龍神様

 私は自宅の近くにある「龍神の祠」の周辺を見回るのを日課としている。この近くには龍神が棲んでいて、怒らせると洪水を起こすという伝説が残っている。


 龍神の祠は滝の近くにあり、眺めがいいので旅行客などがよく来るが、人が多く来る分中にはゴミを捨てて帰るような不届き者もいたりするのだ。だから私はそんな奴がいないように見回りをしている。


 龍神の祠の近くに行くと、3人の若者が写真を撮っていた。旅行に来た大学生か何かだろう。しかし、その中の1人がペットボトルを祠の近くに投げ捨てた。私は彼を怒鳴りつける。


「こら! 龍神の祠にゴミを捨ててはいかん! 祠にゴミを捨てると龍神が怒って災いを起こすぞ!」


 すると、彼はすぐにペットボトルを拾って頭を下げた。


「す、すみませんでした」


 そう素直に謝罪したのだ。


「おいおい。ゴミはちゃんと持って帰らないとダメだろ」


「そうよ、マナーを守らないと。おじいさん、ごめんなさい」


 彼の仲間たちもそう言って彼を嗜めていた。


「あ、ああ。分かればいいんだ」


 私はそれ以上何もいうことができなかった。その後彼らは県外から来たことや今日は麓の旅館に泊まることなどを私に話してくれて、やがて祠から去っていった。


「最近の若者は注意しても素直に聞くようになったな。ちょっと前だったら『龍神なんかいるわけねーだろ』とか言われてバカにされていたのに」


 そして、ため息をつく。


「つまらん。これでは洪水を起こす口実が無いではないか」


 そう、私は普段は人間の老人の姿をしているが、本当は古くから龍神として人間に恐れられている巨大な龍なのだ。この山や川を汚す者や龍神をバカにする者が現れるたびに大暴れして洪水などの災害を起こしていたのだが、最近はそういう者たちがいないので大人しくしている。しかし、そのせいでストレスも溜まっているのだ。


「もういい。別に人間が自然を汚そうが汚すまいがどうでもいい。暴れてやろう。そういえばさっきのやつら麓の旅館に泊まるとか言ってたな。よし、いっちょダムでもぶっ壊して旅館ごと流してしまおう!」


 私は早速龍の姿に戻って天に昇る。そして雷雲を呼び、大雨を降らせ洪水を起こし、ダメ押しとしてダムに体当たりをしてぶち壊して麓の町を壊滅させた。


「ふぅ、久しぶり暴れてスッキリした。やっぱりたまにはこういうことしないとな」


 どうも最近人間たちは、我々龍が「悪いことをしなければ分かってくれる」とか「怒らせなければ害はない」とか話が通じる相手だと勝手に思っているようだ。しかし、龍というのは本来このように凶暴で破壊を楽しみ、ひたすら気まぐれで理不尽な存在なのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る