ダイナマイト

 俺の名前は大名舞人(だいなまいと)。ダイナマイトと人間のハーフだ。


 俺の身体は大体は普通の人間と同じだが、一点だけ違うところがある。前髪に一本だけやけに太い髪の毛があり、それが導火線になっているのだ。それに火をつけたら最後、数秒後に俺の身体は大爆発を起こし、俺はもちろん周りにいる人や建物も木端微塵にしてしまう。


 しかし、導火線に火をつけることは死ぬ事と同じなので、滅多なことでは火をつける気はない。導火線に火をつけない限り、俺は普通の人間と変わらないので、今のところただの人として普通の会社で働いている。ただ、ここ最近俺は導火線に火をつけたくてたまらない。


「こんなこともできないのか! このバカが!」


「すみません……」


 俺は今日も課長に怒られている。今の課長に変わってからいつもそうだ。もう嫌だ、死んでしまいたい。いや、どうせ死ぬぐらいならこのこの課長も巻き込んでしまおう。俺は導火線に火をつける決意をした。


 俺のポケットにはいざという時のためにライターが入っている。これを使えば導火線に火をつけられるが、いきなりライターを出したら怪しまれる。なので俺はまずを口にタバコを咥えた。タバコに火をつけるフリをして導火線に火をつけよう。よしよしこれなら怪しまれないぞ。


 俺がタバコを口に咥えたとたん、課長が怒鳴ってきた。


「おい! 上司に怒られている時にタバコを吸う奴があるか!」


 しまった、そりゃそうだ。課長は俺からタバコを奪い取ってしまった。


 くそう、じゃあ次はこの作戦だ。


「課長! ちょっとよろしいでしょうか!」


「あ? なんだ! なんか文句あるのか!」


「課長に言われたことを忘れないようにメモを取りたいのですがよろしいですか!」


「好きにしろ!」


 よし、俺は手帳を取り出して一心不乱にメモをとる。しかしメモは白紙のままだ。俺が握っているペンのようなもの、実はこれ導火線なのである。一心不乱にメモをとっているように見せかけて、導火線を手帳に擦り付けているのだ。そのうち摩擦熱で導火線に火がつくと言う寸法だ。


 しかし思わぬことが起こった。課長が俺を怪しんで手帳を奪い取ったのだ。白紙の手帳を見て課長はブチ切れる。


「おい! どう言うことだ! 何にも書いてないじゃねーか! 舐めてんのかてめえ!」


 くそう、作戦は全て封じられてしまった。こうなったらもう普通に導火線に火をつけるしかない。幸いまだポケットにライターが入っている。俺はそれを取り出し、点火して顔に近づけた。


 すると、課長はライターを奪い取り、俺に掴みかかってきた。くそう、また失敗か。俺が悔しがっていると課長は俺に向かって叫んだ。


「何やってる! 簡単に死のうとするんじゃゃない!」


 どうやら課長は俺がライターで髪の毛に火をつけて焼死しょうとしているように見えたらしい。いや、ある意味ではあっているのだけれど。


「今回は俺も言い過ぎた。すまん。だからもう死のうとするな」


 なんと課長は俺に謝ってきた。そんなこと今までなかったのに。俺は泣いた。


「すみません……もうしません」


「俺も悪かった。さあ、今日はもう就業時間も終わったし、これから飯でも一緒に食わないか? 俺が奢るから」


 課長が晩飯を奢ってくれるなんて初めてだ。いつもは口うるさい課長だけれど、本当はこんなに優しかったんだ。


 もうどうか線に火をつけたりなんてしない、俺は心で固く決心した。





 しかし、その後課長と行った炭火焼肉屋で、肉を焼いている時にうっかり網に導火線を垂らしてしまい、引火。数秒後、俺は大爆発を起こし、俺はもちろん課長も焼肉屋も跡形もなく木端微塵に吹き飛んでしまったのだった。

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