ハロウィンのヤクザ

 仕事を終えた俺が自分の家に帰り、部屋でくつろいでいるとなんだが外がやけに騒がしかった。


「あ、そういえば今日はハロウィンか。毎年子どもたちが仮装してお菓子をねだりに来るんだった」


 俺が住んでいるこの地域でも、少し前からからハロウィンのイベントが行われるようになったのだが、今年はすっかり忘れていた。


「参ったな、お菓子を用意するのをすっかり忘れていた。じきにうちにも子ども達が来るだろうし、買いに行こうか」


 俺は急いで外に出ようとして立ち上がったが少し考えて、結局お菓子を買いに行くをやめてしまった。


「よくよく考えてみれば別にお菓子を用意する必要なんてないな。だってあいつらは勝手にやってるだけだし、お菓子をあげるために何かをくれるわけでもない。そもそも『お菓子をくれないとイタズラするぞ』というのが意味がわからない。やってることはヤクザとかわらないだろ。よし、今年からは一切お菓子はやらんぞ」


 そう決心した俺は、子どもたちがお菓子を求めてノコノコやってくるのを自宅でじっと待った。


 そして、玄関のインターホンが鳴った。玄関のドアを開けると、魔女だの狼男だのに仮装した、全く怖くない姿の子どもたちが7人いた。


「トリック・オア・トリート! お菓子をくれないとイタズラするぞ!」


 子どもたちはそんなハロウィンお馴染みのセリフを元気いっぱいに叫ぶ。しかし、俺は無条件でお菓子をもらえることを確信し、ニコニコしているガキ共に冷たく言い放った。


「お菓子? 無いよそんなもの」


 案の定、子ども達は驚いているようだ。そもそも仮装するだけで赤の他人からお菓子を貰えるなんて、虫の良すぎる話なのだ。


 しかし、子ども達は意外な行動に出た。


「よし、なら『トリック』だ! みんな武器は持ったな! コイツをぶちのめせ!」


 1人の男の子の号令を呼応し、子ども達は一斉に家の中に侵入してきた。子ども達の手には金属バットや金槌等物騒な武器が握られている。


「ちょ、ちょっと待てよ!」


 俺は子ども達を止めようとしたが、3人がかりで下半身にタックルされ、俺は地面に倒れる。倒れたところを囲まれて、俺は散々殴られ

、蹴られてしまった。


「やめろ! やめてくれ!」


 子ども相手とはいえ、相手は7人もいるのだ。しかも攻撃に躊躇が全く無い。俺は次第に涙声で懇願し始めた。


「お願いします! もうやめて! もうやめてください!」


 やっと攻撃が終わった頃には、俺は身体の痛みで動くことができなくなっていた。


「よし! もっと『トリック』だ! この部屋をメチャクチャにしてやるぞ!」


 今度は持っているバットや金槌で部屋のものを全て破壊し始めた。窓ガラスを割り、壁を砕き、食器から家具まで何もかも壊し始めた。身体の痛みで動けない俺は、それをただ眺めることしかできなかった。


 しばらくの破壊行動の後、満足したようで子ども達は動きを止めた。倒れている俺に構うことなく、子ども達はおしゃべりしている。


「まぁ、この辺にしておくか。あースッキリした。やっぱりハロウィンといえば『トリック』だよな」


「本当だよ。お菓子もらうよりよっぽど楽しいね」


「でも、最近お菓子用意してない家ほとんどないね」


「そりゃそうよ。去年も散々暴れたんだから。もうあたしらのシマでお菓子を用意してないやつなんてそうそういないでしょ」


「まあ、コイツはそうじゃなかったみたいだけどな」


「でもそのおかげで楽しめたじゃん」


「そろそろ次の家に行こう。次の家でも『トリック』できるといいね」


 そんなことを言いながら、子ども達は去っていった。


 来年のハロウィンはみかじめ料……もといお菓子をちゃんと用意しておこう。俺はそう固く誓ったのだった。

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