クレーマー

 私はレストランを経営している。レストランは海の見える崖の上に建っていて、景色がいいのもあっていつも大勢のお客さんで賑わっている。


 しかし、お客さんが多いのも良いことばかりではない。人が多い分、おかしな客が来ることも多いからだ。今日も厄介な客がやって来たようだ。


「おい! なんだこのうるさい席は! 俺は静かに食事したいんだよ! 他の客を早く黙らせろ! 責任者を呼べ!」


 年配の男性がウェイターを怒鳴りつけている。多分ただクレーマーだ。きっとなんだかんだ文句を言ってから「食事代をタダにしろ」とか言ってくるのだろう。よくいるのだ、ああいう客が。


 クレーマーと困っているウェイターの元に私は駆けつける。


「失礼します。私はこのレストランの店長ですが、何か失礼があったでしょうか?」


「失礼も何もこの席がうるさくて食事ができねーんだよ! どう責任をとってくれるんだよ! 店員も話にならないしさぁ! どういう教育してんだよ!」


 全く話にならない。私は内心イライラしながらも顔には出さず、丁寧に対応した。


「申し訳ありませんでした。お詫びに当レストランのVIPルームにご案内いたします」


 私は店の奥にある「VIPルーム」と書かれた豪華な装飾のドアの前に案内した。


「ふん! 最初からそうすりゃいいんだよ!」


 私は鍵を開け、ドアを開ける。


「ではごゆっくり」


 私はクレーマーの背中を押して、ドアの中に押し込んだ。


「な……」


 そしてすぐにドアを閉め、施錠した。他に誰かが入ると大変だからだ。


 このドアの先には「VIPルーム」など無い。それどころか部屋も何も無い。このドアの先は崖になっていて、ドアをくぐると同時に崖の下の海へと落下するようになっている。この辺りの海流は激しく落ちたらまず助からない上、死体も上がってくることもないそうだ。


 この「VIPルーム」を使ってこれまでに20名ものクレーマーをあの世へ送っており、こうしてレストランの平穏は今日も守られている。

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