酒の神

「あーイライラする! こんな時は酒を飲むにかぎる!」


 週末、仕事でムカつくことがあった俺は大量の酒とつまみを買い込んで帰宅した。


 家に帰った俺は早速日本酒をコップに注いで一気に飲む。今日はとことん飲むつもりだ。酔っ払って何もかも忘れてしまおう。


 明日二日酔いになっても構わない。それに明日は仕事は休みだ。たまにはこんな日もあっていいだろう。


「はぁ、うまいなぁ。こんなに毎日大変なんだ。飲まなきゃやってられん」


 そんなことを言いながら一人で酒をがぶ飲みする。その内いい具合に酔っ払ってきて、小声で歌を歌ったりした。




 そんな時、突然俺の部屋に白髪の老人が現れた。


「ん、誰だ? 酒の飲み過ぎで幻覚でも見てるのか?」


 老人は朗らかに笑う。


「ほっほっほっ。幻覚なんかじゃないよ。私は酒の神じゃ。あんたが楽しそうに酒を飲んでいたから、つい釣られてやってきたんじゃ。それにしてもあんたは本当に酒が好きなようじゃな」


「ああ、俺は酒が大好きだよ。酒は俺の最大の友さ!」


 そう俺が答えると、神様はさらに笑って言う。


「ほっほっほっ。そう言ってもらえると酒の神である私も嬉しいねぇ。そうじゃ、せっかくだから何かプレゼントをやろう。私は酒の神じゃから酒に関することならなんでも叶えてやれるんじゃが……」


「な、なんだって!」


 酒に関することならなんでも叶うか。だったら「ビールを百年分くれ」とか「日本酒を1000本欲しい」とかでも叶うのかな。いや、そんなに数だけあっても仕方ない。


 一本数十万するワインや焼酎でも頼もうか。いや、どうせなら神様しかできないことでも願おう。「酒が無限に湧き出てくる泉が欲しい」とか「飲み屋に行くと必ず誰かに奢ってもらえるようになる」とか。それとも……


 俺が色々考えていると酒の神様が何かを閃いたようだった。


「そうじゃ『いくら酒を飲んでも全く酔わない体質になる』というのはどうじゃろう。これなら無限に酒を飲めるし、悪酔いしてトラブルを起こしたり、二日酔いになる心配もない。これじゃ、これに決定! ではさらばじゃ! なーに、礼はいらんよ」


 そう言って神様は煙のように消えていった。同時に急激に酔いが覚めていくのを感じる。


 俺は焼酎をマグカップに注いでストレートで一気に飲んでみた。味はするが全く酔わない。日本酒を飲んでも、ビールを飲んでも同じだった。


 俺はいくら酒を飲んでも酔わない体質になった。逆に言えばいくら酒を飲んでも全く酔えなくなったとも言える。


 俺は酒瓶を部屋の壁に投げつけて叫ぶ。


「なんて事してくれたんだあのクソジジイ! 酒の神のくせに酒を飲む行為の本質を全く理解してねーじゃねーか!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る