お花見
私はある日家の近くの公園で散歩をしていた。この公園には桜の木がたくさん生えていて、春になるとお花見をするため大勢の人がやってくる。
「あれ、なんだアレは?」
散歩中、私は奇妙なものを見つけた。桜の木下にブルーシートを敷いて、そこに1人の若い男性が座っている。見たところお花見の場所取りをしているようだ。
ここはお花見のスポットなので、場所取りをしているのは普通なら別に変なことではない。しかし、もう桜の花はとっくに散っていて、木には葉っぱしか残っていないのだ。それなのに場所取りなんて変なことこの上ない。気になった私は男に声をかけてみた。
「あの、すみません。あなた何をしてるんですか?」
男は答える。
「あ、はい。見ての通り花見の場所取りです」
「しかしもう桜の散ってますよ。それなのになぜ」
男はため息をついて答える。
「はぁ……実は深い事情があるんです。僕はとある会社に勤めてるんですが、会社で毎年恒例のお花見があって、その場所取りをする係になったんですが……当日寝坊して場所を取り損ねちゃったんですよ。会社の人はみんなカンカンで……」
「それは大変でしたね。でももう済んだことだし、今更ここで場所取りしても意味ないんじゃ……」
男はまた深いため息をついて話す。
「はぁ……いえ、意味はあるんです。社長に『また忘れるといけないから、今の内から場所取りしておけ』と言われてしまって……このずっとここで場所取りしないといけないんです……来年の花見まで……1年間ずっと……」
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