ゼリー飲料

 私はフリーのライターをしている。


 締め切りが近づくと、私は自室に籠って徹夜で原稿を書く。そんな時は食事の用意するのが面倒なので、ゼリー飲料を買い溜めしておいて、それを食事の代わりに飲んでいる。


 ある日、私はいつものように締め切りに追われて原稿を書いていた。しかし、途中であることに気がついた。丸2日、何も口にしていないのに、全くお腹が減っていない。


「おかしいな。いくら仕事に集中していたとはいえ、全く腹が減らないなんて」


 思い返せば、物を口に入れたのは、一昨日ゼリー飲料を飲んだのが最後だった。明らかに変だ。私は一昨日飲んだゼリー飲料の容器をよく見てみると、驚くべきことが書かれていた。


「え? 『これ一本で一生分のカロリー補給!』だって? 前は『これ一本でおにぎり一個分のカロリー補給!』だったのに、いつの間にかパワーアップしていたのか……」


 通りで腹が減らないわけだ。しかし、そのおかげでより一層仕事に専念できる。私はその後も集中して原稿に取り掛かり、予定よりもかなり早く原稿を完成させた。


 私は完成した原稿のデータを編集部へ送信して、一息をついた。


「とりあえず仕事も終わったし、飯でも食いにいくか。ここのところ、ろくな物を食べてなかったからな……アレ? そういえば腹が全然空いてないぞ? あ、そうだった。もう食べなくていいんだ……」


 そう、一生分のカロリーを摂取してしまった私は、もう食事をしなくても生きていける。便利といえば便利だが、食事をする楽しみが無くなってしまったとも言える。締め切り前はゼリー飲料だけを飲むような生活をしているとはいえ、私は本来美味しいものを食べることが好きな人間なので、残念でならない。


 さらに困ったことがある。私はフリーのライターだが、ライターはライターでもグルメライターなのだ。店に行き、実際に料理を食べてレビューなどを書いていたのだけれど、腹が減らないのでは飲食店へ取材にも行けない。食事をしない分原稿を書く時間が増えたとはいえ、一体私は何を書けばいいのやら。

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