おっぱい

 ある夜、突然友人が自宅を訪ねてきた。友人は俺の部屋に入ると前置きも無しに長々と話しはじめた。


「俺思うんだけど『死にたい』とか人に言ったり、SNSで発信するのって良くないことだと思うんだよね。だって重たいじゃん『死にたい』って言葉。対面で死にたいって言われてもどうしようもないし、周りの人がずっと気にしちゃうだろ。SNSとかでつぶやいてるのを見るだけでもなんか嫌だよ、『死にたい』って言う字面だけでギョッとするもん」


 俺は相槌を打ちながら友人の言うことを黙って聞いていた。友人は続ける。


「だからさ、俺これから死にたいと思うことがあったら『死にたい』の代わりに『おっぱい』って言うことにしたよ。だって『死にたい』よりもずっと前向きで元気が出る言葉じゃん『おっぱい』って」


 俺は首を縦に振り、友人に同意した。友人はさらに続けて喋る。


「あーそれにしても……おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!」


 俺は友人の「おっぱい!」の連呼を止めずに黙って聞いていた。「おっぱい!」はさらに続く。


「おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい……」


 友人は「おっぱい!」とひたすら叫んでいる、大泣きしながら。


 おっぱいコールが終わっても、友人は俯いて啜り泣いていた。


「なあ、何があったか話してくれるか?」


 俺がそう語りかけると友人はゆっくりと口を開き、今日あった辛い出来事を話しはじめた。

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