で、それだけイライラさせられているわけ』
確かに、普通のシイッターを開くと、一〇ツイートも見れば二、三件は広告がくっついている。これを一日分にすれば、相当な数になるのは間違いないし、同じ数字になるというのも納得だ。
ただ、いざ数字にされてみると、僕は毎日凄い件数の広告を見せられているんだなと認識させられる。
半日が経過、いよいよ広告タイムがやってきた。
シイートを開くと、確かに一番上からマンガの宣伝サイト、次にゲームの宣伝、時計の宣伝と広告シイートばかりが並んでいる。
『603件流し読みよ。頑張って頂戴もちろん、途中で止めた場合は次のアクセス時に引き継がれるわ』
要は見るしかないということだ。
言われなくてもひたすらスワイプを繰り返す。
しかし、こうやって並べられると色々な広告があるものだと感心する。
『それも実験したいところね。都度アクセスで表示すると、アルゴリズム上位のものばかり表示されて、結果、同じような広告ばかり見る。それに何度も引っ掛かる馬鹿もいるから、決してダメということはないけれど、同じものを見続けてストレスをためる人もいるからね』
「千瑛ちゃん、もう少し言い方というものが」
『こうやってまとめて見せることで、意外な結びつきを期待する効果もあるかもしれないわ』
「それにしても、これは確かに多いや」
『1日20円で、こうしたものを全く気にしなくていいとなると、試してみたくなるでしょ?』
「課金の話か……。まあ、そうかもしれないけど、それもそれで広告主としてはどうなんだろうね?」
千瑛ちゃんはズバッと斬り捨てた。
『こんなところに広告を出す時点でまともなところじゃないから、気にしなくて大丈夫よ』
「そういう言い方は良くないと思うよ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます