痴漢列車

 朝、俺は通勤のため電車に乗っていた。車内は満員で押しつぶされそうだ。


 そんな時俺は前方にいる中年男性の様子がおかしいことに気がついた。よく見ると男は前にいる若い女性の尻を撫で回している。要するにこの男性は痴漢だ。


 どうしたものかと考えていたが、段々と俺の目線は中年男性の尻に釘付けになった。好みの尻を前にして俺はごくりと生唾を飲む。


 そう、俺は同性愛者である。特に中年男性に目がない。俺は思わず男性の尻を鷲掴みにする。男性はビクッと身を震わせたが何も言わずに、黙って俺に尻を揉みしだかれていた。


 なるほど。ここで騒いだら男性も痴漢をしていたことが露見してしまうかもしれない。だから黙って俺に尻を揉まれ続けるしかないのだ。俺は男性の尻を心ゆくまで堪能した。


 しかし、思わぬ事態が起こった。俺の尻を誰かが揉み出したのだ。俺は恐怖で震えながらも後ろを見てみると、中年女性がニヤニヤ笑いながら俺の尻を触っていた。


 声を出して助けを求めようにも、それでは俺が中年男性に対して痴漢行為をしていたこともバレてしまう。黙って俺は尻を揉まれ続けた。


 しかし、そのうちその中年女性の様子もおかしい。まるで痴漢でもされているようにうつむき、身体を震わせている。


 そしてよく周りを見てみると、みんなうつむいて身体を震わせている。みんな痴漢をされているようだ。


 そう、この車内にいる人間は全て痴漢行為の加害者であり、被害者なのだった。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのである。


 欲望と快楽と絶望を乗せた痴漢列車は線路を走り続ける……

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