アリ地獄

「ここから先は行かせんぞ。少年探偵アーサー」


「待ち伏せか!? あ、扉が! くそ、閉じ込められた!」


「お前の行動などお見通しだ。お前は罠にハマったのだ。言わばここはアリ地獄……お前はそこに落ちた1匹のアリだ!」


「……あの、ちょっと質問があるんですが」


「何だ?」


「アリ地獄って何ですか?」


「え? お前アリ地獄を知らないのか?」


「はい。知らないし見たこともないです」


「そっかー、アリ地獄を見たことないか。俺は子どもの頃田舎で見たことあるけど、やっぱり都会だと見る機会もないだろうからな。えっーと、アリ地獄っていうのはウスバカゲロウっていう昆虫の幼虫で、砂地にすり鉢状の巣作ってアリを誘い込んで捕食するんだけど……」


「すり鉢って何ですか?」


「何!? すり鉢も知らない!? そっか、知らないか。今時の子の家にはすり鉢なんてないのかね。そういえば実家にはあったけど、俺の今の家にもないし、まあしかたないか。えーっと、すり鉢っていうのは料理の道具の一つで、食材をすり潰したりするのに使うんだ。例えばほら、山芋なんかをすり潰してトロロにしたりさ……」


「山芋って何ですか?」


「何!? 山芋を知らない? いや、いくら何でも知ってるだろ……本当に知らないのか? 仮にも探偵のくせに物事を知らなすぎるぞ! まあいいか。山芋っていうのは……まあアレだ! 芋だよ! 芋の一種! 普通の芋より粘り気があってさ、外見は細長くて山とか畑とかで土の深くに埋まっていて……」


「畑って何ですか?」


「ふざけるな! 畑を知らない奴がいるわけないだろ……本気で言ってるのか? 常識知らずとかそういうレベルじゃないぞ! いや、まあ『畑を見たことがない』とかならわかるよ。お前は『畑』というものがどういうものなのかを知らないわけだよな……そうか間違いなく知らないか。仕方ない、教えてやるよ。畑っていうのはだな……あーなんか知ってて当たり前の物を改めて説明するって難しいな! 簡単にいうとな、畑っていうのは野菜が取れる場所だ!」


「野菜って何ですか?」


「嘘だろおい!? 野菜を知らないとか今までどうやって生きてきたんだ? お前小学生だよな? 野菜という概念に触れずにどうやって生活してきたんだよ! 流石に冗談……ではないのか。本当に知らないの? わ、わかったよ。教えてやるよ。野菜というのは……ダメだ! うまく説明できない! 野菜という概念すら知らない無知なお前に『野菜とは何か』って説明なんてできるわけないだろ! 前提条件として物事を知らなすぎるんだから、説明してもまた『〇〇って何です?』って聞かれて全然前に進まないよきっと」


「前提条件って何ですか?」


「ほら見ろ! そうなるって思ってた! あーもうどうすればいいんだよ! これじゃ八方塞がりだ! なんかもうアリ地獄にハマったみたいな気持ちだよ!」


「アリ地獄って何ですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る