もったいないお化け

 ボクは好き嫌いが多くて、よくごはんを残す。今日も夕食に出た酢豚に入っているにんじんとピーマンを食べずに残した。


「野菜もちゃんと食べなさい! 好き嫌いすると大きくなれないわよ!」


 お母さんはそう言って怒ったけど、ボクは聞かなかった、


「いいもん。別に大きくなれなくても」


 お母さんはため息をつく。


「はぁ、本当にいいのかしら。食べ物を残すともったいないお化けが出るのに」


「そんなの出るわけないよ」


「本当よ! 大変なことになっちゃうんだから!」


「お化けなんていないよ」


 ボクは鼻で笑って、そのまま自分の部屋に戻った。



 その日の夜。本当にもったいないお化けが出た。でも全然怖くない。


 お化けはボクと同じ8歳くらいの男の子の姿をしていて「もったいないもったいない」と言いながら空中を浮遊しているだけだ。こんなのちっとも怖くない。


「なんだ。大変なことになんてならないじゃないか」


 しかし、だんだん困ったことになってきた。もったいないお化けがいつまでも消えないからだ。もう寝る時間なのに気が散って眠れない。


「ねぇ! もうどこかに行ってよ!」


 ボクがそう叫んでもお化けは耳を貸さず、ただ「もったいないもったいない」と言うばかり。その夜はなかなか寝付けず、次の日は寝不足で学校に行った。


 しかし、大変なのはこれからだった。もったいお化けが学校にまで着いてきたからだ。


 お化けは「もったいないもったいない」と言いながら教室を飛んでいる。ちっとも授業に集中できず、先生に怒られてしまった。どうやらボク以外の人間には、もったいないお化けの姿が見えないらしい。だから言い訳のしようがない。


 大変なことになってしまったことに気がついたボクは、家に帰ってお母さんに泣きついた。


「お母さん! もったいないお化けが出ちゃった! これからは食べ物を残さず食べるからなんとかしてよ!」


 でもお母さんは悲しそうに言った。


「そう、でも残念だけどお母さんにはどうすることもできないわ。もったいないお化けが一度憑いてしまったら一生離れないって聞いてるから……」


「う、嘘だ! 一生離れないなんて、なんでそんなことお母さん知ってるのさ!」


「実はお母さんも子どもの頃好き嫌いが激しくてよく食べ物を残していたの。それでもったいお化けが憑いちゃって……お寺の和尚さんとか霊媒師とか色々な人に相談したけど『二度と消えないだろう』って言われたの。今も私だけには見えるけど、この部屋の天井をもったいないお化けが飛んでるのよ。でも安心して。今は気が散るかも知れないけどそのうち慣れるから。ほら、現に私だってもったいないお化けに取り憑かれたまま今まで生活してきたわけだし……」

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