青春の1ページ
「好きです! 俺と付き合ってください」
夕暮れの教室で、俺は目の前の女子生徒に告白した。
「はぁ? なんでアンタなんかと付き合わなくちゃならないのよ」
女子は冷たく言い放つ。
やはりダメか。予想はしていたがこうハッキリと断られるとショックだ。しかし、俺は諦めない。何がなんでも彼女と付き合ってやる。こんな時のために、俺は奥の手を用意していた。
「そうか、でもこれを見ても同じことを言えるかい?」
俺は教室の後ろに行き、掃除用具が入っているロッカーを開けた。何か大きなものが、倒れ落ちてくる。それはロープで縛られ動けなくされたある男子生徒だった。口にはガムテープが貼られ、喋れないようにしてある。
「な、何よこれは?」
女子は明らかに動揺している。狙い通りだ。
「この男子、君の彼氏なんだってね? こいつがどうなってもいいのか!? 助けたければ俺と付き合うんだな!」
俺は涙目になっている男子の首元にカッターナイフを当てながら、彼女を脅迫した。
そう、これが俺の奥の手なのだ。まさか彼女も人質を用意していたとは思わなかっただろう。
しかし、彼女は呆れた声で言う。
「はぁ? 違うし。私の彼氏じゃないよ、そいつ」
「な、なんだって!? おい! どう言うことだ!? あんた彼女の彼氏だって言ってただろ!?」
俺は男子生徒の顔を見ると、何か言いたそうな顔をしていたので、口に貼ってあるガムテープを剥がしてやった。彼は涙声で、ゆっくりと話し始める。
「ど、どう言うことだよ……お、俺たち……つ、付き合ってるんだろ?」
震えた声で話す彼に対して、彼女は冷たく言い放つ。
「何言ってるのよ。ただちょっと遊んでやっただけで勘違いとかキモいよお前」
そう言って彼女はロープでぐるぐる巻になった彼を見下してケラケラ笑った。
なんということだろう、この男子生徒は遊ばれていたようだ。
「なんて女だ! 許さない!」
俺はそう叫ぶと、持っていたカッターナイフで男子生徒のロープを切った。ロープが解け、身体は自由になったが、彼はまだ動かない。俺は彼に檄を飛ばす。
「立て! あんたこのままでいいのかよ!」
しかし、彼は立ち上がらず。情けなく呟いている。
「……もういいよ、俺にはもう何もないんだから……」
見ていられなくなった俺は女子生徒の元まで走り、彼女を羽交締めにする。彼女は「何するのよこの変態」とか言っていたが、構わず俺は男子に向かって叫ぶ。
「何もなくたって俺がいる! この女を憎む気持ちは同じだ! 仲間だろ!?」
「な、仲間?」
男子の目に光が戻ってきた。もう少しだ。
「そうだ! 2人で絶対コイツに復讐してやるんだ! 手始めに俺のカバンの中に予備のロープがあるからそいつを取り出して、この女を縛るぞ」
「おう!」
覚醒した彼の行動は素早く、あっという間に彼女をぐるぐる巻きにした。
「よし、じゃあ口にガムテープを貼って、ロッカーに入れて蓋をすれば……よし、完成だ」
「やったな!」
「ああ、あんたのお陰さ!」
俺たちはロッカー前で握手する。
「しかし、ロッカーにアイツを入れたのはいいとして、先生たちにバレたら怒られるんじゃないのか?」
そんなことを不安そうに言う彼に、俺は笑いながら言った。
「大丈夫さ、だって今日卒業式だったじゃん。しばらくはこの3年生の教室に入ってくる人もそうそういないだろうし、俺たちはもう二度と学校に来なければ問題ないさ」
そう、実は今日、俺たちの通うこの高校の卒業式だったのである。
「それもそうだな。そういえば今日卒業式だったんだ。ロッカーに監禁されてて、式に出れなかったから俺忘れてたよ、あはは」
「そりゃ悪かったな、わっはっは」
そう言って2人で大いに笑い、教室を後にした。
夕焼けを背に、俺たち2人は帰宅しながら様々な事を語り合った。学校の思い出、将来のこと、そして恋愛についても話して2人で泣いたりした。
また彼は県外の大学に進学するため、この土地を離れることを教えてくれた。俺も県外の大学に進学する予定だが、彼とは違う大学だ。せっかく友達になれたのに、俺たちは別の道を歩むことになった。
「また会おう」と言う彼に一言「必ず」とだけ言って、俺たちは別れた。それ以上の言葉はいらない気がした。
日はすっかり沈み、辺りは暗くなっている。今日で俺の高校生活もお終いだ。
結局、彼女と付き合うことはできなかったけど、代わりにかけがえのない友を手に入れることができた。今の俺にはそれで十分だ。
彼女なんかよりも大切なことに気づけた、そんな高校生活の最後を飾る青春の1ページ、今日はそんな1日だった。
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