惚れ薬入りチョコレート

 もうすぐバレンタインデー。私は今年密かに憧れている学校の先輩へチョコを渡そうと思っている。


「よし、頑張って手作りチョコを作るぞ! そして今度こそ先輩に『付き合ってください』って言おう! でも急に告白してもダメかもなぁ……」


 私はそんなことを考えながら、バレンタインチョコの作り方をネットで調べていると、興味深い記事を見つけた。


「なになに『相手を惚れさせるチョコの作り方』ってこんなのあるんだ」


 ネットの情報だしあまり信用はできないけど、私は藁にもすがる思いでそのチョコを作ることにした。


「よし、バレンタインデーはまだだけど練習で作ってみよう。えーっと材料は『砂糖、塩、みりん、鶏がらスープ、すっぽんドリンク、干し鮑、鹿の尾、カレー粉、七味唐辛子……さらに自分の爪を混ぜ合わせたものを普通のチョコの材料に入れます』か。よし材料を集めるぞー」


 そして、何とか材料を揃えた私は、試しにチョコを作ってみた。


「できたけど……すごく不味そう。まああんな変な材料を入れたら当然か。とりあえず、ちょっと味見をしてみよう」


 私は試作のチョコを一口食べてみた。


「オェ! まずい! こんなんじゃ先輩に渡せないよ……あれ? 私なんで先輩なんかにチョコを渡そうとしてたんだっけ?」


 不思議なことに、あれほど恋焦がれていた先輩への想いが急速に冷めてしまっていた。


「さっきまで先輩のことあんなに好きだったのに、うーん何でだろう……あれ? 頬っぺたがなんかベタベタする。ああ、さっきチョコ作っている時についちゃったんだ。洗ってこよう」


 私は顔を洗うために洗面所へ向かう。


「あ、やっぱりチョコが頬っぺたについてる……あれ? なんだろう、私ってこんなに可愛かったっけ?」


 私は鏡に映る私の顔を釘付けになる。可愛い、本当に私って可愛い。こんなに可愛い子はこの世にいないんじゃないだろうか。私は私に恋をしてしまったようだ。



 以来私は毎日鏡を眺めて暮らしている。大好きな私がいつも私のそばに居る日々。こんなに幸せなことはない。

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